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奇偉な人

「なっちゃん、すっかり立派になって」

今年90歳になる曾祖母は、そう言いながら西瓜を出してくれた。

「……ぜんぜん立派じゃないよ」

謙遜じゃなく、本当に立派じゃない。高校は一年前にやめてしまって、今はほとんど家にいる。

親戚の集まるお盆。「今は何してるの?」と聞かれるのが嫌で、遠方の曾祖母の家に逃げてきた。

扇風機の風が心地よい。虫の声も東京とは微妙に違う。

テレビでは終戦記念日の特番をやっていた。

「……終戦のとき、大ばあちゃんは何歳だったの?」

「17かね」

今の私と同じだ。

私だったら、戦火の中を生き抜ける自信がない。命の心配がない現代でもメンタルを病んでいるのに。

大ばあちゃんは本当に生きるか死ぬかの思いをして、それでも生きてきたのだ。

「大ばあちゃんは偉いね」

「なっちゃんだって偉いさ。生きてるもの」

言葉につまった。

「なっちゃん、生きててくれてありがとうね」

涙がこみ上げてきて、俯いて西瓜を齧った。

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