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帰る場所は、いつだって家族がいる場所
息子と妻を妻の実家がある八戸に送り出してから1ヶ月半。ぼくもついに美幌を離れる日が来た。長かったような、あっという間だったような時間が過ぎ、久しぶりにスマホ越しではない家族と会える。
しかし、目の前にはまだ全然片付いていない我が家がある。敷地の各所には農機具が散らばっている。ビニールハウスにも雪対策のポールを立てたい。むろの中には販売を待っているさつまいもが。荷造だってできていない。
これは、飛行機に間に合うのか・・・。
朝6時、スライドが半分くらいできていないまま講演に向かう電車に乗り込んだときのような気持ちで作業を始める。
まずは、荷造だ。とりあえず絶対に忘れては行けないであろう経理書類、仕事の道具をスーツケースに突っ込む。次に、息子へのお土産。そして、とりあえず目についた服を突っ込んでいく。最後に、歯ブラシやらハンドクリームやら。このとき、肌荒れ時に使う塗り薬を忘れてしまったのが、痛い。
荷造があらかた終わったら、今度は家の外へ。作業着に着替えていると、来客が。水落しのために呼んであった業者さんだった。家の中のありとあらゆる水を落としてもらう。真冬にはマイナス20度にも達する美幌町では必須の作業だ。同時に家の中の水はすべて使用不可となった。もうトイレも行けないし給水もできない。
外に出る。フォークリフトのエンジンをかけ、各所に散らばる農機具を集めて、倉庫の中に収めていく。テトリスの要領だ。一列揃えても消えないテトリスだが、ゲームオーバー寸前ですべて格納することに成功。
そうこうしているうちに、もうひとりの来客が。救世主到着。地域おこし協力隊のタッキーが助けに来てくれた。
完全に諦めかけていたビニールハウスのポール立て作業をお願いする。黙々とポールを立ててくれるタッキー。ベジータ戦のヤジロベーのごとく、ここぞというときに本当にいい仕事をしてくれた。ありがとうタキロベー。
11時。ハウスのポール立てと、敷地内の諸々の片付けが完了。タッキーがいなければ完全にアウトだった。次の仕事に向かうタッキーを見送り、次はサツマイモに取り掛かる。
むろから出したサツマイモを持って、町のパン屋さん美富ベーカリーに向かう。残ったサツマイモを販売してもらう手はずになっているのだ。すでに軽トラはしまってあるので、乗用車に詰め込んで出発。二軒となりのパン屋さんに到着。サツマイモとついでに持ってきたかぼちゃを並べる。パン屋さんにお礼を言って外に出る。
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次は、直売を統括している先輩農家さんの家だ。伝票を届けに行く必要があるのだ。農道を走り抜け、先輩農家さんの家に到着。忍者のような速やかさで伝票を所定の場所に提出、ササッと離脱する。
時計は12時。なんとかすべて終わった。女満別空港に向かうタクシーは12時半に来てもらう手はずになっている。一息ついて、猫のスピカをケージに入れる。
タクシーが来た。スーツケース、リュック、スピカのケージを持って乗り込む。猫好きのドライバーさんだった。ぼくがいつも使う道とは違う道を教えてもらいながら空港へ。
12時45分。搭乗手続きを終え、スピカとしばしお別れ。まだ飛行機までちょっと時間があるので、以前から気になっていたが時間の都合で入れなかった奥芝商店に入ってみる。うちのブロッコリーやじゃがいもを使ってもらったりしているスープカレー屋さんだ。
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初奥芝商店、前側にぐぐっと傾いた斬新な形に野菜盛りだくさんのスープカレー。中辛にしたらちょうどよい辛さ。えび味のスープも良い。挨拶して出ようかと思ったが店長が調理に入ってしまったので諦めて保安検査場へ。
13時40分、無事に飛行機で羽田に向かう。
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15時40分、飛行機は予定通り羽田に到着。ケージの中で小さくなっているスピカを受け取り。今度は東京駅に向かう。久しぶりに東京に帰ってくるといつも思うが、人が多く、ビルが高い。人が少なく、建物よりも樹木の方が背が高い世界での暮らしに慣れてしまったぼくには、完全に異世界だ。よく、ここで平気で暮らしていたなと思ってしまう。ぼくは新しい環境に順応するのも早めだが、それ以上に昔の生活を忘れてしまうのも早いのだろう。
17時20分、東京駅発のはやぶさに乗り込む。後は八戸まで一直線だ。
20時33分、八戸駅で在来線に乗り継ぎ、妻の実家最寄りの本八戸駅に到着。
そこには、息子と妻の姿が。
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「だでぃー」
満面の笑みで迎えてくれる息子。息子を抱き上げる。
「はぁ、帰ってきたなぁ」
ぼくが帰るところは、いつだって家族がいるところなんだなと思うのだった。
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2022/11/01
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