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P・F・ドラッカー氏の『イノベーションと企業家精神』を読んで考えたこと②

ドラッカー氏の「イノベーションと企業家精神」読んで考えたことシリーズ2回目。前回は、イチゴル自身のイノベーション論に対する興味を持ったきっかけと、本書を読んで書き留めたいことのうちの1つ目を記載した。
 

今回は、書き留めておきたい2つ目を記載する。
(全部で3つ)


書き留めたいことその2 イノベーションの第3の機会について

前回、紹介した通り、本書でドラッカー氏は、イノベーションとは「市場や社会における変化」であるとしており、そのための機会として「イノベーションの7つの機会」を提示している。
 

これらの機会を分析し、検討するとともに、現場に出て、見て、聞いて知覚することによって、その機会を活用することができ、イノベーションを実現させていくことができる。
 

ここでは、第3の機会として位置付けられる「ニーズを見つける」という点に焦点を当てたい。
 

ニーズ。
 

それは、もはや経営用語やマーケティング用語に留まることなく、一般用語といっても良いほどに社会に浸透しているコトバである。
 

しかしながら、この「ニーズ」というコトバも、誤解されて使われていることの多いコトバのように思われる。
 

一般に「ニーズ」という用語が使われる場合、それは例えばある製品やサービスについてとった顧客アンケートの「回答そのもの」と理解されていることが多いと思われる。
 

だが、ドラッカー氏がいうニーズはそのような表層的な意味で用いられているのではない。「ニーズの深堀り」というコトバがあるように、表層的なニーズを慎重に検討することで見えてくる、顧客の本当のニーズや課題を特定すること。

これがドラッカー氏の言う「ニーズを見つける」ということなのだと理解している。この点、『ジョブ理論』(クレイトン・M・クリステンセン)において使用されている「ジョブ(顧客の片づけるべき用事;困りごと)」が、ドラッカー氏のいうところの「ニーズ」に近いかもしれない。
 

前回のイノベーションの7つの機会に記した通り、イノベーションはなにも華々しいものばかりではない。

むしろ多くのイノベーションは「平凡」である、というのがドラッカー氏の主張であった。
 

ここで、本書で紹介されているイノベーションのための一つの機会としての「ニーズ」を考える例を紹介する。

数学教育の例

  「例えば、数学教育に問題があることは何百年も前から感じられている。数学が簡単にわかる生徒は少ない。おそらく5人に1人もいない。残りは一生数学がわからないままである。
 確かに集中的に繰り返し勉強させれば、試験で合格点をとれるようにすることはできる。日本では、特に数学に力を入れることによって合格点をとれるようにしている。だからといって、日本の子供たちが特に数学がわかっているわけではない。試験のために勉強してもそのあとは忘れてしまう。10年立って20代も後半になれば、欧米人と同じように合格点はとれなくなる。
 もちろんいつの時代にも才能のない生徒でさえ数学がわかるようにする天才的な教師がいる。しかし誰もまねることはできない。教え方のニーズは感じられている。だが理解はされていない。数学を教えるうえで必要とされるのは、天賦の才か方法論か、あるいは心理や情緒がからむのか誰も知らない。そして、まさにニーズが理解されていないために解決策も見つかっていない。」

P・F・ドラッカー『ドラッカー名著集5 イノベーションと企業家精神』 ダイヤモンド社、2007、p69

 ドラッカー氏は数学教育界においてそのニーズは不明のままである、と指摘している。これは言い換えれば、数学教育において、イノベーションの機会はまだ存在するということである。
 

イノベーションが科学技術を駆使した華々しいもの、と思い込んでいる方にとっては、このように「数学教育」でさえ、イノベーションの対象となることを知っておくことは、身近にある機会に目を向ける良い機会になるのではないだろうか。例えば、だれでも数学を一定レベルの理解に導ける方法(上述の天才的な教師の方法)をノウハウとして世の中に浸透させることができれば、それは立派なイノベーションとなるのである。

さて、ここで数学教育と関連して、副業ゴルフコーチを通じて感じるコーチングの本質について述べたい。

数学教育とゴルフレッスンは、分野は違えど、「一つの思想やスキルを、自分以外の人に追体験してもらい、それを習得してもらう」という点では本質は同じだと考える。

したがって、引用した最後の二文において、「数学を教えるうえで必要とされるのは、天賦の才か方法論か、あるいは心理や情緒がからむのか誰も知らない。そして、まさにニーズが理解されていないために解決策も見つかっていない。」としているが、イチゴル自身のゴルフレッスンの経験上は、「心理や情緒的な観点も含めた方法論」を確立し、テキストとしてまとめれば、一見すると属人的な教育方法も、再現性高く提供することが可能だと考えている。

心理や情緒的な観点も含めた方法論」としたのは、一定のスキルや思想(ここでは数学的な考え方)を身につけるうえでは、技術的な方法論がいくら正しくても、それを受け入れるのは人であり、そして、その1人1人には、それぞれの心(性格を含む)があるため、一筋縄にはいかないからである。

順風満帆にはいかないスキル・思想の習得の道中で、いかにその人のココロの状態に寄り添えるかは、技術的な方法論と同じか、もしくはそれ以上に重要なことだと考えられる。

これらはマニュアル化されて答えがある問題ではなく、スキルを伝える側、受け入れる側の対話を通じて、ともに学んでいく類のものといった方が近い。

したがって、ココロの状態への寄り添い方は、確かに技術的な方法論よりもよほど形式知化するのは難しいかもしれないが、それでも原理原則を貫くことで、その寄り添い方をだれでも習得していけるものだと考えている。
(なお、この伝え方の原理原則的な話については、伝え方の本質シリーズを
参照のこと☞LINK

今回のまとめ

今回は、『イノベーションと企業家精神』で述べられている、イノベーションの第3の機会「ニーズを見つける」について紹介した。

そこで語られている「ニーズ」は古くからあるコトバではあるものの、それを本当の意味で把握することが、世の中に大きな変化を生むことになる。

さらに、イノベーションの機会が、Googleの検索エンジンやAppleのiPhoneといったテクノロジー系でかつ華々しい分野だけでなく、これもまた古くから存在している「数学教育」といった分野においてさえ、機会となりうることは、イノベーションに対する正しい理解につながるものだと思われる。

そういった視点で身近なところにイノベーションの機会を探してみてはいかがだろう。


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