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「機械の血管」CVポート留置手術

前回のnoteに書いたように、CVポートを埋め込むことになったので、その手術を受けてきた。

私が勝手に「機械の血管」と呼んでいるCVポート。正しくは、心臓に流れ込む中心静脈へとカテーテルを入れて、そこに薬剤などを流し込めるように、皮膚の下に注射ができるポート(100円玉くらいの大きさ)を埋め込むものだ(くわしくはこちら)。

「この手術は局所麻酔で済みますし、日帰りでできる簡単なものですから」

CVポートの埋め込みを提案されたとき、さも「大したことない」と言いたげなH先生に、私は「その手術は、先生がしてくれるんですよね?」と食い下がった。

小耳にはさんだ話だと、ポートの手術は確かに簡単なのだが、簡単ゆえに新人医師の担当となることが結構あるらしい。それでうまくいけばいいが、ポートの固定が不完全だったりして使えなくなることもあるという。

しかも、新人医師のサポートとして付き添った先輩医師の「何やってんだよ!」とか「そこ、違うだろ!」などと怒鳴る声が、局所麻酔のおかげで丸聞こえだったりするらしい。こわい。

時には、執刀中の医師の「……あれ?」「あっ!」みたいな謎のつぶやきまでも聞こえてしまうらしいじゃないの。こわい。なんだよ「あっ!」って。人の体にメスを入れてるときに言う言葉じゃねーだろ。

そんな私の不安をスルーするように、H先生は「もちろん僕がやりますよ」といつもの冷静な口調で言ってくれた。よかった。手術の上手さに定評のあるH先生なら「あっ!」なんて言わないだろう。たぶん。

手術当日。外来での受付後、看護師さんに付き添われて1ヶ月ぶり2回目の手術室入場。入口近くにある小さなロッカーで手術衣に着替え、キャップを被って待合いの椅子に座ると、手術担当の看護師さんに名前と手術箇所を訊かれた。これは前月の手術のときと同じだ。

「CVポートは右上腕に留置する予定ですが、それができなければ右鎖骨下の留置でいいですね?」

看護師さんに訊かれ、私は「はい」と答えた。CVポートは右鎖骨下に留置するのが一般的なんだけど、H先生は右上腕への留置を提案してくれた。「そのほうが、合併症が極力少なくて済むんですよ」とのことだった。

今回の手術室は、8つほどある部屋のうちの一番奥だった(前月は一番手前だった)。前月と同じく、体がギリギリはみ出ない程度の細さのベッドに横たわる。前月と違うのは、右手を真横に伸ばして固定されたことだ。片手だけの十字架みたいだ。

その後、H先生がやって来た。H先生は下の写真のような、ポータブルX線と呼ばれる機器をベッドに近づけ、上にある円筒状の部分を私の胸の上にセットした。

その奥にあるモニターには、白黒で何かの画像が映っている。……ていうか、これ私の体の中だよな、きっと。

「じゃあ、始めますね。痛いことをするときには声をかけますので」

そう言ってH先生は、私の右腕をバババーッと消毒すると、エコーのプロープを上腕に這わせた。エコーのモニターを見ながら、ところどころに油性ペンで印をつけている。おそらく静脈を確認して、カテーテルを入れやすそうな部分を探しているのだろう。

いくつかの印をつけたあとで、H先生はペンを置いた。

「ちょっとチクッとしますよ」

注射のような痛みが走った。さらにそのあとに、グググッと押される感じがある。注射針よりも直径が明らかに太そうな何かが、無理やり突っ込まれようとしてないか? 鼻の穴にマッキー極太を突っ込んでるような感じなんですけど! たぶんカテーテルを入れてるんだろうってことはわかるんだけどさ!

どうもうまく入らなかったようで、H先生はそこから針を抜き、止血をした。そしめまたもや私の腕にプロープを這わせ、印をつけては針を刺し、鼻穴マッキーを2回繰り返した。

「……すみません。鎖骨下に切り替えましょう」

私の血管の細さなのか、それとも皮下脂肪の厚さのせいなのか(理由は訊けなかった)、右上腕への留置を断念したH先生は、私の頭上へと移動した。

「ここは確実に入るところなので、最初から麻酔をしますね」

H先生は右鎖骨の首側上に麻酔を打ち、針を刺した。麻酔のおかげで痛みはない。だけど、やはり鼻穴マッキーの感覚はある。ぐりぐりと押し込まれるのは痛みじゃなく圧力なので、麻酔は効かないってことか。アラフォーにして一つ賢くなりました。

H先生がカテーテルを押し込んでいくと、ポータブルX線が映し出す画像の左下から、にゅにゅにゅ、と黒い紐のようなものが現れた。こ、これは……カテーテルだね! やっと通ったのか! ……通った! カテーテルが通った!

クララが立ったときのハイジのようにうれしくなったものの、まだまだH先生の押し込みは続く。……そうだ。このカテーテルは心臓にまで突っ込むんだった。ってことは、この画像は私の心臓近辺の画像なのか!

その事実に今さら気づいた私のアホさに気づくはずもないH先生は、モニターの画像に映るカテーテルの様子を確認し、手を止めると、今度は看護師さんにCVポートを準備するように伝えた。

「では、これからポートを入れるポケットを作ります。麻酔をしますね」

麻酔が効いたことを確認したH先生は、右鎖骨下を切開し、そこにCVポートを入れた。入れられているときは、ぎゅうぎゅうの結構なキツさを感じた。キツくしておかないとずれてしまうんだろう。

あとは縫合。H先生はさすがの手つきで、さくさくと縫っていく。そして終了。所用時間は約1時間半。右上腕で模索を繰り返した時間も含まれているので、ふつうなら1時間もかからずに終わりそうだ。

手術後、看護師さんからCVポートの説明書と記録カード、そしてそのカード代わりになるというアームバンドをもらった。……このアームバンド、いつつけるんだ?

CVポートを入れた傷口は3センチくらい。ポートが入っている部分は少しふくらんでいるけど、このおかげで抗がん剤投与がラクになるのであれば、機械の血管も悪くはないよメーテル。

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