ドイツのエネルギー対策から学ぶことはあるのか?
ドイツはどう見られているのか
我が国では、ドイツの環境政策が優れているとして、ドイツを見倣おうとする人たちがいる。
2000年頃からのドイツのエネルギー政策の変遷をまとめてみた。
そのドイツは、エネルギー供給を再生可能エネルギー(再エネ)でまかなえると考え、石炭と原子力を同時に廃止することを決議した。しかし、ウクライナ戦争が起きた今、ドイツのやり方がいかに政策的な失敗を招いたか、世界が目の当たりにしている。
ドイツの再エネ重視政策
22年前、ドイツは太陽光発電や風力発電への補助金、石炭や石油、天然ガスの削減を掲げた「Energiewende(エネルギー革命)」を実施し、グリーンエネルギー運動の先頭を走り始めた。2011年の福島第一原子力発電所の事故後には、原子力発電所の閉鎖を決定している。
その頃、ドイツの電力に対する自然エネルギーの占める割合は7%以下であったが、2021年には発電量の40%を超え、総エネルギー消費量の約20%を占めるようになった。
ドイツは、断続的な太陽光や風力発電をバックアップするために、ガス火力発電所を大量に増設することを決定した。ドイツの天然ガス需要の半分以上をロシアが供給している。ロシアからのガス輸入を増やすために、新しいパイプライン「ノルドストリーム2」を建設したが、現在、そのパイプラインは停止している。
仮にロシアがドイツへのガスを停止すれば、ドイツ国民の半分、約4000万人が依存している家庭用暖房システムやガス輸入に大きく依存している工業プロセスが崩壊してしまう。ガスが使えなくなったり、暖房費が高騰したりすれば、政府は経済的混乱、国民の反発、憤慨に耐えられなくなる。実際、国内の混乱が予想されるため、ウクライナ戦争に対する西側諸国の対応には疑問符がつくという声も多い。
現在、EUはガス貯蔵施設を満タンにするという全体目標を持っており、10月までに80%、11月までに90%を達成しようと対応を急いでいる。
ロシア依存を減らすために
ドイツでも、ウクライナ戦争以降、ロシアからのガス輸入を大幅に減らそうとしたが、LNGなどの代替エネルギーが利用できるようになるまでには時間が掛かるため、暫くはロシアのガスが必要だと主張してきた。ここ数ヶ月、ドイツ政府は冬場の暖房用燃料として十分な量のガスを確保するため、11月までにガスの貯蔵施設を90%の容量にする措置をとっている。しかし、ノルドストリーム1パイプラインのガス供給量が減少し、欧州に出荷していた米国の主要な液化天然ガス生産者に障害も発生したため、この目標の達成は難しくなっている。
ドイツの連邦産業同盟は、2022年の経済成長率予測を1.5%に引き下げ、戦前に予想されていた3.5%から下方修正した。ロシアのガス供給が停止すれば、景気後退は避けられない。
ドイツの緊急対策
緊迫した供給状況を踏まえ、ドイツ政府は国民にエネルギー使用を控えるよう呼びかけた。
6月19日ドイツのハベック経済相は、ロシアからの供給削減による電力不足が懸念される中、発電用の天然ガスの使用を制限し、その解決策として石炭火力を増やすと発表した。
2021年末、ドイツの家庭が支払う電力料金は1キロワット時あたり32セント、一方、原子力産業を維持したフランスでは23セントだった。アメリカ人の電気代は平均11セントで、ドイツ人の3分の1である。ドイツ人の電気料金の20%は、風力や太陽光を補助するための「再エネ課徴金」に充てられている。
ドイツの再エネの現状
ドイツは、再エネ容量を増やすために多額の費用を投じてきた。電気電子学会(IEEE)の2020年版レポートによると、2000年のドイツの電力出力は総容量の54%であったが、2019年には、自然エネルギーの急増により、ドイツの総電力容量は大幅に増加した。しかし、化石燃料や原子力に比べて、風力や太陽光発電の生産性が低いことが大きな原因で、その稼働率はわずか20%にまで低下してしまった。
ドイツは国土の多くが曇りがちなため、太陽光発電の発電量は10%にとどまっている。風力発電も、穏やかな日には風力タービンの発電量がゼロになり、突風の強い日にはタービンブレードの損傷を防ぐために停止しなければならないため、発電量を大きく下回った。自然エネルギーには、政治経済の都合ではなく、自然現象に準じた科学技術的な原理が優先する。これからも類似の事象が再発する可能性は大きい。
IEEEの報告書には、「ドイツでは、過剰な設備電力を維持するために多大なコストが掛り、ドイツの家庭の平均電気代は2000年から2倍になった」と記されている。
グリーン技術への道徳的苦慮
ドイツは、Energiewendeがもたらす道徳的影響にも苦慮している。ドイツ議会は、中国から購入したソーラーパネルが「ジェノサイド」と「奴隷労働」のもとで製造されていると判断した。風力発電や太陽光発電、EVについて、自分たちは徳の高いことをしていると思っている人がいるが、これらの中国における背景を調べてみると、戦略的な問題はもちろん、人権的な観点からもかなり危険なものだと分かったということである。
我が国も、2050年ゼロエミッションやカーボンニュートラルの号令の下、膨大の金額の投資を行おうとしている。
ドイツから学ぶべき教訓はあるのか?
ドイツから学ぶべき教訓としては、風力や太陽光は非効率で信頼性が低く、汚染を引き起こす劣悪な技術であり、必ずしも友人とは限らない外国への危険な依存を生み出すということである。関係者は、こうした点に注意を払い、適切な対応をしていかなければならない。
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