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旅先の日常(短いエッセイ6つ)

旅先で、観光地よりも暮らしの痕跡に感じ入ってしまう。

民家に干してある洗濯物や、置きっぱなしの三輪車。ここで生活してる人がいるんだよなぁ、としみじみ思う。

旅先で感じた日常を、断片的に書いてみる。

イースター島のママ友

イースター島の食堂のテラスでご飯を食べていたとき、となりのテーブルの子供たちが宿題(たぶん)をしていた。

ひとりの子供はときどきお客さんのテーブルに料理を運ぶので、このお店の子らしい。ノートとペンケースを広げて宿題する姿に、「イースター島にも宿題があるんだな」と思った。

また、買い物帰りの子連れのお母さんが、同じく子連れのお母さんと出くわし、道で立ち話をしていた。子供同士はじゃれあって遊んでいる。

イースター島のママさんも、ママ友に会えば立ち話するんだなぁ。


犬の性別

スペインの田舎町で、地元のおじいさんが犬の散歩をしていた。犬が寄ってきたので、なでた。

私が

「ペロ、ボニート(犬、かわいい)」

と言うと、おじいさんは

「ノ(違う)、ペラ!」

と言った。

ペロは男性名詞で、ペラは女性名詞。犬は女の子だったらしい。

わかんないよ。


気まずいバイオリン弾き

ペルーの首都・リマのチキン屋さんでご飯を食べていると、バイオリンを持ったおじさんが店に入ってきた。

流しのバイオリン弾きらしい。慣れているのか、店の人は特に反応しない。

おじさんはバイオリンを弾きはじめたが、素人の私にもわかるくらい、はっきりと下手だった。なんかキイキイ鳴ってるだけで、ほとんどメロディになっていない。思わず笑ってしまった。

夫と小声で、「どうしよう、チップとかあげたほうがいいのかな?」と言い合う。

ほかのお客さんは、誰もチップを渡さない。バイオリンのおじさんは、しばらく立ったまま店のテレビを見ていたが、やがて出て行った。


チリの岡本夏生

チリの安宿の居間で、テレビを見ていた。

朝の情報番組だ。コメンテーターが数人、スタジオに並んでいる。

画面がVTRに切り替わる。セクシーな衣装を着た、若い女性が映った。

そしてまたスタジオに戻る。夫が中年の女性コメンテーターを指し、「あ、さっきのVTRこの人だ!」と言う。さっきのVTRは、出演者の過去(セクシーな芸風)をイジるものだったのだ。

チリの番組もこういう演出するんだ……!

感嘆していると、夫が「チリの岡本夏生」と言ったので笑った。


バスで赤ちゃんを渡される

アルゼンチンで、36時間バスに乗った。

通路をはさんで隣に、お母さんと2歳くらいの女の子がいた。お母さんは、首の座らない赤ちゃんを抱っこしている。

女の子は退屈だったのだろう、私の膝に乗ってきた。お母さんは何も言わない。娘が知らないアジア人の膝に座ることに、抵抗がないようだ。

洋服だったか靴下だったか忘れたが、女の子はキティちゃんのグッズを身に着けていた(南米でもキティちゃんは人気)。そこで、私はメモ帳にキティちゃんを描いた。

しかし、私は絵心がない。女の子は、私が描いたキティちゃんを指して、「ケ?(何?)」と言った。

ハローキティだと明かすのが恥ずかしくなり、「……ガト(猫)」とごまかした。

乗車から22時間くらい経ったとき、停車したバスターミナルで、となりの親子が下車した。

私たちもいったん下車して見送る。荷物を取りに行くお母さんが、「これ持ってて」という感じで、私に赤ちゃんを渡した。

えっ。

なりゆきで赤ちゃんを抱っこしていると、荷物を持ったお母さんがやってきて、赤ちゃんと女の子を連れていった。

そのままいなくなられたらどうしようと、内心ドキドキしていた。


それは「オミヤゲ」だよ

パタゴニア地方の田舎町で、たまたま道を尋ねた地元のおじさんが、大の親日家だった。

名前はフアンさん。空手を習っていて、昔は日本語も習っていたそうだ。

フアンさんは私たちを気に入り、「自分はこれから仕事だが、夕食を一緒に食べないか」と言う。

夕方、待ち合わせた店で一緒にご飯を食べた。私たちは、辞書をひきながら片言のスペイン語と日本語で会話した。

そのあと、車でイオンモールみたいな商業施設に行った。本当にイオンモールそっくりで興奮する。地球の裏側でも、田舎の人はイオンモール(のような建物)に集まる。

翌日は日曜で、フアンさんは車で国立公園に連れて行ってくれた。そのあと、墓地に案内される。お墓はひとつひとつがガラスケースになっていて、写真立てや人形が飾られていた。カラフルで可愛い。フアンさんのお父さんとおじいさんのお墓も、見せてもらった。

翌日の夜は、フアンさんの家に招かれた。お母さんと二人暮らしだそう。物の少ない、きちんと片付いた家だった。お母さんはテレビを見ていて、少しだけ会話したが、あまり私たちに興味を示さなかった。

当たり前だけど、チリ人も、人懐こい人と人見知りの人がいるな。

最後の日は、フアンさんが仕事を抜け出して、見送りに来てくれた。

空港で、彼は「シナモノ」と言って紙袋を差し出した。中には、チリの国旗と、ヒツジとペンギンのぬいぐるみが入っていた。

フアンさん、それは「オミヤゲ」だよ。

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