ユメと私
第六章 転機の前の静けさ
「もしもし」
不機嫌な感情が入り混じった私の声は、隠したい私の弱さを逆に強調していた。
「あ、もしもし、おはよう。朝早いから電話に出ないんじゃないかと思ったけど、すんなり出たわね。」
お母さんだ。
母の感は、どうして、こんなにも鋭いのだろうか。どうでもいい人には、さらけ出せる弱さも、心配をかけたくない大切な人には、絶対に知られたくないのに。
慌てて咳払いをして、元気な娘の仮面をかぶる。
「ん”ん”。あ、お母さん?どうしたのこんな早くに?」
「どうしたのって、今日は何してるのかなぁって気になったのよ。ねー、時間があるなら家に帰ってきてくれない?押し入れの片付けでも手伝ってくれたら助かるんだけど。」と、いつもと変わらない母の声が電話先から聞こえきて少し安心した。
今日は、私の29回目の誕生日。誕生日だと言うのに誰かにお祝いされる予定もなければ、仕事もない。何の予定もない寂しい女。
お母さんが押し入れの片付けに来て欲しいって言うのは、私の事が心配だから顔をみたいって言う本当の理由を隠す為のでまかせだってことぐらいはわかっている。
だからこそ、実家に帰りたくないのに。
適当に「うん、帰れると思うけど、また後で連絡する。」なんて言わなきゃよかった。お母さんの気持ちをふみねじるような真似もしたくないし、どうしようかと迷いながらベランダに出てみるとカラッと晴れた青空が広がり、風は冷たいけれど、太陽の光が悩んでたことなんてどうでもいい気持ちにさせてくれた。
「よし、帰ろっ!」
バスで15分の実家までの道のりを、時間をかけて歩いて帰ることにした。
歩いていると、9年前の今日の日の事をふと思い出した。
*
あれは、刺激のないルーティンをこなすだけの日々に飽き飽きしていた社会人2年目だった。仕事も変えたいし、自分自身も変わりたい。なのに、現実は何も変わらなくて、モヤモヤとイライラを抱えながら、一日をやり過ごすような日が続いていた。
あの時の私は、海外の刺激的なラブコメにどっぷりハマっていた。自分には起き得ない非日常に入りこみ、理想の自分が求める世界にどっぷり入り込めたから。その瞬間だけは、理想とは程遠い自分の姿を忘れられる癒しの時間だった。
あの日も、いつもの休日と変わらない日になると思っていた。朝方まで海外ドラマを見て、昼過ぎまで寝て過ごす、そんな、いつも通りの休日。だけど、その日は違った。眠りについて数時間後に、夜中に食べた激辛カップ麺のせいで喉が渇き、眠りが浅くなってしまっていた。
そんな時、ブルブルと枕元で電話が震える。
「うるさいなー。」
スマホのめざまし時計を止めるように、手のひらで画面全体を適当にタッチした。一瞬の静けさのあと、「もしもし。もしもし、宮本さん?」と声が聞こえてくる。ビクッと体に意識入り、目の前にかざしたスマホの画面を見ると、通話中の表示。そして、電話先の相手は、『会社』。
時が止まった。
「もしもし、宮本さん聞こえてる?」
もう後戻りはできない。「あ、お、おはようございます。」
モデルハウスのインテリアを配置する作業員の人手が必要だとか、なんとかで、急いで来て欲しいとお願いされた。口下手な私が、とっさに断る理由を見つけられる訳もなく、渋々行くことに決めた。
「せっかくの休みなのに。はぁ~あ。最悪の誕生日。」と、いつも通りにツイていない私を呪いながらモデルハウスの会場まで行った。
モデルハウスに入ると、小柄な女性が一人でテキパキと動き回っていた。白いシャツに黒いパンツ姿の見た目はスッキリとシンプルなのに、遠くから見てもわかる程に美しくキラキラ輝いていた。
「あ!おはようございまーす。今日、お手伝いに来てくれ方?」と駆け寄ってきてくれた笑顔に心拍数がギュンと上がったのを覚えてる。
彼女の名前は、佐々木かほりさん。当時、フリーランスのインテリアコーディネーターとして、家だけに留まらず、オフィス、病院、学校、レストランなど、あらゆる場所の内装、そして照明や家具、アートなどの細部にまでこだわったセンスの良さで、温もりある場所へと変える魔女として名前が知れ渡り、建築系の雑誌で連載を持つ人気っぷりだった。
「今日は、お手伝いにきてくれてありがとう!本当に助かりました。」と彼女は帰る前に、家の裏で大量の空き箱を潰していた私にわざわざ声をかけに来てくれた。
『このチャンスを逃してはいけない!』と思った瞬間にはもう「私も佐々木さんのようなインテリアコーディネーターになりたいんです。」と自然と口からこぼれ出ていた。
彼女は、驚いた表情で「え~!ありがとう。そんなこと言ってもらえて嬉しい。今日は、この後も仕事があるから、連絡先だけ交換してもらっても良いかしら?今度、ゆっくりお茶でもしながら、お話ししましょう。」と、夢か現実かわからぬ内に去っていってしまった。
そんな一瞬の出来事が私のそれからの人生を大きく変えた。スゴロクで毎回サイコロの6の目が出るように、トントン拍子で前へ前へと進み続けたののだ。
パートで務めていた建築会社を辞め、佐々木さんのお仕事を手伝いながらインテリアコーディネーターの仕事を学び、実家から出て一人暮らしができる経済力もついた。
佐々木さんが創り出したフィルター越しの世界は、私が夢に描いたような充実で満たされた場所だったのに、数年もいれば人は慣れてしまうもの。今、考えれば、彼女が作りあげたフィルター越しの世界なのに、あたかも自分で作り上げた世界だと勘違いしていただけだったのではないだろうか。
そんな勘違いの自信なんて持たなければ、こんなことにならなかったかもしれないのに。後悔しても、もう遅すぎる。
「一人で頑張ります。」って自信満々に、お世話になった 佐々木さんの元を離れ、インテリアコーディネーターとして独り立ちし、なんとかスケジュール帳が埋まるまでに仕事をもらえるまでになった。「仕事も慣れてきたし、あとは、彼氏ができたら私の人生完璧なのに~。」なんて、考える余裕さえあった。
それなのに、なんで?なんで、こんなことが起こるの?意味がわからない。ある日を境に仕事の依頼が完全に止まってしまった。仕事で大きなミスをした訳でもないし、全く見当がつかない。料金の見直しをしたり、契約が以前あった建築会社へも連絡をとったりしたが、今は仕事が無いということだった。
お給料がゼロになる可能性があるフリーランスの仕事っていうのは、最初からわかっていたはずなのに。自分にはそんなことは起き得ないなんて、どうして、そんな風に思えていたのだろか。やっぱり、世の中甘くないし、良いことばかりは続かないのだ。
貯金が趣味だった私の銀行口座には、あと半年ぐらいなら、なんとか生きていける金銭的な余裕はあるけれど、この先どうしたら良いのかわからない。先行きの見えない不安に押し潰されそうだ。
*
久しぶりに実家の家の鍵を開ける。
「ただいま~。」と、誰もいない家に入っていくと、柔軟剤とコーヒーの匂いが混ざったような懐かしい匂いにホッとする。リュックをソファの上にドンと置き、コップ一杯の水を飲んで、作業に取り掛かることにした。
実家を出て以来、私の部屋の押し入れを開けていなく、なんだかドキドキする。
「あれ?もう結構綺麗に片付いてる。実家出る前に片付けたんだっけ?」
一番、大きい段ボール箱を引っ張り出してみる。中には、小、中、高校の卒業アルバムや成績表、作文、賞状やトロフィー。いい思い出だけど、もう取っておいても仕方がないものばかりがぎっしり詰め込められていた。
段ボールから一つづつ取り出して、必要なものと不必要なものに仕分けることにした。片付けなきゃいけないのに、一度手に取ってしまうと一通り目を通したくなっちゃうのが、私の悪い癖。
昔、大好きだった絵本までとってある。ニワトリ、うさぎ、カエル、猫、竜の5匹が宇宙人に囚われて宇宙を大冒険する話。今見ると、なんともシュールな話なんだけど、この絵本が大好きで何度も読んだ。
「あっ、なつかしい。小学校の卒業文集だ。32歳の私からメッセージ。あと三年後かぁ。この大きな夢が叶っていそうにもないんだよなぁ。ごめんね、十二歳の自分。」
夢が叶い始めたと思ったら振り出しに戻っちゃったんだから、もう無理でしょう。せっかく積み上げてきた立場や責任を手放す勇気もないし、今まで通りの生活を続けられたら、それだけでいいのに。こんな大きな夢なんて望まないのに。神様は味方してくれないんだよね。
片付けは一向に進むことなく、気づいた時には日が暮れていた。
母が買い物袋いっぱいの食材とケーキを買って帰ってくると、
「片付けでもお願いしないと、誕生日のお祝いさせてくれないでしょ?今日は、エリーの好きな金目鯛の煮付けと、奮発してシャンパンまで買っちゃった。だから、今日ぐらい泊まって行ってよね。お母さん、毎日寂しいのよ。」って、体調が悪い時や気分が下がっている時に限って連絡してくるし、食べたい物まで知っていた母には頭が上がらない。
美味しいご飯に、シャンパンのアルコールもまわって、母親の企みに乗せられるように、ついつい愚痴と弱音が出てしまう。母は私を励ますようにこう言ってくれた。
「なーに言ってるの!無い無いばっかり言って。あなた、いいものたくさん持ってる。二十代最後の娘の誕生日を祝う母親がいるじゃなーい。あっはっはー!」と、いつも通りの楽観的な母に安心させられた。
「お母さん、明日も仕事だから寝るわね。今日は、久しぶりたくさん話せてよかった。おやすみ。」と言って寝室へ向かったので、私も久しぶりに自分の部屋で寝ることにした。実家を出てもう十年近く経つのに、まだ虹色の毛布とクマのぬいぐるみのココアは捨てられずにベットの上に置かれている。
酔っ払って、ベッドに倒れ込むように横になる。無意識に毛布とココアをたぐい寄せた。香ばしい匂い、落ち着く。お母さんに洗わないでとお願いはしたけど、まだ洗ってないなんて。
「あ〜幸せ。」
ガハガハと豪快に笑うお母につられ久しぶりにお腹の底から笑った。こんなに笑ったのはいつぶりだろう。顔がニヤけたままいつの間にか眠りについた。
さっきまで座っていたダイニングテーブルの上に、ココアが入っていた箱を思い出させるような大きな箱が一つ置いてある。
その箱の後ろからひょっこりと誰かが顔を覗かせた。
「お父さん!」
記憶の中にずっと住んでいたお父さんの笑顔がそこにあった。
嬉しいのに涙がポロポロと止めどなく流れた。
「エリー、お誕生日おめでとう。プレゼント持ってきたよ。」と満面の笑みで大きな箱を私に差し出した。
私は、早く箱を開けたいのに、喜びと焦りで手元が震えている。
大きな箱を開けると、手のひらサイズのメッセージカードが一枚入っていた。
『おめでとうございます!次のステージに進む準備ができました。』
目線をカードからお父さんの方へ移すと驚いた。
「おっ、お父さん?」
「あーそうだ!」
お父さんは、龍の着ぐるみを来た小さな少年に変わっていた。
でも、少年の態度が、あまりにも『お父さんだ!』と主張しているので、「あ〜、お父さんってこういう人だったかもしれない。」と何故か思えてきた。
お父さんは、柔らかな表情でこう話し始めた。
「エリーの地球旅行の往路はもう終わり。こんなにも複雑で不安定な地球で悩み苦しみ、葛藤し、社会的ルールの決められた枠の中でさえ、自分にスポットライトを当てて、見事に人生ドラマを作り上げたキミは、本当に素晴らしいよ。おめでとう!さぁ、帰路につく準備が整った!今度は、決められた枠から飛び出さそう。キミは自由だ!キミの無限大の可能性をはっきしていくステージが来たよ。どんな人生ドラマが記録できるか、我々、宇宙船のクルーは楽しみでたまらないんだ。」と、お父さんは、左手を腰に当て右手の人差し指で空を指さすポーズをばっちり決めている。
「…………。え〜?どう言うこと?あはは!」
そんな馬鹿げた話を自信満々にするお父さんの姿があまりにも面白くて、つい笑ってしまったけれど、やっぱりお父さんにも私の頑張りを褒めてもらいたくなった。
「素晴らしいって褒められるようなことじゃないけど、結果はそこそこ良かったって事はあったんだよ!中学校の陸上部で県大会で10位入賞したり、英語のスピーチコンテストで2位だったこと。高校の時に、ダイエットしたり外見磨きにハマったら人生最大のモテ期が来たし。信じられないでしょ?告白され過ぎてこまったんだから。ふふっ。
あとね、インテリアコーディネーターの仕事を始めてから結構すぐに、有名な雑誌で『新時代の最先端を担う30歳未満100人』に選ばれたの!」と、自慢げにいってみたものの、はっと我に返り「はぁ〜。」と深いため息をついた。
「。。。。。。でも、今考えると、私の実力とかじゃなくて、ただ運がよかっただけなんだよ。だからさ、賞とかとる度に、いつか私の実力不足にがっかりされるんじゃないかって不安になって、不安から逃げるために『違うことの方が自分には向いているかもしれない!』と思えて、色々と試したくなっちゃて。だから、胸はって『これ頑張りました!』って言えることなんて何も無いの。」と呟いた。
お父さんは「はぁ?」って理解できないって表情で首を傾げながら私をしばらく見ると、ハッと目を見開き何かを思い出したように話始めた。
「これは、教えて良いのかお父さんにはわからないけど、まぁ良いだろう。実は、もう一人のエリーがいる。どこにいるかというと宇宙。宇宙船と一体化したエリーがいる。ここにいるのは、着ぐるみに光を吹きみ『地球へいってらっしゃい』って送り出されたエリーなんだ。
ソフィアという宇宙船がエリーを見つけ、君が宇宙船に乗り込もうとした瞬間にソフィアさんは宇宙船の乗組員になり、エリーは宇宙船自体になったって訳。
地球のエリーが『胸張って頑張った』って言えないと思っていても、宇宙のエリーは素晴らしいと褒め称えているんだ!
君が遠回りの人生を送っているように思えたとしても、無駄なことをしているのではないかと不安になったとしても、地球の宿題帳に書かれた経験や学びが必ずそこにはあって、それをどんどん達成してくれる君は最高で完璧!拍手が鳴り止まないよ!」と、お父さんは、パチンと指を鳴らして私を指さして、まるで昔のアイドルみたいで、笑いが止まらない。
「あと、これも教えて良いのかな?ここだけの話だぞ。」っと言って、二人きりの空間なのに、お父さんは大袈裟に周りをキョロキョロと見渡した。
「本当はさ、エリーは全て知っているんだよ。悩みや問題の解決方法だって、夢の叶え方だって、ぜーんぶ知ってるんだ。嘘みたいな話だけど、当たり前だよね、完璧な宇宙から来てるんだから。
エリーも経験したことあるはずだよ。君の友達が、悩んでるって言うから相談に乗ったけど、悩み事を話す最中に解決方法を彼女自身で言っている。だけど、そのことには当の本人は気づいていないって事。
悩みの解決法を知らないはずがないんだよ。ただ、地球に来ると、フィルターがどんどん増え続け、答えが見つからないように自分自身でこじらせる。全ての答えがわかってしまったら、何も経験できないからね。
地球の宿題帳に書かれた経験ができるように、わざと完璧ではない着ぐるみを選んできた訳だし、宇宙船としては、エリーが地球らしく物事をこじらせて捉えてくれるだけで、経験できる事が増えるからさ、地球らしい完璧ではない事こそが素晴らしいんだもん!
エリー、ぼくらが旅に出る理由を覚えているかい?なぜ、完璧な宇宙から離れ、完璧ではない地球に旅行に行くのか。
完璧ではないからこそ学べることや経験できること、時間やルールの制限があるからこそ出来ることが星の数ほどあるからだったよね。
宇宙では、感情、欲望、時間の概念もない。寝てもいいし、寝なくてもいい。食べてもいいし、食べなくてもいい。笑ってても、怒ってても、泣いてても、喋ってもいいし、喋らなくてもいい、目が見えなくても、耳が聞こえなくても宇宙では何の問題もない。宇宙ではなんでもアリだからこそ、究極の無が存在する。例えるなら、宇宙は、いつまで噛んでも無くならない無味のガムのよう。そして、地球は噛みしめれば、噛みしめるほど味わい深いステーキ。時間と経験を重ね、知識を積めば、人生に深みのある味が出てくる。苦味、塩味の後の甘味は格別に美味しく感じるだろう?でも、その味わいは長くは続かないし、いつかは無くなってしまうもの。だから、どうやったら、もっと複雑な味付けにできるのか、どうやったら満足できるのかと、本来の味の好みを忘れて、「もっと、もっと」と無意識の内に味を足しすぎてしまうのが、この地球という環境なんだ。」
お父さんは、パンと一回手を叩く。
「で、話を戻すと、もう一人の宇宙船の君がそろそろ近道を通って進もうっかって言ってるんだ。素直な自分を信じて進もうっかってね。それが、次のステージってことなんだよ。
今まで、エリーが失敗や後悔につながる選択をしても、宇宙船のエリーは全てに「いいね!」って言うものだから、この選択をしたらまた同じ失敗をするのではないか、嫌な思いをするのではないかと、自分を信じるのが怖くなって、地球で言う安全であるべき道を選択しようとするばかりに、素直な自分の感を無視してこじらせた選択をしてしまう。
でも、これから先は、全ての解決方法をすでに持ち合わせているって事がわかったんだから、もう何も怖いことはないだろう?
「あぁ、これは宇宙船のエリーが私に経験してほしい事なのね」って単純に素直に、目の前のことに取り組める。これができなかったらどうしようとか心配する必要も、焦る必要もない。だって結局エリーにとって一番いい答えはすでに知っているんだから。『宇宙船のエリーは、着ぐるみの自分にどうしてもやってほしいことなのね、やってあげましょう!』って楽しんでやったらいいだけなんだよ。
地球と宇宙のエリーの二人三脚さ。こっちのエリーが焦って走ろうとしたって、あっちのエリーが望んでいなければ転んでしまうし、もちろん逆だって同じ。呼吸を合わせて同じ歩幅で進むのが最も早くて気持ちの良いことだよね?拗らせずに単純の目の前のことに取り組んでくれるだけで、宇宙船はすぐに納得して、じゃあ次はこれ、次わこれってどんどん宿題帳に書かれた学びと経験する場を整える。
でもさ、地球に住んでたら、これだけは絶対に嫌だって思うことが出てくると思うんだ。『嫌だ嫌だ!』と強く思えば思うほど、宇宙船はその強く想像した映像を叶えてあげたいって喜んじゃうからさ、そんな時こそ、心をニュートラルに保って、『宇宙の君がここから何かを経験をしたいのはわかりますが、違う方法でお願いします。』ってもう一人の自分に言ったらいいだけなんだ。二人三脚してるんだから、宇宙船だって『もちろん、そうしましょう!』って納得してくれるよ。
さぁ、お父さんのタイムリミットが近づいてきてしまった。最後に大事なことを教えておくよ。今は、ステージとステージの間の休憩中。何かのきっかけが無いと、バッテリーを休ませないエリーだから、僕たちがエリーの行動を制限しているだけなんだ。不安になることは一切ないよ。
今は、過去を振り返り、キミの成長した木をじっくりと観察し、カメラのフィルターを綺麗に整える時間にしたらいいだけ。
歩けば揺れる不安定な綱渡りの地球旅行で、不安に気をとられ、地球を楽しみに来た本来の目的を忘れてはいけないよ。キミを不安にさせるなら、その味付けはいらないんだ。シンプルな方が素材の味が際立つってもの。
地球で起こる全てのことは、計画通り。全てはうまく行っている。
エリーの最高で幸せな人生を願う僕たちは、いつでもエリーの味方だよ。
*
広角が上がったままで目覚めた私は、最高に幸せの気分だった。
「は~ぁ。久しぶりによく眠れた。今何時だろう。」
枕元に置いておいた、スマホをみると、A.M.11:11。
慌てて、リビングルームに行ったが、もちろん、母はもうすでに仕事に行っていない。ダイニングテーブルに置き手紙だけが置いてあった。
『朝食の準備はできてます。温めて食べてね。』
とろろご飯、お味噌汁、焼魚にほうれん草の胡麻和え。
「わぁ~!朝からこんな豪華な食事。幸せ。お母さん、ありがとう。いただきます。」
そう、私は、寝る場所があり、食事を食べることができ、何があっても味方でいてくれる母がいて、私はもう既にたくさんのものを持っているじゃないか。先の見えない未来ばかり見て不安になり、過去の失敗をまた繰り返すのでは無いかと不安になり、今、私がこんなにも幸せなことを見失っていた。
食べ終えた食器を片付け、
『お母さん、ありがとう。次に進む元気もらえました。』とメモを残して家を出た。
このまま仕事が無いと悩み、もがき続けるか、または、新しいチャレンジをするか、私は人生の岐路に立っている。でも、私はもう決めた。
私の力だけでは、どうすることもできない状況に気を揉むのはもう辞めた。新しいことに挑戦しながら、また軌道に乗るタイミングをただ待つことにしよう!なるようになる。希望はただ持ち続けているだけでいいんだよね?
新しいチャレンジが、私の人生をいつも進ませてくれていたじゃないか。また、一から始めよう。昨日より少しだけ、上を向いて歩けるようになったかもしれない。
今日は、少し遠回りをして、クリスマスの飾りが綺麗なショッピング街を通って帰ろう。光り輝く装飾と、つい、口ずさんでしまう陽気な音楽の中にいる私は、昨日までの私とまるで違った。
すると、引き寄せられるように、家具屋さんのショーウィンドウの前で足が止まった。どこかで見たことがあるような、カラフルでおしゃれな一人掛け用ソファから目が離せなかった。
「Do you like this sofa? This is one of my favorite sofa which I've designed.(このソファ好きですか?僕がデザインしたソファの中でも僕が気に入っているものなんです。)」と突然、英語で背後から話しかけられた。
後ろを振り向くと、まぶしい太陽の光の反射で、私と男性と空を繋ぐ三角形の光が輝いた。
ー終わりー
*最後まで読んでいただきありがとうございました。