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吉玉サキと本名の私

先日、仕事の関係である場所に行き、数人の方と名刺交換をさせていただいた。

名刺を渡すときは当然、「はじめまして、吉玉です」と言う。

家に帰ってきて、「そういえば私、吉玉を名乗ることにまったく違和感がなくなってるな」と気づいた。

6月、はじめて編集者さんとビデオチャットで打ち合わせをしたときは、「吉玉さん」と呼びかけられるたびにいちいち「えっ、私ですか?」と思った(言わないけど)。

それからたった4ヶ月で、もう吉玉に慣れている。意外と適応が早い。

そういえば、結婚したときも新しい姓に慣れるのが早く、半年もしないうちに旧姓がピンと来なくなった。両親に手紙を書く機会があり、久しぶりに旧姓を書いたら「こんなに難しかったっけ?」と他人事のように思った。

そのうち、吉玉サキに慣れて本名がピンとこなくなったりして……。

と冗談半分で考えていたら、今月、まだ夫以外の人から本名で呼ばれていないことに気づいた。

そもそも、今月に入って人に会ったのはまだ1回だけ。それが、前述の仕事関係での外出だ。

9月はどうだっただろう……と思い返してみて愕然とする。

9月、夫以外の人に会ったのは3回。義弟が遊びに来たとき、取材、noteカメラ部だ。

つまり、先月は夫と義弟にしか本名を呼ばれていない。

ちょっと、本名を呼ばれてなさすぎじゃないか。

私が吉玉サキを名乗りはじめたのはこのnoteが最初で、そのときはまだ、仕事につながるとは思わなかった。

だから、ペンネームは5分くらいで適当に決めた。ペンネームというよりハンドルネームだったからだ。

本名にしなかったのは、万が一知り合いに見つかっても私だとバレないように。

私にとってnoteは心を全裸にしているようなものだ。知り合いに読まれるのはめちゃくちゃ恥ずかしい。

だから、私だとわからないように吉玉を名乗った(今思うと、私のnoteは身バレを気にするほどのPV数がないので自意識過剰だ)。

だけどその後、吉玉サキとして仕事をするようになった。

当たり前だけど、仕事関係の方々には私が吉玉サキであることを隠せない。

そりゃあそうだ。吉玉として仕事もらって打ち合わせに行ってるんだもの。執筆依頼をくださる方のほとんどが私のnoteを読んでいる。

つまり私は、仕事関係の方々の前では最初から心が全裸なのだ。

だから、吉玉サキとして人と会う機会が増えるたび、不思議な感覚を覚える。

どんどん、「本名の私」と「吉玉サキ」の境界が溶け合ってなだらかになっていく感覚。

そのうちミキサーで撹拌したようにいっしょくたになるんだろうな、と思う。


ところで、吉玉サキと本名の間には人格の乖離がない。

吉玉サキとしてのキャラ設定をしていないので、「サンシャイン池崎が実はおとなしい」的なギャップがないのだ。

だから、吉玉の文章を読んでいる人と実際に会うと、「文章のイメージどおりですね!」と言われることが多い。「本当に外出が苦手そうですね」とか……。なんだか、意外性がなくて申し訳ない。

キャラの乖離がないということはつまり、「吉玉モード」と「本名モード」みたいな使い分けができない。

それは、今のところストレスではない。

だけど、このまま吉玉サキとして仕事を続けていったら、いつかは「吉玉サキを知っている人に読まれたくない!」と思う文章を書きたくなるかもしれない。

たとえば、今の私はもう、吉玉名義で自身のセックスについて書くことに抵抗がある。

吉玉サキとして会ったことのある人たちの顔が浮かび、「読まれるのが恥ずかしい!」と思ってしまうのだ。


そんなことを考えたのは、先日、オードリー若林さんのこの記事を読んだから。

ぼくは、芸人としての自分に対して後悔していることがある。
それは、芸名を付けなかったことだ。
別の名前が欲しかった。

若林正恭という本名の名残もないほどにかけ離れた芸名“X”を名乗っていれば、テレビでの発言もその“X” のコメントとしてよりハッキリと分人化できたのではないか、と。

収録中の発言は大胆になり、収録後のストレスは今よりは軽減されたものだったのではないかと想像される。
収録後、七三分けをシャンプーで落とし、ピンクベストを脱いでいる相方を見ていると「こいつは“X”としてテレビに出演しているから、こんなに呑気なのではないか」と疑いたくなる時がある。

平野啓一郎さんが提唱する分人主義(人間にはいくつもの顔があるという考え方)について触れている文章だ。


なんだか気持ちがわかる気がした。

私も、自分じゃない誰かになりたいときがある。

私も吉玉サキのキャラ設定をしなかったことを後悔するときがくるのかな。いつか、現実の私とはかけ離れた設定(めちゃくちゃポジティブとか、めちゃくちゃ毒舌とか)があれば……と思うのだろうか?

今はまだわからない。


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