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【あの町からの宅配便】はじまりの話

実家から、段ボール箱が届いた。

いいって言ってるのに毎月のように送られてくる。ごはんはちゃんと食べているのか、あったかくしてるのか涼しくしてるのか、そのあとで、やや遠慮がちに、たまには帰ってきなさい電話をしなさい。入っているメモに書かれていることはいつも同じ。入っているものも、ほとんど同じ。最近は定年退職した父が育てた野菜がやってくるけれど、スーパーで買った漬物とか袋菓子とかをわざわざ送料かけて送ってくる意味がわからない。

なんでわたしにっていう昆布の佃煮とか、保険屋のおばさんにもらったらしいキティちゃんのボールペンとか、そう、あのときもなんでこんなボールペンって電話したら、あんたキティちゃん好いとうやろって言われて絶句したんだった。

実家に帰るといつも思う。
町の時間は止まっているし父と母の時計も動いてない。

からだにいいとテレビで取り上げられた影響で納豆の欠品が続いてるってニュースになったときは、納豆が段ボールの1/4くらいを占めていた。自分が買ってよかったからと、味噌の劣化を防ぐという保存容器を送ってきたこともあった。わたしが好きな(だと思われている)故郷の名産菓子は東京で売ってないからと定期的に入ってて、ロゴを見るだけで憂鬱になって棄てたときもあった。

向こうが思ってるほどこっちはふるさとふるさとって懐かしく思ったりしてないし、もうなんだったか全然忘れたけどなんかのときにおいしいねって言っただけなのに大好物のように扱われるんだから迂闊に物が言えない。

でも、銀座のデパ地下でそのお菓子が売られているのを見つけたとき、なぜだか大事なものが奪われたような気持ちになった。

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段ボールの贈り物はわたしが上京してからずっとだから、もう22年目になる。22年×12個。改めて計算してみたらすごい数だ。むかしの恋人と一緒に開けたこともあったよなあ。

段ボール箱をひらくと、いちばんに母の字が見えた。コピーなのかってくらいやっぱり書いてあることはこのあいだと変わらない。

ちゃんと食べてるし、ちゃんと生きてるって。


「あの町からの宅配便」では、さまざまな人のもとに届く、実家からの贈り物について取材していきます。月に一度ほどの更新になりますが、家族それぞれの物語のかけらを次回からお届けする予定です。

photographer=久保田仁 writer=吉川愛歩
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