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沖縄戦研究者が、いま伝えたいこと #6 北上田 源

 『沖縄戦を知る事典―非体験者が語り継ぐ―』の刊行記念シンポジウム(沖縄戦若手研究会主催)が、2019年6月1日に沖縄県の南風原文化センターで開催され、非体験者の沖縄戦研究者6名が、「伝えていきたいこと」「切り拓く研究の未来について」について語った。
 開催時、マスコミにも取り上げられ話題になったシンポジウムの内容を、特別に公開いたします。
 研究者6名のバトン形式。最終回は、北上田 源氏です。

「継承」とともに「検証」を

 私が沖縄に来てから二〇年近くたちますが、その間戦跡ガイドをはじめ様々なことに関わってきました。その原動力は何だったかといったときに、やはり戦争体験者との出会いだということをすごく感じています。今日はその一例として、日系兵のこと、そしてその方の体験を通して考えたことを紹介させてもらいますね。

 私は、今から一五年以上前、大学生のときに、宜野湾市にあるフリースクールでボランティアとして教え始めたんです。そこの子どもたちの文化的背景は多様なので、沖縄戦を教えるときの何かいい教材がないかと探し、日系兵の方の体験に出会ったわけです。

 日系兵は、沖縄戦のときにアメリカ兵として沖縄にやってきた。そして、たとえば捕虜の投降の呼びかけをしたり、あるいは押収した日本軍の文書を翻訳して上層部に渡したり、捕虜の尋問をしたりということをやっていた方々です。特にハワイなどにいた沖縄系の日系人の方、二世の方などがかなりおられました。

 なんとかそういう方と直接会いたいなと思っていたところ、縁があって、二〇一一年にハワイから来沖された比嘉武二郎さんという元日系兵の方とお会いすることができました。比嘉さんは自らの体験を振り返って、「私たちは戦場にいたけれど銃ではなく、メガホンと辞書を使って、あとウチナーグチも使って沖縄の人たちの命を救うことができた。同時にアメリカ市民としての義務も果たすことができた」ということを、すごく誇らしげに話されるんですね。

 最初その話を聞いたときに、すごく感動して心打たれました。また、その話を聞いた生徒たちが勇気づけられる様子も手に取るように分かりました。そういうことで、その後何度もガイドや授業の時に日系兵の方のことを紹介してきました。

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 ただ、いろいろ調べていくうちに感じた疑問が、「本当にこの話は、戦場の中の感動のエピソードとするだけでいいのか」ということです。

 どういうことかというと、投降の呼びかけなどはまだしも、たとえば押収した日本軍の資料を翻訳してアメリカ軍の上官に渡す。それは間違いなくアメリカ軍の沖縄侵攻作戦、アイスバーグ作戦を円滑に進めるための一助になったわけです。また、日系兵の方々が行われた捕虜への尋問の中で、証言でよく出てくるのが、つかまえた日本兵が、沖縄の人か日本人か分からないときに、ウチナーグチで質問してみる。それも結果的に米軍の思惑通り、日本人と沖縄人を分断したということではないでしょうか。

 さらに調べている時に、島袋貞治さんの『奔流の彼方へ』という本の中で登場する儀間昇さんという方のことを知りました。儀間さんは二中の男子学徒として沖縄戦を体験されるのですが、そのあとハワイに捕虜として行くことになり、その後アメリカ兵になったという方です。

 アメリカ兵になった儀間さんは、シベリア抑留者の引き上げの時には舞鶴に行き、朝鮮戦争があれば通訳として朝鮮半島に行く。そして、米軍統治下の沖縄にも赴任し、任務として、諜報活動、尾行をしたり、資金源がどこかを調べたりをするということをされた様子が、この本の中で紹介されているんです。儀間さんは自分の活動を振り返って、「私は後ろめたいとかはまったく思わない。そして、ウチナーンチュとして民主主義の普及が沖縄のためになると信じてやったんだ」と言われていると、その本に書かれていました。

 先ほど申し上げた比嘉さんと儀間さんの話を私たちはどう考えればいいんでしょうか。簡単に言うと、沖縄にルーツを持つ日系兵の方々は、沖縄のことに関して一貫してすごく強い思いを持っておられるんですよね。ですから、比嘉さんも儀間さんも戦中戦後問わず、「私たちは沖縄のためにできたことがあるんだ」ということを言われる。ただ、それはやはり任務としてであっても、米軍の作戦の一端を担ったという側面があることを含めて、私達は考えていかなければならないのではないでしょうか。

 昨今、沖縄戦の継承という言い方がされますが、私はよく、「継承」だけでなくて「検証」もきちんとしていきましょうと言っています。その方の生きた時代の中で、その人はいったいどの位置に立っていたんだろう。時代の状況や社会的背景の中で、その人たちの証言や人生というのが何だったのかをちゃんと理解するために、検証が必要だと考えています。

(きたうえだ げん・琉球大学非常勤講師)


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