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シュール

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吉田図工のシュール作品です
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2022年5月の記事一覧

【ショートショート】炎上アイドルの秘密

スタジオの楽屋。 撮影の合間を縫いアイドル歌手の楓夏サキは芸能雑誌の取材を受けていた。 雑誌の女性記者は当たり障りのない質問を何問かした後、椅子の上で一度姿勢を正し本題を切り出した。 「少し込み入った質問なんですが、サキさんは今巷で『何をしても炎上してしまうアイドル』として話題なんですが、それはいわゆる…戦略的な所もあるのでしょうか」 視線の外でマネージャーから鋭い視線の牽制を捕らえたが彼女の瞳から視線は離さず無視をした。 彼女はつい先日も昼ご飯をSNSへ投稿しただけで殺人予

【ショートショート】未知の言語

ジャングルの道なき道を彷徨う事2週間。やっと原住民族の村を探し当てた。 メイクや衣装の特徴がこれまで出会った民族とのどれとも合致せず、恐らくはまだ確認されていない未知の民族と思われた。 突如現れた異物の存在に彼らは不信感と恐怖をあらわにし続々と村人が集まり始めた。 むやみに興奮させてはならない。私と現地で雇ったガイドは一定の距離を保ち静観する。 何とか敵意が無いことを意思表示する。 しかし両者意思疎通が取れないまま膠着状態が続いた。 すると民族の長老と思しき人物が屈強な若者

【ショートショート】リサイクルショップ

数日前、 家の不用品を整理し、まとめて近所のリサイクルショップに持って行った。 買取査定をしてもらっている間、時間つぶしに店内を物色する。 日用品から家具に家電。楽器からゲームと掘り出し物を探す視点で見るとそれだけで楽しいものだ。 以前は確かCDコーナーだったはずの棚には違う商品が置かれていた。 もう音楽はサブスクが主流でCDの時代じゃないよなと素通りしかけたが 『おもしろい話』 というポップが目に止まり、思わず商品を手に取った。 トレーディングカードの様に梱包されたパッケー

【ショートショート】2122年の機種変

「あれ?もしかして機種変した?」 友人の言葉に俺は誇らしく自身のガスマスクを撫でた。 「おう。最新は全然違うわ。マジ軽いしやっぱ空気が全然違う」 「マジいいなぁ。俺もう3年も使ってるから消臭機能ヤバイよ。親に相談したら卒業まではコレ使えって」 一回り大きなガスマスクを指で弾いて友人は嘆いた。 「それで、プランも変えた?」「もちろん。3万から5万のプランに変えた」 友人は目を見開く。 「マジかよ!1日5万コキュも使えたら何でも出来るじゃん!」 「まぁな。運動部で3万はきついって

【ショートショート】終わり

仕事でヘマをやらかした2人は懲罰房に閉じ込められた。 「兄貴、親分カンカンでしたね。俺ら一体どうなるんすか?」 「知らねーよ。第一逃げ遅れたのはヤス、お前の食い意地が原因なんだからな」 施錠の外れる音がした。2人に緊張が走る。 ひょいとニヤケた顔の見張りが顔を出した。 「親分が1度だけチャンスをくれるそうだ。コレが解けたら出してやるとさ」封筒が手渡され、再び施錠する音が響いた。 「兄貴、なんすかそれ?」 中には1枚の紙切れが入っており『1つだけ足して終わりを継続に変えろ』とだ

【ショートショート】腐敗と成長

「じゃあ何。それが本当に不発弾だとしてどうしたいの?」 「撤去すべきだと思います」 「期間は?その間、本来建設中のモノはどうなんの?」 「最低1ヶ月は必要だと思います…もちろんその場合は開発を止めざるを得ません」 「仮に撤去したとして…もし不具合が出たらお前責任取れんの?」 「やってみないことには…」 「いい?そもそもそこに不発弾があるのは俺らの責任じゃないの。埋めた先人がいる訳でしょ」 「もし爆発したら全てに影響を及ぼしかねない所なんです」 「でも実際今日ま

【ショートショート】石の意思

私はどうやら『石』のようです。 ようですというのは、全くの無の状態から急に起こされたような変な感覚だからです。 周りには自分と同じような『石』の存在を感じます。 そして不定期に覆いかぶさるような何かを感じます。 鳥と呼ばれる方が先程見るに見かねて私に教えてくださいました。 お前は川辺の石の一つだと。 神様が暇つぶしで名前と同じ響きの言葉があればソレを与えて回っていると。 なのでお前には『意思』が与えられたのだと。 どうりで無性に違う所に行ってみたいという考えがまとわりつく