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ボクの魔法 [ウミネコ文庫応募作品]

・[大人絵本]ボクの魔法とは?
どんな夢でも叶うと信じ、夢を無限に広げていた子供の心を思い出しながら読んでみる大人向けの絵本で、特に人生の岐路に立っている方に向けて書いています。

ボクの魔法

 
  「この魔法をあなたの種の神髄(しんずい)に注ぎます。魔法の花を咲かせるかどうかは、あなた次第。花は咲かせなくても良いのです。なぜなら、あなたの存在自体が、この魔法の森を美しく彩るのですから。」

 私は、魔法の森を管理する月のウサギです。月の上から森をながめ、この森に必要な魔法の木を育てています。魔法を宿した種は、光の届かない土の中で長い年月をかけて、ゆっくり、ゆっくり成長し、来るべき時が来ると光をつかむように手を伸ばし、陽に満ちた世界に芽を出します。
 しかし、光が届かない土の中が心地よくなってしまった魔法は、眩しい光を浴びた瞬間に、内なる闇へと一旦身を隠すのです。
 そして、暗く、深い内へと目を向けて、生きる目的を探し始めた頃、光の影にひっそりと隠れていた魔法が「探しに来てくれてありがとう。」と、恥ずかしそうにヒョッコリ顔を出すでしょう。
 では、太陽の香る季節にまた会いましょう。いってらっしゃい。

 月のウサギは、フワフワのシッポをフリフリさせながら背伸びして、夜空に浮かぶ『一等星』を掴み取ると、釣り糸の先に引っ掛けて「そーれ!」と、魔法の森に投げ込みます。糸の先に繋がれた一等星は、右に左にクネクネと夜の森で探し物。
 突然、森の奥でピッカーン! 一等星から『見つけました。』のお知らせです。星が魔法の芽にピッタリ吸い付くと、月のウサギが「よーいしょ!」と、引っ張り上げます。魔法の森に新たな命が誕生しました。
 こうして生まれた魔法の木々は、見た目も、好きなことも、キライな事もすべて違うけれど、この森で一緒に暮らしているのです。
 さてさて、そんな魔法の森にも、鮮やかに色づく季節がやってきました。魔法のつぼみが、こっちでパッ、そっちでポッと色とりどりの花を咲かせる季節です。でも、みんなが花を咲かせられるとは限らない。だって、この森に住む魔法の木はみんな違うのだから。

「どうして、ボクは変わらないの? 空高く大きな魔法の花を広げたみんなは、サンサンと照る太陽も、キラキラ輝く月も、すべの光を僕から奪っている事になんて気付いていない。きっと僕は、魔法なんて持っていないんだ。」

「おやおや、悲しい泣き声が聞こえるぞ。泣いている魔法の木は、どの子かな?」と、 月のウサギは、遥か彼方の森の奥まで探します。「みーつけたっ!」
 急いで月のウサギは、ロープのハシゴを放り投げ、大きく重たいカバンを背負うと、焦って震える足で、ゆっくり、ゆっくり降りて行きます。そして、看板と木づちをカバンから取り出すと、勢いよく一振り。『ドーン!!!』
 月のウサギは、何も書かれていない看板を誇らしげに見つめながら、泣き疲れて眠っている魔法の木に向かって話し始めました。
 「みんな、魔法を持っているんだよ。もちろん、キミもね。それなのに、まだ目に見えていないというだけで、持っていないと勘違いしているだけさ。この看板に書かれた文字が見えないようにね。でも、だいじょうぶ。キミがまだ内に秘めた魔法の力を信じきれるなら、花は必ず開くよ
 
キミはね、花を咲かせる方法が、みんなと少し違うんだ。その方法を見つけるために、挑戦してみよう。勇気を持ってチャレンジだ!
 がんばっても、がんばっても、上手くいかないこともきっとある。だけど、諦めずにチャレンジした先には、キミが願った事が待っている。
 キミは、一人ぼっちじゃないよ。ボクは、いつもでもキミの事を見守り、応援しているんだよ。さぁ、『運命の旅』へ飛び出したくなったら、両手を空に突き上げて飛んでごらん。 おもしろいことが起こるから。」と言って、月のウサギはピョンピョンと軽やかな足で月へと帰っていきました。
 魔法の木が目を覚ますと、夢で見た看板に驚いて、目をパチパチさせました。
「あっ、そうだ!」何かを思い出したように、両手を空に突き上げると「ジャーンプ!」と言って空を仰ぎました。すると、体は土から飛び抜けて、あっという間に、大きな木々たちの間を飛び抜けたのです。
 これがボクの魔法なんだ、と信じた魔法の木は、何度も、何度もジャンプして、光り輝く大きな空に浮かぶフワフワな雲を掴もうとしては、スルッと逃して真っ暗な森の中へ戻されるの繰り返し。
「こんなに頑張っているのに、何も変わらない。やっぱりボクは、何もできない。魔法なんて持ってないんだよ。」 
 そこへ、魔法の森で『神の使い』と呼ばれる、めったに出会うことのできない白いシカがやってきて、こう言いました。「さぁ、私についてきなさい。アナタの行くべき冒険は、この森の外にある。アナタは、旅立つ準備ができています。」 
 「ボクは、ここで花を咲かさなければ意味がない。僕は、魔法の森の木なんだ。森の外になんて、用はない!」と、この森に住むことを否定された気分になった魔法の木は悲しくて涙ながらに訴えました。 
 「そうですか。私は道案内しかできません。ついてくるか、どうかはアナタ次第です。 さようなら。」
 「え? 待ってよ。・・・やっぱり、行く!」
 森の仲間たちは、「キミはすごく勇気があるね。ボクたちの魔法の花を持っていって。いつかキミの役に立つかもしれないよ。」と送り出しました。
 森の出口まで来ると、白いシカは「私は、ここまでです。」とだけ言って、すぐに森の奥へ消えていってしまいました。
 「どうしよう。。。怖いなぁ。戻りたいなぁ。。。でも。」魔法の木は、胸いっぱいに『スゥー』っと息を吸って、ゆっくり『ハァ~』と吐くと、全速力で森の外へ走り出しました。
 「できた♪ できた♪ ボクにもできた♪ やったぁ!」
 次に、目の前に現れたのは行手を阻む大きな川。そこへクマが通りがかり、こう教えてくれました。「橋を渡ろう。橋は安全で、森へと続いている。キミは森にいるべきだろう? さぁ、行こう。」 
「ありがとう。だけど、僕、もう決めたんだ!」と、魔法の木は、クマを見送ると、「迷った時は、最初に心がおどった方を選ぶんだ!」と、まだ見た事のない景色へと繋ぐ、川の岩をピョーン、ピョーンと飛び超えました。
 「ほうらね、ボクはなんでもできるんだ!」

 川を渡った先にあったのは、ゴツゴツの巨大な岩山に、乾いた頑丈な土に覆われた力強いパワーがみなぎる世界。
 「なんだかボクも強くなれた気がする!」と、意気揚々としたのも束の間、太陽が高くなり、気温も上がると肌を刺す熱風が吹き渡ります。 
「暑いよ。痛いよ。もう帰る! 魔法の花なんか、もう咲かないよ。」とうとう力尽きて、地面に膝まついてしまいました。その時、『あきらめないで。必要な物は既に持っていますよ。』と、どこからともなく聞こえたような気がして、ポケットに手を入れてみました。すると、魔法の仲間がくれた、しずくの花が入っていたのです。
 「助けて。。。ボク、困っているんだ。おねがい。雨を降らせて。」すると、ねずみ色の雲がモクモクと青空を覆い尽くし、大粒の雨が降り出しました。
 「こんな事が起こるなんて信じられない。魔法って奇跡なんだ! よーし。ボクも魔法の花を咲かせて見せる。ボクの奇跡を見せてやる!」
 雨が止み太陽が沈むと、そこは真っ暗闇の世界。見知らぬ場所で一人ぼっちで過ごす夜は、寂しくて、不安で眠ることもできません。「こわいよ。こわいよ。さみしいよ。」
 『だいじょうぶ。見守っていますよ』と、聞こえたような気がして、もう一度ポケットに手を入れてみると、それは、包み込むような温もりで、安心をくれるハートの形をした魔法の花でした。
 ようやく眠りにつく魔法の木を見て、月のウサギはこう言いました。「キミは素晴らしい。よく頑張っているね。さぁ、キミの願いがもうすぐ叶いますよ。今晩は、ゆっくりと心と体を休めよう
 次の日の太陽は、進むべき道を照らしてくれてるみたいで、魔法の木は、太陽の後をどこまでも追いかけ続けました。
 「この先は海。もうこれ以上、太陽には近づけないよ。ここがゴール?」 すると、魚や海の動物たちがジャーンプ。まるで、旅のゴールをお祝いしているみたいに。魔法の木に笑みがあふれると、『ポン、ポン、ポン』と、四葉のクローバーの魔法の花が、次々に開きました。
 あくる日、一匹のブタがやってきて、海の向こう側を見つめながら泣いています。
「お腹が空いて、ここから動けないわ。向こうの島には、大きなリンゴの木があるのに、泳げないから食べられない。」
 困った顔でブタを見ていた魔法の木はハッと思い出したかのように、頭から四葉のクローバーを一つ取ると、「ごめんね。助けてあげたいけれど、ボクも泳げないんだ。その代わりにコレをあげる。いつかキミの役に立つかもしれないよ。」と手渡しました。
 その瞬間、ブタから天使の羽がニョキニョキと生えてきて、「空を飛びたいと、いつも願っていたの。あなたが私の夢を叶えてくれたわ!」と、ブタは大喜び。
「夢を叶えたのは、ボクじゃないよ。羽が見えていなかったから飛べないと信じ込んでいただけなんだ。ボクの魔法の花は、キミに信じる勇気をお裾分けしただけだよ。」

 『この世界にたった一人のスペシャルなキミへ。
 キミは『魔法の命』を持って生まれてきたんだよ。そんなスペシャルなキミの役に立てて欲しいから、ボクの『幸せのクローバー』を渡します。不安な時、悲しい時、悔しい時、助けて欲しい時、勇気が欲しい時、魔法のクローバーを持っている事を思い出して。この魔法のクローバーは、きっと魔法のような奇跡を連れてきてくれるよ。
ボクは、いつも見守っている。キミは一人ぼっちじゃないよ。いつでもボクはキミの味方だよ。
さぁ、次はキミの番。キミが魔法の花を咲かせる番だよ。
準備はいい?
両手を空に突き上げて、未来のなりたい自分に向かってジャーンプ!』

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