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【ショートショート】サボテンの頬ずり

女優として第一線で活躍する田崎祥子はSNSの類は一切やっていなかった。
事務所からミステリアスなイメージを壊さない為に手を出さないよう釘を刺されていた事も理由だが、そもそも興味がなかったのも事実である。
なので彼女に対する人気者故の根も葉もない中傷発信は基本的には本人に届く事は無かった。
ある例外を除いて。

着信したスマホの画面には一般人である姉の名前が表示される。
「もしもし。ちょっと大丈夫?今のドラマの役ネットで散々叩かれてるから心配になって電話したんだけど。でも気にしちゃ駄目よ。私はいい演技だと思うわ」
「姉さん。私そんなの見てないから知らないの。教えてくれなくていいから」
しばらくしてまた着信があった。
「祥子。言い忘れてたけど、誰に何を言われてもクスリだけは駄目だからね。私は信じてるけど母さんが心配してるから」
「…分かったから、変な心配しないで」
「あと、新人の吉川紗理は私も生意気そうだなとは思ったけど、事務所の後輩はイビったりしちゃダ」
終話ボタンを押した。
お節介という名のサボテンは悪意なき頬ずりをする。
祥子の心には無数の棘が残った。

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