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色を科学する <番外編> グレーカードはなぜ18%???

 カメラの露出を決める際よく使われるグレーカード。「18%グレー」とされていますが、なぜ50%でなく中途半端な18%なのか?ディスプレイで再現する時のRGB値は?など。※「明度関数」に関する記事からの派生です。

明度関数をよく見てみると...

 明度関数は、Y(相対化した輝度)に対し、上に膨らんでいる形状となっています。つまり、45度の直線(いわゆる正比例)より全体的に上に凸になっています。なので、「中間のグレー(マンセルN5)」を再現するにはY=50ではなく、もっと低い値、具体的には約18.5になります。

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  写真の露出決定に使われるグレーカードが「反射率18%」となっているのはこのためです。18%は暗いグレーではなく、ちょうど中間のグレーなので、露出決定の基準としてふさわしいということです。

 被写体に白が多いと低めの露出になって、暗い画像になりがち。逆に黒が多いと高めの露出になって、白飛びした画像になりがち。適性露出(とホワイトバランス)にするには中間のグレーがBestというわけ。

 「18%=中間のグレー」ということは、真っ黒から少し(2割)明るくなるだけで、人間には中間のグレーに見える、ということです!例えば、黒髪に2割白髪が混じるだけで、中間のグレーに見える*ことになります

*:大田 登, "色彩工学 (第4章 均等な表色系)", 東京電機大学出版局, 1993

 したがって、Y=50のグレーL*=76となり、下記のように、中間とはかけ離れた明るいグレーとなります(見え方はディスプレイに依存)。

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※両端は比較のための白と黒


18%グレーのRGB値は?

 ということは、中間のグレーを再現するRGB値は、0-255のちょうど真ん中の128ではなく、18.5%のところ、すなわち、255*0.185=47となる???

 ということで、実際にRGB=47,47,47の色を作ってみても、非常に暗く、とても中間のグレーとは思えません↓

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※両端は比較のための白と黒


原因はディスプレイのガンマ(γ)

 これは、ディスプレイにガンマ(γ)特性があるためです。ガンマ特性は以前ディスプレイの主流だったCRT(ブラウン管)の特性です。CRTは入力信号値=加える電圧と発光輝度に下図のような非線形な関係があります。つまり、電圧が低い時はほとんど発光せず、徐々に電圧を上げていくと急激に明るくなっていくのです。45度の直線と比べ、下に凸な形状です。

 ガンマ値はディスプレイやOSによってまちまちですが、ここではγ:2.2としています。

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 発光輝度をL、入力信号=加える電圧をEとすると、この関係は下記の式で表現できます。

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(Kは定数、γはディスプレイの種類に依存)

 この下に凸なガンマ特性があるため、RGB値=47を入力しても、相対輝度Yは2.4にしかならなかったのです。

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 γ:2.2であることを考慮すると、18.5%の相対輝度を再現するRGB値は、R,G,B = 118,118,118となり、見た感じも中間に近いですね。

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※両端は比較のための白と黒


つまり、中間のグレーをディスプレイで再現するために、下記のような変換が必要だったということです。

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あれっ!結果的に…

 ここで思うのは、RGB値が118って、結果的に128に近い値となっていることです。何も考えず、中間だから128でもよかったのでは??と

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 そうです!結果論ですが、大まかにはそれでいいのです。その理由は、明度関数とガンマ特性を並べてみるとわかります。

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 両者は45度の直線に対し、ほぼ対称な形状をしており、逆関数に近い特性を持っています。よって、両者の非線形性は打ち消し合います。結果として、ディスプレイとセンサー(というかそのあとの処理&認識系)を合わせたトータルなシステムとしては、ほぼ線形なものとなり、中間の入力信号128を入力すれば、20%で発光し、ヒトにはそれが中間のグレーに感じる、と。


CRT亡き今、ガンマ特性は...?

 以前はディスプレイといえばCRTであり、ガンマ特性はCRT固有の回避できない特徴でした。一方で、デジカメのセンサーであるCCDやCMOSは輝度と出力値は線形の関係があり、被写体の輝度が2倍になれば、出力値であるRGBもおおむね2倍になります。

 するとどうなるか?デジカメで撮った画像をCRTに表示すると暗い絵になります。白は白のまま、黒は黒のままなので、正確にいうと中間調が暗い絵ですね。

 なので、デジカメではCCDやCMOSの"ナマ(Raw)"の出力値に、このガンマ特性の逆関数を掛けてから最終的な画像にしています。これによりトータルで、輝度と線形なシステムとなり、見た目に合うというわけです。

 明度関数はヒトの視覚系の進化の結果(ダイナミックレンジを広げる)で、カメラの逆ガンマ特性はCRTへの対応なので、両者の一致は偶然なのですが、興味深いですね。

 ちなみに、液晶ディスプレイ(LCD)にはガンマ特性はありません。が、引き続きカメラには逆ガンマ特性が掛かっているので、LCDにもソフトウエア的にガンマ特性が掛かってます。CRTとLCDが共存していた期間が長かったこともあり、やめるタイミングを見失って、今でもそうなっているようです。

 ※詳細は省きますが、カメラに逆ガンマが掛かっていた方が低輝度領域のサンプリング誤差が小さくなるという利点もあります。

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