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卒業の節目は、子どもにも大人にも大切なことを気づかせてくれる

スマホの通知が、4年前の写真を知らせてきた。
タップして出てきたのは、長男と同級生たちのピースサイン。隣には、着物で着飾った先生の笑顔がある。小学校の卒業式。
「幼いね」と、妻と笑った。

その卒業式では、PTA会長として祝辞を読んだ。保育園の頃からずっと知っている子も多く、メッセージを考えている時からいろいろと思い出しては涙がこぼれそうになり、元気にその日を迎えられた喜びをかみしめた。
当日は、控室となる特別室で、地域の来賓の方々を迎えることから始まる。日ごろからお世話になっている人たちの笑顔が揃ったところで、校長先生に続いてひとことあいさつをした。毎日見守ってくれているお礼とともに、こう伝えた。
「今年は、我が子がいる前での祝辞です。もしかすると、こみ上げてくるものがあるかもしれません。その時も、ぜひあたたかく見守ってください。」

体育館は、2階にある。控室から出て、廊下を渡り、階段をのぼっている途中で、退職された校長先生が声をかけてくれた。
「今日は、お子さんの卒業なんですね。おめでとうございます。余計なことかもしれませんが、ひとつ、アドバイスさせてください。
我が子のことは、見ちゃいけませんよ。ぐっときて、しゃべれなくなっちゃうから。」

卒業証書を受け取る子どもたちは、どの子も立派だった。名前を呼ばれ、大きな声で返事をし、校長先生の前で証書を受け取る。その姿だけで、泣こうと思えば泣ける。
最後の児童が自分の席に戻り、校長先生からの話が終わると、出番が来た。名前を呼ばれ、立ち上がり、来賓席と先生たちに一礼して、壇上に向かう。ステージ脇の階段に足をかけるのに合わせて、卒業生が起立。そして、ステージの中央で、子どもたちの方に向き直る。

アドバイスは、しっかり守った。我が子は、見ない。

でも、だめだった。

長男の代わりに、周りの子に目を向けてみるけど、どこを見ても知っている顔ばかり。保育園からずっと一緒の子、我が子とよく遊んでいる子、見かけると元気に挨拶してくれる子、うちにも泊まりに来た子、・・・。どの子を見ても、ぐっときてしまった。

結局、もう、ひとことめから涙声。涙だけは流さないようにとこらえるから、何度も詰まって、読み終わるまでかなりの時間をかけてしまった。その姿が、ママさんたちの涙を誘ったようで、
「会長、あれはズルイ!私、泣くつもりなかったのに!」
「もー、化粧ばっちりしてきたのに、泣かせないでくださいよー。」
という言葉をもらった。地域の方からは、
「私への応援メッセージに聞こえましたよ。」
とも言ってもらった。
子どもたちへのお祝いのことばではあるが、大人も一緒に感じてほしいと思っていたから、そう言ってもらえたことはとても嬉しかった。



2021年の今日も、小学校の卒業式です。
4年前は、もっとずっと幼かった子どもたちも、時々会うと背も伸びて、たくましくなっています。あいさつには一瞬の間が生まれて、もうじゃれついてきません。さみしさと、ほほえましさを感じると、自分がいいおじさんになったような気がします。

今日は、卒業式記念ということで、その時の祝辞も載せてみます。ぜひ、読んでもらえたら嬉しいです。

【 平成28年度 卒業式祝辞 】
卒業生の皆さん、そして保護者の皆さま、ご卒業、おめでとうございます。
みんなへのメッセージ、なにを話そうか、いろいろ考えました。
この卒業生には我が子がいます。保育園のころからずっと知ってる友だちもいます。小学校にあがって知り合った新しい友だちもいます。こんなに大きくなって、本当に嬉しいです。
伝えたいことたくさんあるけど、まず先に、お礼を伝えたい人たちがいるので、少し待っていてください。

校長先生をはじめ、諸先生方。
子どもたちをあたたかく指導し、導いてくださって、本当にありがとうございました。個性もそれぞれあって、困らせたことも少なくはなかったと思います。でも、子どもたちを信じ、全力で向き合ってくださったおかげで、立派に今日の日を迎えることができました。
これからまだまだいろんな壁にぶつかって悩みながら成長していく子どもたちです。どうか、あたたかく見守ってくださり、子どもたちが尋ねてきたときには今と変わらずやさしく迎えてください。

地域のご来賓の皆さま。
日頃から、地域全体で子どもたちを見守ってくださって、ありがとうございました。
毎日何の心配もなく子どもたちが学校に通い、放課後にはあちこちで遊んでいるのも、地域の皆さまのおかげです。親としてPTAとして見せていただいて、当たり前ではないことを知りました。
ここは、本当にあたたかい地域だと感じています。ここで子どもたちと過ごせることがとても幸せです。ここを故郷としてこれからも成長していく子どもたちを、引き続き見守ってくださいますようお願い申し上げます。

保護者の皆さまには、PTA活動にご理解とご協力をいただき、とても感謝しています。
僕と同じように、感動で胸がいっぱいのことと思います。当たり前に過ぎていく子どもの小学校生活が、たくさんの人たちに支えられていることを、僕はPTAに関わるようになって知ることができました。子どもたちと一緒に感謝していきたいし、おたがい様の気持ちで協力し合う大人の姿を子どもに見せたいと思うようになりました。
いま、ちょっとだけ周りを見渡すと、始めて見かける顔もあるのではないでしょうか?恥ずかしながら、僕はすべての方を知っているわけではありません。
でも、直接の接点がなくても、いつもは気づかなくても、少しずつでもつながっていることで子どもたちを支えていけるなら、それは素晴らしいことだと思っています。
中学生になったら、子どもたちはますます多感な時期を迎えます。みんなでみんなの子どもを見守るような大きな心で、子どもたちをこれからも支えていきましょう。

さて、卒業生のみなさん、お待たせしました。 主役を待たせてごめんなさい。
僕が、みんなのことを想う時、よく考えることがあります。みんなが今、生きていることと、3つの大きな地震をつなげて考えてしまうんです。
12年前、みんなが生まれてから1歳になるまでの間に、福岡で西方沖地震がありました。
今から6年前、 もうすぐ小学校に入学、という年、東日本大震災がありました。
そして、去年。小学校最後の6年生になってすぐ、熊本地震がおきました。
亡くなられた方、住むところを失った方、今もまだもとの生活に戻れずに困っている方がいます。

こんなとき、僕たち大人は考えます。生きてるってなんだろうって。そして、今生きていることがありがたいんだって。
「未来の自分をプロデュース」の授業では、失敗の反対言葉はなに?って言ってましたね。覚えていますか?
ありがとうにも反対言葉があります。ありがとうの反対言葉は、当たり前です。当たり前に過ごしている毎日でも、それが誰かのおかげだと気づけたらありがとうが生まれます。

さっき話したように 、今日の卒業式を迎えられたのも、先生たち、地域の人たち、保護者の皆さんが、当たり前に毎日を過ごせるように支え合ってるからです。友だちがいてくれたから乗り越えられたこともありますよね。
でも、 なかなか普段はそこまで考えないです。もしかすると、そのために卒業式という節目があるのかもしれません。
だから、今日だけ、少しだけでいいので、ありがたいなっていう気持ちを持ってもらえたら嬉しいです。

そしたら、明日からは、また忘れていいです。

中学校でも卒業式はあります。そこで誰かがまた、感謝しましょうって話してくれます。その時まで、当たり前を忘れてしまうくらい、前を向いて、生きてください。
勉強して、友だちと遊んで、けんかして、失敗して、悩んで、親を困らせて、時々やさしくして、何があっても生き続けてください。
みんなの当たり前を守るのは、僕たち大人の仕事です。君たちが大人になったらその役割がまわってきます。それまでは前を向いて毎日楽しんでください。

僕がお話しさせてもらった授業で、三男が生まれた時の写真を見てもらいました。生きてることは、とてもありがたいんです。どうか、自分のことを大事にして下さい。
自分を大事にするって、基本的なことでいいです。よく食べる、よく遊ぶ、良く眠る、よく勉強する。そうしたら、毎日元気に過ごせます。
そして、皆さんが一人ひとりが大事な存在であるのと同じで、周りの友だちもみんな大事な存在です。
もし、誰かが元気がないようなことがあったら、大丈夫?って声をかけてください。それが心の支えになります。

みんなは、この校区の自慢の子どもたちです。親として、この校区の一員として、きみたちを信じて見守り続けることを誓って、 お祝いの言葉とさせてもらいます。
今日は本当におめでとう!

平成29年3月17日

卒業式のあの場面、今思い出しても、鼻の奥がじんとあったかくなります。

それにしても、長い祝辞ですよね。最後まで読んでくださってありがとうございます。

子どもたちからも、「会長、長かったよ」って突っ込まれました。そんな年もあっていいじゃないって、言い返しながら。

子どもたちにも伝えたように、当たり前に感謝するって、いつも考えておくのは大変です。そのために、節目を大切にしていくのも、いいんじゃないでしょうか。
この記事を読んでしまったのも、何かの節目だと思って、ちょっとだけ身の回りの「当たり前」に感謝してもらえたら嬉しいです。

今年の卒業生は、コロナ禍で自分も大変だっただろうに、下級生のために頑張ってきたことが多かったと思います。
毎日積み重ねてきたことを胸に抱いて、次のステージに足を踏み出してほしいです。

卒業、おめでとうございます。

※illust by:sakazakiさん/ イラストAC

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