見出し画像

焦るなよ! 絶対に焦るなよ!

発達障害の子を育てるのは「三歩進んで二歩下がる」が基本。焦るなかれ。

ADHDである我が家の息子は、現在高校2年生だ。ひたすら明るく人に愛されるタイプではあるものの、生まれつき言語能力が低いので、話すことが苦手だったり、国語や英語の成績が非常にアレな感じだったりしている。

しかし最近では、言語能力がメキメキと発達しつつあり、学力も得意の理系科目を中心にグングンとのびて、私としても「いいぞいいぞ」と、ちょっとだけ鼻が高くなっていた。

そんな鼻を、「調子に乗ってんじゃねーぞ!」と言わんばかりにポキンと折られてしまうことが起きた。

先日、息子がノロウイルスによる胃腸炎になった。嘔吐と下痢が治まったあとでクリニックに連れていき、医師の診察を受けた。そのとき、息子が数日前から痰のからむ咳をしていたことを思い出し、その診察もお願いすることにした。

「肺からは変な音はしないから、肺炎の心配はないね」

聴診器を息子の胸や背中に当てていた医師が、「薬はどうする? 必要?」と訊いてきた。そこで私が「どう?」と訊いたら、息子は「いらない。大丈夫」と答えた。

ならば、と咳については投薬を受けなかったのだけれど、翌日から息子の咳がひどくなってしまった。ゼロゼロと音が聞こえる、苦しそうな咳だ。

「もしかして、咳が苦しいの?」と私が尋ねると、息子は咳き込んだあとで「……うん」と答えた。

「もしかして、部活の練習でも結構苦しいんじゃない?」
「……うん。苦しい」
「それって今日から?」
「いや、ちょっと前から」
「えーっ! でも昨日は、薬はいらないって言ってたじゃない!」
「……あー。あれね、お母さんとお医者さんが、何を話しているかがよくわかんなかったんだよね」

ああああああ!!!! わかんなかったか! そうでしたか! そうですね! 君はそういうタイプの子でした! そうかそうか!

これは私のミスだ。ここ最近の息子の言語能力は確かに上がっているけれども、それは決して一般的な高校2年生の能力と同等ではない。特に主語や目的語が省略されがちな会話内の言葉を理解する能力は、せいぜい小学校中学年レベルだと思う。

なのに、私はそれを忘れていたのだ。この天狗になった鼻を、自分で折りたいぐらいだ。頼む、折らせてくれ。

実はこういうことは、たびたび起こっていた。息子に教えたことがうまくいくと、私が息子のレベルを忘れて先走ってしまったり、息子を「ふつう」だと思い込んでしまう。そのせいで、あとから息子に「実はわかんなかった」「あれって本当はどういう意味だったの」と言われちゃうパターン。これを何回くり返したらわかるんだよ、私!

今回、私は自分の鼻をボキボキと折りながら、心でつぶやいた。「焦るなよ! 絶対に焦るなよ!」と。これは決して、「押すなよ! 絶対に押すなよ!」と言いながら、押してもらうことを願うダチョウ俱楽部メソッドではない。本当に焦っちゃダメなのだ。

なにせ発達障害の子どもの成長は「三歩進んで二歩下がる」が基本だ。三歩進めたところでよろこんではいけない。その後、おそらく二歩下がるときが来る。そこで「なんだよ。一歩しか進めてないじゃないか」と嘆いてはいけない。だって、ちゃんと一歩進めているのだから。

「話の意味がわからないからといって、安易に返事をしないこと」
「話の内容がわからなかったら、『もう一度、話してもらえませんか』とお願いすること」
「大事な話のときは、相手に許可をもらったうえでスマホで録音すること」

まずはこの3つを息子と約束した。これを守ったとしても、きっと困ることは出てくるだろう。そのときには、また対処法を考えて……と、三歩進んで二歩下がりながらやっていこう。人生はワンツーパンチ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?