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【ショートショート】交渉人

「よぉ。誰かと思えばテルじゃねえか。ひさしぶりだな。なんだまた顔変えたか」
「ご無沙汰してます。今日は折り入ってお願いが」
「そんなこたぁ分かってるよ。お前がここに来るってことがそうじゃねえか」
「…明日。どうしても譲れないですよ」
「そんなこと言ってもなぁ。明日は大口の依頼も来てるんだ。正直そっちの方がそろそろ手を打たないと深刻なんだわ」
「その案件でしたら…無理は承知で開始を1日だけ遅らしてもらえませんか。1日だけならまだ挽回できるはずです。こっちは明日しか無いんですよ。ちょっとコレ見てください」
「…ほう。最近にしちゃ珍しくいい生地で出来てるじゃねぇか。健気だねぇ。うん、健気だ」
「こんな時代に、まだ俺なんかを頼ってくれる奴が居るんですよ。応えたいじゃないですか。どうか、どうかお願いします」
「困るなぁ。なんでこう被っちゃうんだろうな。…分かった、一応通しておくよ。でも最終的に決めるのは上だからな」
「分かってます。本当にありがとうございます」

「やったぁ!ほら、ママ見て!!おそと晴れてるよ!今日あるよね!?」
「あら本当、すごわね予報じゃ雨だったのに。予定通り遠足の準備しなくちゃね。やっぱり作った甲斐あったね」
雲間から降り注ぐ朝日に照らされて、てるてる坊主はジグザクに微笑んでいる。

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