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メルカリで買った玉ねぎと一緒に本を売った

「大きな玉ねぎのぬいぐるみが欲しい」

ふと、そんな願いが降りてきた。作曲家の頭にメロディが落ちてくるように。

そんなニッチな欲求から始まり、気がつけば玉ねぎと一緒に本を売っていた。

人の出会いには「タイミングが重要」とされているように、ぼくと玉ねぎが出くわしたのは偶然の力だった。



文学フリマという、手作りの本を販売するイベントに出店することになった。そこでは、福島と北海道で過ごした頃のエピソードを盛り込んだエッセイ本を販売する予定だった。

ブースを構えるにあたって、店頭に置くグッズを考えた。お客さんにエッセイを紹介するにあたり、おしゃべりのきっかけになるようなアイテムがあればいい。

ぬいぐるみはどうだろうか。店の雰囲気が軽くなるし、来た人が触ってくれるかもしれない。決まりだ。

どんなぬいぐるみがいいだろう。せっかくなら、本のエピソードに登場するモノがいい。そうだ! 玉ねぎにしよう!

エッセイには「行きつけのカレー屋の店長と仲良くなり、玉ねぎの収穫体験を一緒にした」という体験が盛り込まれている。

もし大きな玉ねぎのぬいぐるみがあれば、目に留めた人に「玉ねぎが出てくる本あります!」と紹介できる。アイキャッチをしつつ、商品の中身に触れるきっかけになる。なかなか良いアイデアなのでは?

体温の上昇を感じながら、ネットでウキウキと「玉ねぎ ぬいぐるみ」と検索する。

……検索結果がとても少ない。玉ねぎのぬいぐるみはあるにはあるのだけど、とても小さい。通行人の目を引くようなサイズ感のものは見当たらない。

そりゃそうか。どんな企業が「大きな玉ねぎのぬいぐるみは需要があるぞ!」と判断して製造するんだろう。思いついたとしても、上司にどう説明していいかわからないもの。

ふと、画面に目を戻す。長ねぎの大きなぬいぐるみは結構あるのに。悔しい。野菜も見た目でコンテンツ力が判断されてしまうのか。長ねぎの方がかわいいの、ちょっとわかるけども。

諦めてスマホを投げ出した。玉ねぎは諦めるか。ちょっと変わったもの、置きたかったんだけどなぁ。

すると、フッと姉の姿が頭によぎった。かつての発言が蘇る。

「とうとうマイカー買っちゃった! え? どこでって? メルカリだよ! 車だって売ってるよ!」

メルカリで車買った人聞いたことないよ! と盛大なツッコミが再び浮かぶ。姉は思い切りでドンドコ大きな決断をしてしまうタイプなのだ。

それはさておき、お買いものの選択肢としてメルカリがあるじゃないか。ダメ元で検索してみよう。

「玉ねぎ ぬいぐるみ」検索結果

ほほう…たしかに普通の通販サイトでは出てこなかった玉ねぎたちが並んでいる。ただ、ここも大きいのはなさそう…と不安ながらに物色を続ける。

すると、一際異彩を放つ存在に出くわした。

※写真は購入後

絶対でかいじゃん! ぼくのイメージにピッタリだ! 背中から込み上げてくるワクワクとともに、購入ボタンを押した。

でも冷静に、この商品の生みの親はどうして「XLサイズの玉ねぎを作ろう」と思い立ったんだろう。どの辺がターゲットなのか。ぼくにはたまたま刺さってるけれども。

出品者の方も、なぜビック玉ねぎを手に入れたのちに「売ろう」ってなったんだろう。

説明に書いてあった。お子さんが取ってきたのかな。すぐに飽きられちゃったのかな。玉ねぎそんなに好きじゃなかったのかな。

そんな商品をとりまくストーリーに妄想を馳せるのも、メルカリの醍醐味の一つかもしれない。

数日後、自宅に玉ねぎが参上した。デカいとは思っていたけど、想像以上だった。カレー60皿くらいできちゃうレベル。

ヤングドーナツがよりヤングに見えるサイズ


そして文学フリマ当日。玉ねぎをスーツケースに押し込み、共に会場へ向かう。店番を1人でするのでとても心細かったのだけど、玉ねぎが「平気やで」というオーラを放っていたので心強かった。

会場に到着し、ブースを設営。玉ねぎさんはこんな感じにおさまった。

玉ねぎって伝わる…?

本当はミニ黒板に「玉ねぎです」と書きたかったのだけど、想像の余白を残すために「メルカリでかいました」と書いた。「いや、購入経路じゃなくてそもそも何なのか教えてくれ」と突っ込んでほしくて。

イベントがスタートし、お客さんがブース前の通路を通る。玉ねぎ、チラチラと見られている。黒板の文言に気がつき「ふふっ」と笑みをこぼす人や、「メルカリで買ったとかウケる〜!」と友人に話しかけている人がいた。小ネタに気がついてくれて嬉しい。

さらに、玉ねぎは売り子の如く活躍してくれた。事前に「大きな玉ねぎが目印です」と告知していたので、来てくださったお客さんが「ブースの場所、一発でわかりました」と言ってくれたり、はじめましての方が「これ何ですか?」と訊いてくれたり。通りかかった子どもが、いつの間にか玉ねぎの皮をペリペリと剥いていることもあった。

たまたまぼくのブース前を通りかかった人が、玉ねぎに目をとめて、本を手に取って、購入してくれた。偶然の出会いが、流れるように結ばれていった。


メルカリのお買いものも、そんな一期一会の楽しさがある。「玉ねぎ ぬいぐるみ」と検索してみても、これを書いている時点では同じXL玉ねぎぬいぐるみは見つからない。

たまたま玉ねぎのぬいぐるみを強く欲しているぼくがいて、そのタイミングでデカ玉ねぎを手放そうと思った出品者の方がいた。あと少し思い立つのが遅かったら、ぼくはこの玉ねぎに出会えていないかもしれない。さらに言うと、玉ねぎが連れてきてくれたお客さんに、ぼくは出会えていない。

今度からは、「これは流石にないだろ」って思うモノでも、メルカリを覗いてみようかな。そしたらきっと、また不思議な出会いを連れてきてくれるのかもしれない。

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