マガジンのカバー画像

比嘉大吾VS堤聖也

13
すべてを失った元世界王者・比嘉大吾の復活と、その復活を阻みにいく堤聖也の一戦のストーリーです。友人対決でもありました。
運営しているクリエイター

2020年11月の記事一覧

⑨勝者と敗者のいない夜。比嘉大吾VS堤聖也

⑨勝者と敗者のいない夜。比嘉大吾VS堤聖也

「瞼の傷口が深く、ダメージの心配もあるので堤陣営は今から病院へ向かうそうです。
従いまして、堤聖也選手の記者会見はなしということで」

比嘉大吾の会見が終わると同時に、テレビ局のスタッフだろうか、関係者からそうアナウンスがあった。

新聞記者たちがプレスルームへと急ぐ中、帰り支度をし、エレベーターで一階に降りた。ビルの出入り口の横にちょっとした人だかりが見える。近づくと、一足先に降りていた雑誌やW

もっとみる
⑩最悪の誤算。比嘉大吾VS堤聖也

⑩最悪の誤算。比嘉大吾VS堤聖也

堤聖也は試合が決まった日から、毎夜、頭の中で比嘉大吾と仮想対決してきた。
全勝全KO。フライ級時代のザ・破壊者としての強烈な記憶。
4年前、スパーリングで手合わせしたときに感じた、まだ開けられていないが確実に存在する比嘉の「引き出し」の数々。

練習中は無心でいられた。だがジムから戻り1人になると、不意に心細さが襲ってきた。寝る前のルーティン。戦いのイメージトレーニングはどうやっても自分のハッピー

もっとみる
⑪倒されてもいい、俺行きます。そう言い残して堤はコーナーを出た。比嘉大吾VS堤聖也

⑪倒されてもいい、俺行きます。そう言い残して堤はコーナーを出た。比嘉大吾VS堤聖也

僕、ジャブの差し合いが得意なんです、と堤は言った。

得意な事を話すときの口調、ではなかった。

この1戦に向け、一層磨きをかけてきた。その最も自信のある武器が勝機を掴む鍵になるはずだった。

「理想はジャブをポンポン当てて比嘉の顔を腫らす。眼窩底を折ってやるぐらいのイメージをしてたんです」

試合前、比嘉より上回るものはないと自認していた堤だが、ジャブの差し合いだけは負ける気がしなかった。

もっとみる