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ファンタジー

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吉田図工のファンタジー作品です
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2022年12月の記事一覧

【ショートショート】舞台袖

舞台袖で次の出番を待つ。否が応でも緊張が高まる。 舞台上のコンビは華やかな衣装にポップなネタで観客を盛り上げていた。 「ええか。お前らが場の空気をガラッと変えて大トリの師匠に繋げるんや」 背後から支配人の声がした。 「毎年言うてますけど出番あいつらより前に出来ませんか。僕ら華が無いんであいつらの後はしんどいし、何より師匠の前は荷が重くて…」 どっと観客の笑い声。あいつらは今日も調子がいい。 「師匠は俺の前を取り仕切るんはお前らしかおらん言うてはる。もっと自信持て」 二人の肩を

【ショートショート】下町のクリスマス

まだ私の名前がサンタさんの配達リストに載っていた頃の話。 「うちは煙突もないし、今日は玄関の鍵開けといてもいい?」 母に懇願するも「余計に泥棒も入ってくるからあかん」と一蹴された。 そして世界中一晩でプレゼントを配るのにこんな下町まで来てられない、そもそも良い子にしかサンタは来ない。 と母は悪戯に伏線を張った。 数日前のTVニュースで『サンタさんへの手紙』という存在を知った。 その手があったのかという驚きと、もう手遅れだという絶望が渦を巻いた。 サンタはこの街を通り過ぎるかも

【ショートショート】天地製造

人間の営みを見下ろし、神は涙を流していた。 決して悲しんでいるのではない。感動の涙だ。 それはまるで立派に走る我が子の成長した姿を見る、親のそれに等しい。 幾多の失敗や教訓の歴史を経て、省人化、省力化をスローガンに人員、コストなどありとあらゆる無駄を排除し効率化を求め続け、今も世界を未来へと推し進めている。 神がこの世界を7日間で創り出した頃からは想像し得ない成長を遂げていた。 そして神は己を恥じた。 意を決し、神は時の座を立ち上がる。時間を遡り天地創造の第6日目までかえって

【ショートショート】日常階段

とあるオフィスビルのある日の光景。 普段は立入禁止の非常階段の扉に張り紙が貼られている。 『非常時になって初めて利用するのでは不安だとの要望をうけ、日常も使用可能といたしました』 しばらくして、扉には別の張り紙が貼られた。 『日常から非常階段を使用出来てしまっては、非常階段の意味を成さないとのご指摘を受け、非常階段と同じ構造の日常階段を新たに設けました。非常階段の使用感を日常階段にて是非お試しください』 翌週、更に別の張り紙。 『現在当ビルは階段(既存)、日常階段(新設)が乱

【ショートショート】そこでは首輪を外して

これといった特産品や観光資源が無く、とある町は財政難に苦しんでいた。 ある役場職員の発案で、起死回生の一手に打って出た。 国に何度も掛け合い町を『とある保護区』へ認可させる事に見事成功したのである。 半年後。 町は人が押し寄せる人気観光地へと変貌していた。 閑散としていた町に人々が行き交い、地元商店にも活気が生まれていた。 奇跡の復活ともえいる変貌を遂げた町に、興味を示した雑誌記者はカメラマンを帯同し発案者である役場職員の元を訪れた。 職員の案内で活気溢れる町並みを一通り写