見出し画像

恋草の芝生

出張先で芝生に座る人を初めて見た。

「服が汚れますよ」

「新聞敷いてるから大丈夫」

先輩がくれた新聞紙を一枚広げ、その上に座る。スーツと新聞紙越しに感じる芝生のチクチクが懐かしい。

僕はコンビニのおにぎりを、先輩はサンドイッチを食べた。

「芝生って、こんなに濃い緑でしたっけ」

「この時期はね」

「季節によって色違うんですか?」

「君は芝生を見たことがないのか?」

「……松本って高尾山くらい標高あるから紫外線強いらしいですよ」

「どおりで、太陽に近い気がしたよ」

そう言って、先輩はペットボトルのレモンティーを飲む。飲み口についたピンク色を指で拭ってから蓋を閉める動作を、見ていないふりで見ていた。

「今度、高尾山行きません?」

「いいね。旦那も喜ぶよ。君に会いたがってたから」

「あ、はい、俺も会いたいです。部署変わってから会えてないし」

慌てて取り繕う。

一瞬だけ「そうじゃなくて」と思ってしまったのは、旅先だからだろう。


サポートしていただけるとめちゃくちゃ嬉しいです。いただいたお金は生活費の口座に入れます(夢のないこと言ってすみません)。家計に余裕があるときは困ってる人にまわします。サポートじゃなくても、フォローやシェアもめちゃくちゃ嬉しいです。