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【ショートショート】ランドセルからの贈り物

卒業式を終えたその夜、優太はもう背負うことのなくなったランドセルを机の上に乗せた。
友達の中にはボロボロになっている子もいたが、大事に使っていた優太のランドセルはまだまだ綺麗だった。
それでもついてしまっている擦り傷も今となっては当時の思い出を振り返るための印のようなもので、その傷をなぞるようにランドセルを撫でた
「まだまだキレイだね。大事に使ってたもんね」背後から母親がそっと声をかけた。
「実はね」優太の肩に手を置き母親は続けた。
「今日で小学校もランドセルも卒業だけど、このランドセルには最後に大きな仕事が残ってるのよ」
「大きな…仕事?」優太は眉をひそめた。
「そう、今日もらった卒業証書をね。ランドセルに入れて無事に卒業できたことを報告するの。すると明日の朝になったらランドセルからお祝いの贈り物が届くの」
「何それ、クリスマスみたい」優太の目が輝いた。
「6年間、ずっとそばで見守ってきたランドセルだから優太のことは何でも知ってるのよ。これから中学生になる優太にぴったりのものをくれるはずよ」
「ママのときもランドセルからもらった?」「もちろん。ランドセルがママのことちゃんと見てくれてたんだって分かって、とっても嬉しかったわ」
「何だろう。ちょっとドキドキしてきた」
と優太は空のランドセルに卒業証書を丁寧にしまった。

興奮でなかなか寝付けない優太の寝息を、ランドセルはのんびり待っていた。
いつも教科書ノートでお腹いっぱい苦しかったがそれも今となっては懐かしかった。
そして一冊だけ収められている革の表紙の卒業証書を確かめた。
無事に卒業できたんだね。優太おめでとう。
ランドセルは最後の役目を果たすべく気合いを入れた。
そろそろ協力者がやってくる時間だ。その通り部屋に近づいてくる気配を感じる。優太の6年間を共に見守り続けた相棒と言っていい。
静かにドアが開く。協力者とランドセルは互いに認識しあうと静かに頷いた。
さあ、どんなに大きな贈り物でもしっかり抱え込むぞ。
その緊張を解くように協力者はそっとランドセルをひと撫ですると
優しく錠前に手をかけた。

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