【ショートショート】成分表示の義務化

『大豆（遺伝子組換えではない）』

「これも最初は違和感あったのにな」
男は商品棚から納豆を手に取ると成分表示の面を妻に向けた。
「最初は遺伝子って響きに少しドキッとしたわね。これもそう」妻はそう言うと商品かごの中のポテトチップスの袋を指さした。
「でもなんで急にそんなこと言うの」
「昨日本屋に寄って小説を買ったんだけどさ」男は鞄から真新しい単行本を取り出した。
「どうやらいつの間にか小説にも成分表示が義務化されていたんだ。全然知らなくってさ」
「え、どういうこと。単純に『紙』で終わりじゃない。しいて言えばあと『インク』とか」
浮かない表情の男は妻に本を手渡した。
彼のお気に入りの作家の作品だった。昔から新刊が出ると必ず読んでいる。
「…あ！」思わず大きな声が漏れた妻は、店内であることを思い出し慌てて口を覆った。
「確かにこれは複雑ね。読む方としても」苦笑いで妻は本を男に返した。男も同じく苦笑いでソレを受け取った。
男は再び単行本の成分表示に目をやった。「いずれこれにも慣れるのかな」

『物語（人間５％、ＡＩ９５％）』