恋愛相談に不向き

念願のバーで、うっちーは意外と落ち着いていた。もっと人見知りするかと思ったけど、マスターの林さんともふつうに会話している。

この記事の続きです。

林さんは話を引き出すのがうまい。うっちーは、自主的に恋愛相談をしはじめた。

いつもnoteやcakesで読んでいる光景。これぞ、うっちーが望んでいたものだろう。

こういう感じ。

林さんのアドバイスはどれも戦略的で、私にはない発想ばかり。バーでたくさんの男女を観察しているから、男心、女心というものを熟知している。

なるほど、これが恋愛コラム書いている人の回答か……!

実は私も、一軒目のメキシコ料理屋でうっちーから同じ相談を受けていた。

だけど、「話しかければいいじゃん」と秒で斬ってしまった。

私は、恋愛でも仕事でも戦略性というものが皆無だ(あったらこんなに貧乏じゃない)。吉玉名義で文章を書きはじめてからなぜか「賢い人」と誤解されがちだけど、策を考えられるほど賢くない。

女友達からも男友達からも恋愛相談をされる機会が多くて、そこは林さんと同じなのに、私が思いつくのは正攻法のみ。

アニメ『四畳半神話大系』で、神様を名乗る男に「橋の向こうから明石さん(好きな女の子)がやってくるから話しかけろ」と言われた主人公が、「それではただの正攻法ではないか!」と叫ぶシーンがある。

私に「話しかければいいじゃん」と言われたうっちーも、そう言いたげだった。

しかし、林さんのアドバイスはもっとモテテクや駆け引きに満ちていて、うっちーも嬉しそうだ。


うっちーは林さんの話を「うんうん、なるほど」と聞いていた。共感しているようだ。

一方、私は聞いていてもよく分からないことが多かった。

興味深いし、「すごいなぁ」とは思うのだけど、私には難しすぎる。足し算を習っている最中の小学1年生が、因数分解の授業を聞いているような感じ。

たとえば、「隙があるほうがモテる」言説。この日も、その話が出た。

これって昔からよく聞くけど、隙があるとは具体的にどういう態度や状態を指すのか。概念としてはぼんやりわかるけど、実感として理解できたことがない。

だって、男友達に彼女や奥さんのどこを好きになったのか聞いても、「隙があるところ」って答えは聞いたことないし。

女友達を見ていても、「この人は隙がある」とか「この人は隙がない」とか、思ったことがないし。

隙って何……?

単純に「すぐヤレそう」という意味ならばモテとは違う気がする。「人当たりがいい」とか「人見知りしない」とか、そういうことなのだろうか?

理屈っぽい性格だからか、ふわっとしたことがわからない。たぶん、「○○ちゃんは隙があるからモテるのね!」と実感した経験が一度でもあれば、隙の概念を理解できるのだけど……。

おそらく、恋愛上級者の人たちは隙の概念を理解しているのだろう。理解している者だけが、それをテクニックとして使いこなすことができる。

けれど、私のようにそもそも理解できない人間は、教わっても活用できない。基礎なくして応用なし。

恋愛熟知度みたいなものがあるとすれば、私とうっちーは初級にいて、林さんは上級。

たぶん、中級くらいまでレベルを下げたアドバイスをしてくれたとは思うのだけど、それでも理解が追いつかなかった。

しかし、うっちーは「とても参考になった!」みたいな顔で聞いている。

え、マジで理解してる!? 飛び級かよ!

うう、私を置いてくなよ……。

私は男性心理も分からなければ、自分以外の女性の心理も分からない。

つまりは人の感情の機微が分からないので、そりゃあ、恋愛コラムの仕事が来ないわけだ。

うっちーの反応を見ていると、私の言葉は何ひとつ彼女を喜ばせることなく、林さんの言葉は彼女を納得させている。

いいなぁ……。

ちょっと残念だけど、うっちーが楽しそうなので、barbossaに連れて行ったことは正解だったと思う。


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