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恋愛サーキュレーション③

何しよう、何を話したら良いのか。

ここに来るまでずっと花澤香菜の「恋愛サーキュレーション」を聴いて心を高めていた。本当は今日行きたくなかった。

でも そんなんじゃ だめもう そんなんじゃ ほら心は進化するよ もっと もっと言葉にすれば 消えちゃう関係なら言葉を消せばいいやって思ってた  恐れてただけど あれ? なんかちがうかも

まさにその通りだ。

あなたが笑っている それだけで笑顔になる

趣味の話をしたら笑ってくれるのかな。「…孝宏さん」「あっ…何?」うひゃー、初めて下の名前で呼ばれた

「孝宏さんはどうしてマッチングサイトに登録したのですか?」

…何でだろうな「なんとなく、かな。久々にfacebook開いたら広告が目に入って」「ああ、私もー。何か良い出会いはあったんですか?」「いやー、対面で会うなんてみなみさんが初めてだよ」「えー、あたしもー!!ありがとうございます!!!」

うわー、みなみさん。そもそも萌え的な名前だよな、南って。みなみけを思い出す。

「今事務職なんですよね?」「うん、転勤して職種が変わった。前エンジニアだったんだ。」「えっ、そうなんですか。じゃあ今の仕事退屈じゃないですか?」「いや、お客様先に常駐して社内からも社外からもガミガミ言われる仕事だったから辟易しててラッキーだった。転職とかめんどくさいし。事務の方が気が楽だよ。決められた仕事を黙々とやる方が好き。」「へえー、そんなもんなんだ。私ずっと事務だからクリエイティブな仕事憧れる。」「そんな面白いもんじゃないよ。決められた仕様に沿ってコードを組み立てるだけだからさ。理不尽なのは完成した後にお客様の都合で使わない事もあるから。」「えー、ひどーい。そもそも何でエンジニアになりたいと思ったんですか?」「…何だろ、何となく食いっぱぐれないと思ったから」「へえー、確かにエンジニアっていつでもどこの業界でも需要ありそうですもんね」

さっきから「何となく」を多発している。意思のない人間と思われていないかな。…いや、その通りだ。僕は意思がない。何となく人生を決めてきた。「…どうして事務職にしたの?」「んー、取り柄がなかったんですよね。単純に。ハードな仕事にも憧れはないし。お金貰って生活していけばそれで良いから。」ちょっとほっとした。「うん、僕も同じ考え。仕事に埋没するよりも好きな漫画やアニメを観て過ごせれば良いかなって」

「お待たせしました、どろめと鰹たたきになります」「うわー、すごーい」「生魚とか苦手?」「いや、大丈夫です」

「んー、おいしー!」「美味しい?」「はい!私うるかとかこういう珍味系好きです」うるか好きなんて変わってんな。「鰹も新鮮ですね!」「でしょう」「どろめ祭りとかあるんだよ」「ええー、すごい、そこまでメジャーな食べ物なんですね」「高知にはもう何年住んでるんだっけ?」「3年です」「僕は半年だけど僕のほうが詳しいね」「そうですね!」「あんまり遊びに行ったりしないんだ」「はい、…高知に来て、友達いなくて、でもそれで良いかなってそれで始めたのがマッチングサイトなんです」「へえ、どうだった?」「いやー、やっぱり使っている人大半が東京に住んでいて。何人かお会いしたんですけど話が合わなくて」

僕にとって彼女はどのような存在なんだろう?愚痴を聞いてくれる良い相手?

「でも孝宏さんは趣味も合うし、話していてとっても楽しいです。」「ありがとう、そんな事人に言われたの初めてだよ」「またまたあー」つい本心が出てしまったのでしまったと思ったけど彼女が茶化してくれてよかった。楽しい話をしよう。

「くまみこ終わっちゃったね」「はい、残念ですー。東京ではコラボカフェもやってるみたいで。あの熊の顔したパン食べたかったなー」「そうだね、こういう時『ああ、今僕は高知か…』って思うよね」「でも小野DのママDがいるんですよね、高知には」「『小野家具店』行った?」「行きました、行きました!」「あんまり似てないよね、小野Dに。でもそこら中にポスター貼ってあって笑った。」「たしかにー」

「お待たせしました、餃子になります」「うわーおいしそー」

普段は漫画やアニメの話しかしないけど、こうして見ると普通の女子だ。表情がくるくる、くるくる変わる。

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