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水を縫う【読書のきろく】

好きなことを好きと言える気持ち、大切にしたくなる

去年、たまたまネットで見かけたのが出会いです。新刊のお知らせだったと思います。なぜだか妙に気になって、とりあえず読みたい本としてメモに残しました。
短いタイトルだからか、長男の名前に「水」の字を使っているからなのか、ずっと頭から離れません。時々、ふっと頭をよぎります。発売後しばらくして図書館で蔵書を調べたら、すでにものすごい予約数でした。それでも予約をして気長に待って、1年経って順番が回ってきたのがこの10月です。
ようやく、読めました。

待ちに待ったこの期間には個人的に悶々とすることも多くて、そんな要素も絡み合ったからだと思います。ああ、読めてよかったと思いました。何度も鳥肌が立ち、バスの中で読んでいて涙がこぼれそうになりました。

物語は、高校の入学式のホームルームから始まります。主人公として挙げるなら、出席番号40番の男子高校生でしょうか。そして、彼の家族と友だちが登場します。でも、主人公とわき役という立ち位置ではありません。章ごと視点が変わってにそれぞれの目から一人ひとりが描かれるから、全員がより立体的に現れて、感情移入できました。

家族であっても、一人の個人として尊重されるべき存在。好みも、大切にしている考え方も、生き方も、みんな違う。
違うから、ぶつかったりすれ違ったりするけど、そこにはちゃんと意味がある。巧みに描かれた物語だから、ではなく、それは僕たちの普段の生活そのものだと思わせてくれました。
「普通」ってなんだ?は、大きなテーマです。普通であろうとするために周りに気を遣って、自分を押し殺していないかと、問いかけてきます。

さびしさをごまかすために、好きなことを好きではないふりをするのは、好きではないことを好きなふりをするのは、もっともっとさびしい。
>p.40より

高校1年の少年は、何が好きなのか。彼の友だちは、何が好きなのか。それは読んでのお楽しみ。(Amazonとかで調べたら、すぐ分かるけど・・)

『水を縫う』
ずっと頭から離れなかったタイトル。何かを暗示しているのか、とっても不思議だったけど、「まさに、これしかない!」と言いたくなりました。

登場人物一人ひとりが心の奥に抱えるものに迫りながら、最終章にすべてが重なります。
最終章を読み終えたのは、今朝でした。いつもは学校まで一緒に登校している三男が、今日はひとりで行くと言い出して、あっさり玄関を出ていきます。僕がぽつんと家に取り残された感じです。
誰もいない部屋でひとり、静かに物語に浸りました。涙がこぼれるのを我慢する必要がないのは、しあわせな時間だと実感しました。

好きなことを好きだとストレートに言えること。それは、僕たちを、大きな感動に包んでくれます。

読書のきろく 2021年55冊目
『水を縫う』
#寺地はるな
#集英社

#読書のきろく2021

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