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新郎の手には旗を。新婦の手には鳴子を。


目を疑う。参列者の半分が、はっぴを着ている。そう思えば、新郎が旗を振り出す。新婦が鳴子を持って踊っている。

ここって結婚式場だっけ。お祭り会場なのかな。

「普通の結婚式」の概念が吹き飛ぶのを感じながら、ぼくも鳴子を打ち鳴らしていた。



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結婚式に行くことになった。前任地で所属していた、よさこいチームのメンバー同士の式だ。新婦がチームの代表で、新郎が旗士。旗士とは、踊り子の後ろで大きな旗を振ってくれている人。

そんなチームの先頭に立っている2人が、結婚する。この2人には随分お世話になった。ぼくがこのチームに入ったときは人が少なくて、新婦と新郎とぼくの3人で練習することが多かった。

家族みたいだった。新婦がよさこいをしたことのないぼくに、1から丁寧に教えてくれた。新郎がぼくの練習を見守りながら、1つずつできるようになったことを褒めてくれた。

3人で一緒の車に乗って、お祭り会場に行った。共に踊り、声を出して、拍手に包まれた。帰りは屋台のたこ焼きを食べた。

ぼくにとって、よさこいの父と母だ。新婦はいつも好きなことに真っ直ぐで、心の声に素直だった。新郎はなんでも受け入れるおおらかさがあって、新婦の好きなことをカタチにする手伝いをし続けていた。

そんなぼくの大好きな2人が結婚するにあたり、頼まれたことがある。そう、余興だ。もちろん、よさこいの披露。ぼくは北海道に転勤してるけど、現メンバーと一緒になってチームの曲を踊ることになった。

よさこいでは専用の衣装を着る。スーツで参列して、途中で着替えるのかな?と思ったけど、新婦からこう言われた。

「ウチのチームはね、みんな衣装で参列で!」

攻めのスタイルだね。正直冗談なのかな、と思った。けれど、気がつけば式の前日に。念のためチームメンバー同士で確認したが、やっぱり衣装らしい。マジか。

当日。式場までの道すがら、知り合いに会わないことを祈りながら衣装で向かう。待合室に到着。チームメンバーとの久々の再会に胸が躍る。

しばらく待っていると、他の参列者も現れた。親交のある別チームのメンバーたちだ。はっぴを着ている。あなたたちもですか。

最終的に、集まった参列者の約半分がよさこいの衣装だった。お祭り会場かよ。ぼくの心についていた固定概念が、コロンと音を立てて1つ落ちた。

挙式が始まった。普通なら、神父が「健やかなるときも、病めるときも」の誓いの言葉の場面だ。

しかし、神父はいない。新郎と新婦がどでーんと構えて、それぞれが誓いの言葉を式場に響かせた。テンプレートではない、自分で生み出した言葉だった。抜粋だけど、特に好きだった部分。

新郎「〇〇(新婦)がお皿を割ってしまっても、怒らないことを誓います!」

新婦「お金がなくても工夫をして、毎日が幸せになるように、〇〇(新郎)に愛される努力をし続けることを誓います!」

2人の結婚生活の1ページが、自然と頭に浮かぶ誓いだった。自分の言葉で約束しても、いいよね。それが、約束だよね。

挙式が終わり、チャペルの階段を降りる2人。純白なスーツとドレスに、フラワーシャワーを浴びせる。おめでとう。

新婦と目が合った。今日はまだ話せていない。「お久しぶりです!」と声をかける。

遠くからありがとね!とかそんな反応が来ると思った。けれど、ぼくの耳に入ってきたセリフは違う。

「いらっしゃい!!」

どうゆう概念。一瞬思考が停止したが、そういうことか。新婦はずっと前から「私たちの結婚式、楽しみにしてろよ!」みたいな話をしていた。

彼女にとって、今日は自分がプロデュースしたイベントなのだ。祝う祝われるとかじゃなくて、参加した人が純粋に楽しめる日にしたいんだ。「私たちのお祭りへ、ようこそ」そんなメッセージなんだ。あなたはいつも、まっすぐだね。

そして披露宴の会場へ。それぞれの席に、鳴子が置いてある。ひとつずつ、ゲストの名前が彫られている。

鳴子はよさこいの踊り子が手に持つ、木製の音鳴らしグッズ。

出席者はもれなく、着席と同時にお祭り体制に入れるシステム。新郎新婦の登場にも、みんなでチャカチャカと鳴子を鳴らす。

プログラムは進み、スピーチやムービー紹介へ。そしてとうとう、余興の番だ。みんなで中庭に移る。

新郎新婦のなかよしチームの演舞が始まる。大人から子供まで、それはそれは楽しそうに踊っている。結婚式には何度か参列しているけれど、実際余興って始めて見たな。

そうして、自分のチームの出番に。ぼくも含めて、遠方から来ているメンバーもいるので、ぶっつけ本番。

新郎新婦によさこいを教えてもらった日々を思い出しながら、体をリズムにのせる。あなたたちがいたから、こうして2人の前で踊れてるんだよ。ありがとう。届け。

曲の途中で、新郎がジャケットを脱ぎ出した。旗を手に持ち、ぼくたちの後ろで振り回す。湧き上がる会場。「いけいけー!!」

これ以上ない幸せが詰まったステージで、余興を終えた。その後、新郎の旗によるソロステージも開催された。式場の決め手は「旗が振れるから」だったらしい。そこ条件にする夫婦いないのよ。

そして最後は、サプライズで総踊りの曲が流れた。総踊りとは、よさこいをする人が大体知っている、みんなが踊れる曲だ。

参列者のほとんどがよさこい関係者で、体がうずき始める。スーツでキメた男の人も、ドレスアップした女の子も、ステージに吸い寄せられる。

とうとう、ウェディングドレスの新婦もステージへ。みんなが鳴子を持ち、服装も、住んでいる場所も違う人たちが、ごちゃまぜで1つになっていく。

普通の結婚式とか、祝う側とか、祝われる側とか、もうわかんない。これまでの概念が、鳴子の打ち鳴らす音とみんなのはじける笑顔でぶっ飛んでいく。

自分の「好き」をとことん貫いていいんだね。なにより、新郎新婦が誰よりも楽しそうだった。

入退場などで手を振ると(ありがとね〜)といった表情じゃなくて、(おう、そこのキミ、楽しんでる?)みたいな表情で返してきた2人。自分の好きで周りを包み込む力がある。素敵だな。

結婚式って、よく「幸せのおすそ分け」と言われる。けれどこの日に関しては、自分も幸せパワーを発する一員になれたような気がする。しかも、参列者みんながそうだ。

新郎新婦から、参列者が幸せをおすそ分けしてもらうというより、参加者全員の「幸せのぶつけ合い」って感じだ。表現がぶっとんでしまったけど、今はこれしか思い浮かばない。

自分の「好き」を信じる勇気と、カタチにする意志があれば、固定概念という垣根を越えて、幸せは広がっていくんだね。2人にはよさこいだけでなく、幸せになる方法も教えてもらったみたい。


そんなことを考えながら、帰り道も衣装で帰る。すれ違う人々に、チラチラと見られる。

でも、行きより気にならない。

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