特別な寸景
「さすが縁結びの神様」
夫が言う。参拝の列に並んでいるのが若い女性ばかりだからだ。
私たちにはもう結びたい縁もない。出雲大社に来たのは、参拝というより観光だった。
順番を待っていると一瞬、小さな違和感を覚える。
だけど違和感の正体がわからない。順番が来たので参拝を済ませた。
「良かったら撮りましょうか?」
鳥居の前で夫を撮ろうとしていると、声をかけられた。振り向くと、高校の制服を着た女の子。
あっ、と思う。
さっきの違和感の正体は彼女だ。制服だから気になったのだ。ひとりだから修学旅行生でもないだろう。
「ありがとう」
カメラを渡し、写真を撮ってもらう。
「地元の方?」
「はい」
地元の子でも、出雲大社に来るんだ。
そんな私の気持ちを察したのか、彼女は照れくさそうに「もうすぐ体育祭なんで」と言った。
必勝祈願だろうか。それとも……。
石段をトントントンと降りていく彼女の後姿。
私にとっての旅先は、彼女にとっての日常なんだ。
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