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感性が細やかな人が好き(和牛・川西さんの魅力)

「えっ、そんなふうに思うの!?」と驚かされる感性に出会うと、その人のことが好きになってしまう。

私が気づかずに見過ごしてしまうことに、気づく人。同じ出来事に対して、私が思いもよらない感想を持つ人。

ありふれた言葉でいえば「独自の視点」とか「鋭い感性」とか、そういったものを持つ人が、好きだ。

そして、なるべくなら自分の感性が独特であることに無自覚でいてほしい。

友達に「何それ、どういう感情だよ」「いっこも共感できない」と笑われて、「えっ、マジか!」と逆に驚いてるような人だと、尚のこと好きになってしまう。

ちなみに、ブログの紹介文なんかに自分で「世の中で起きていることを独自の視点で切り取ります」とか書いている人の視点が独自だったためしがない。そういう人に限って誰もが思いつくようなことを、誰もが使っているような言葉で書く。「良くも悪くもあなたの視点は普通だから落ち着いて」と言いたくなる。

そういう人じゃなく、希少な宝石みたいな感性を無防備にさらけ出してしまっている人が、好きだ。


お笑いコンビ・和牛の川西さんの感性に、よく驚かされる。

川西さんは芸人仲間から「人格者」「いいとこの子」と言われ、あまり変わり者の印象はない。相方の水田さんのほうが、クセのある性格として知られている。

けれど、ラジオのフリートークを聞いていると、川西さんの感性がちょっと珍しいことに気づく。

以前、かまいたちのラジオ番組『俺達かまいたち』の中で、川西さんがこんな話をしていた。

お腹がすいてカレー屋に入って、さんざん悩んでメニューやトッピングを決める。無心にカレーを食べていたら、ふと、自分のスプーンが皿の底に当たるカツカツという音が気になる。カツカツ、カツカツ。ひたすらカレーを食べる自分と他の客たちの姿を俯瞰のアングルで想像したら、無性に恥ずかしくなった。

というだけのことを、たっぷり時間をかけて丁寧に描写していた。

「俯瞰で見たら『こいつカツカツカツカツ一心不乱に食うてて、何やそれ! 腹ペコか!』って感じで。もう、無性に恥ずかしくなってん」

案の定、水田さんとかまいたちの二人には「わからん」「ごめん、いっこも共感できんわ」と呆れられていた。

でも、私はこの話にたまらなくグッとくる。

「日常の中でふと、自分の姿を俯瞰で想像して恥ずかしくなってしまう瞬間」

たしかに、私にも(うっすらとだけど)そういう瞬間がある。

でも、その瞬間の感情は、次の瞬間にはすぐ忘れてしまう。川西さんのようにいちいち言語化して思うことをしないし、ましてやそれを人前で話すこともない。

それができる川西さんは、なんて感性が細やかなんだろう。そんな砂粒みたいに小さくてとびきりキラキラした珍しい宝石を、なんて無防備に取り出してみせるんだ。無防備で、無自覚で、無邪気で、なんて愛しいんだろう。ドキドキしちゃう。

他にも、「紙コップに入ったコーヒーを落とした数秒が何分間にも感じられた話」とか「定食屋で、冷しゃぶ定食に決めていた後輩が店員さんの『さんま焼きたてです』の一言であっさり焼き魚定食に寝返って、言葉の力に感心した話」とか、川西さんの話はとりとめない。

誰の日常にもあるような瞬間を切り取り、彼だけの感性で思い、彼だけの言葉で伝える。

そんな川西さんのとりとめない話が、とてもとても好きだ。


でも、こういうとりとめない話は芸人のエピソードトークとしては「弱い」。オチもないし、笑いどころがない。だからか、川西さんもゴールデンタイムの全国放送ではこういう話をしない。もっと、わかりやすく笑えるエピソードを話す。

でも、もしも。

川西さんが、ゴールデンタイムの全国放送で「カレー屋でスプーンカツカツさせてる自分が無性に恥ずかしくなった話」をしたら。

すべったような空気になって、大物司会者は困り、水田さんは慌てるだろう。芸人仲間もネットも「川西どうした!?」とざわつくだろう。

そして、私はテレビの前でくすくす笑う。川西さんの感性が好きだと、つくづく思いながら。

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