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①復活する男と阻む男。 比嘉大吾VS堤聖也。対戦まであと9日。



9月10日、元WBC世界フライ級王者・比嘉大吾のAmbitionジム移籍第一弾の試合発表があった。出席者は比嘉と野木丈司トレーナーの2人。Zoomでの会見だったが、こういう状況でなければどこかの会場で対戦相手とともに開かれていたかもしれない。

相手は堤聖也(角海老宝石)。5戦4勝1分の日本ランキング13位。

16勝16KO1敗。WBA世界バンタム級9位及びWBC世界バンタム級8位の比嘉と比すれば格差は大きい。だが堤はアマチュア時代、比嘉が2度敗れた相手だった。その7年前の対戦を機に2人は友達になり、その関係はずっと続いているという。

質問はまずその点に集中した。

カメラ越しのやりとりにまだ慣れていないのか、比嘉は物珍しそうにきょろきょろしながら、友達ではあるけれど、アマチュア時代は仲のいいやつともしょっちゅう殴り合ってたから心理的な影響はない。リベンジと言われればそうかもしれないけれど、リベンジの感覚より早く世界に返り咲くために倒して次につなげたい、と言った。

沖縄なまりの柔らかさも手伝い、この日の比嘉と取材者のやりとりは終始穏やかだった。目標と意気込みを問われて、んーんーと考えたあと、無邪気に「がんばりまーす」と答え、拍子抜けした記者たちから笑いが漏れたりした。

野生動物のように、ここぞ、という時以外の普段は、体から闘争心だとか緊張感といった力がごっそり抜けているのが比嘉だ。ぎらつき、殺気のようなものが目つきや声や体に出るのは、減量が佳境に入り、試合が目前に迫ってからだろう。この人は、ボクサーはリングの上でのパフォーマンスと出す結果がすべてであって、その過程の気合いを言葉で説明することにあまり意味はないと思っているかもしれない、などと思いながら聞いていた。

どこか和やかなまま進んでいた会見に緊迫感が走ったのは、教え子の代わりに、野木トレーナーが、この次戦がどういう位置づけの試合であるか、その意味と重要さを説明したときだ。

スイッチヒッターでもあり、何をしてくるか予測がつかないスタイル。決してやりやすい相手ではないこと。元世界王者を相手に万全の準備をして相当な意気込みで向かってくることもわかっている。堤が戦績以上の難敵であるとした上で、こう告げた。

「それをぶっ潰す。再スタートにふさわしい試合を、見せたい」

内にある熱さを少なくとも報道陣に見せることはない。つねに冷静で論理的な物言いをする野木トレーナーに物騒な言葉を使う印象はない。その人が放った「ぶっ潰す」。

比嘉の心意気の代弁には聞こえなかった。

ひりひりするような切迫感。伝わってきたのは、おそらく野木トレーナー自身が抱える重圧、だ。

比嘉は2年前、計量失格という日本人世界王者として初の不祥事をおかした。おかさせてしまったという自責の念が、このトレーナーの胸から消えない。

世界王座だけでなく、信用という目には見えない重たいものをも失った。そこから這い上がろうとしている教え子が、今後主戦場となる2階級あげたバンタム級で十二分に通用するのか。世界を競うにふさわしい力が戻っているのか。

この復活を冷ややかな目で見る向きがあることもわかっている。それ以上に期待と応援の熱も感じている。これからのすべての試合でそれらは試される。比嘉は、それらを披露し、証明し、納得と評価を得ていかなくてはならない。

次は、その第一弾、なのだ。

比嘉大吾対堤聖也。10月26日。後楽園ホール。

チケットは比嘉の割り当て分は発売二時間で完売。堤側も数日で売り切れた。



10月26日試合当日まで、毎日更新予定。


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2018年2月3日@沖縄

モイセス・フエンテスを迎えてのWBC世界フライ級王座2度目の防衛戦、前日計量。この翌日、15連続KO勝利の日本タイ記録を達成した。


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