パンみみ日記「バーでも電車でも、朗読会は始まる」

日々のできごとをかき集めました。パン屋に置いてある、パンの耳の袋のように。日常のきれはしを、まとめてどうぞ。5個くらいたまったら店頭に置きます。名付けて「パンみみ日記」。


2月4日(土)
友人と2人で下北沢へ。初めて演劇というものを観た。女性3人が、結婚式の余興を準備するために、カフェに集まる物語。

しかし、その前に行った同僚のお見舞いで見た光景があまりにもショックで、余興の打ち合わせどころではなくなる。会話を重ねるうちに、登場人物の怒りや庇い、過去の傷や諦めが浮き彫りになり…。なんてストーリー。

3人がとにかく話し続ける1時間。役者は「生きるプロ」だと思った。感情を、表情を、想いを込める間を、全て舞台上で支配している。

映画はカットを挟める。けれど、ノーカットの演劇はそれができない。背景を変えることで、時系列を動かすことはできない。ただ1つの時間軸のみで表現しなければならない。

その限られた空間で、感動を与えられるなんて。まるで短歌みたいだ。少ない言葉たちで、てこのように心を動かすんだもの。

演劇で心をぶん回されたぼくらは、そのまま朗読会が行われているバーへ入ってみた。今日は文化デー。

地下のひっそりとした店内では、舞台女優とミュージカル女優の方が、お話を読んでいる。横には、ストーリーの起伏に合わせてピアニストが生演奏をしている。

表現豊かに、セリフに音がのっているように、言葉を紡いでいく2人。脳内に勝手に映像が流れ込んでくる。誰かの読み聞かせを聴くなんて、いつぶりだろう。

朗読が終わると、舞台女優の方がフランクに話しかけてくれた。

「あら、見ない顔ですね!役者の方かしら?」
「普通のサラリーマンです」

この朗読バーには、役者の知り合いがよく来るらしい。一見さんでフラッと入ってくるのは珍しいとのこと。「役者の方かしら?」という響きで5日間はイイ気分でいられる。

お酒を飲み、また朗読が始まる。ほろ酔いの頭に、するするとお話が入り込んでくる。自意識が薄くなる。まるで夢を見ているみたい。

素敵なお店だった。お店を出るときも、舞台女優の方とマスターが「また来てね!」と最後まで手を振ってくれた。

…下北沢ってすげえな。(田舎者感)

2月5日(日)
高校の同級生の結婚式。テニス部同期の男子と女子の結婚ということもあり、同窓会状態。高校卒業以来会っていない人も多く、ちょっぴりドキドキ。

久々に再会した友人たち。見た目は少し変われど、話し出せばあの頃と変わらない。部活終わりに、コンビニ前でアイスを食べながら醸し出していた雰囲気が蘇る。

ちなみに、ぼくは見た目も変わってないらしい。口々に言われた。

「よさく、変わらなすぎだろ」
「髪切ってるとこ、10年前から同じなんだね」
「よさくだけ、おととい卒業式だったっけ?」

そんなわけないやろ。まあ「変わったね」と言われるよりはいっか。

結婚式の後は、男子と女子で合流して二次会へ。女子テニス部には、高校時代に好きだった子もいた。他校に彼氏がいるってことが分かって、すぐに撃沈したっけな。

当時は緊張してあまり話せなかったな。隣の席にいたこともあったのに。毎日話せたはずなのに。

二次会では隣の席でたくさん話した。約10年ぶりに再会したのに、今の方が自然におしゃべりできてるのが何だかおかしい。今の映像を、タイムテレビで高校時代のよさくに見せてあげたい。いいだろ。

彼女のニコニコしている笑顔も、自然と褒めてくれるところも、何も変わっていなかった。

自分も含めて、人って「変わっている」と思ったけれど。案外、変わらないのかな。ずっとこのままなのかな。それとも、周りが高校の同期だからタイムスリップしちゃうだけかな。

人は周囲との関係性の中で生きている。それぞれの自分がある。「関係性の枠組み」が増えていくだけで、その人本体はあんまり変わらないのかな。

高校時代の自分も、まだ息をしていることに気がついた。

2月7日(火)
お仕事。なんと1人で営業デビュー。普通、入社後3ヶ月間は同行訪問なのだけど、上司が「よさくさんなら行けるっしょ!」とノリで行かされた。

不安な反面、自分のスタイルで好き勝手提案できるのはちょっと嬉しい。嘘。くそ不安である。商品知識も事務知識もない。

とりあえずノリで行った。先方の担当者も同世代で、話しやすかった。大きな問題もなく、順調に話も進んでいく。付け焼き刃を振り回し、なんとかなる。

何年か担当する法人になりそうだし、お付き合いも長いだろう。3年後くらいに、「始めて御社に訪問したとき、ドッキドキだったんですよ」と種明かししたい。

ちょっと前までは雪国で働いていたのに、今では東京の企業を回り別の商材で営業している。またたくさんの人との出会いがあるんだろうな。

よさく東京編、スタートしています。

2月8日(水)
営業の帰り道。電車に揺られていた。向かいの席に、小学低学年くらいの男の子と、母親が座っている。すると母親がおもむろに、バックから絵本を取り出した。

お母さんが絵本を音読し始めた。え?電車内で読み聞かせに遭遇するのは初めてだ。マナーに反するのか、もはや不明。とりあえず聴き入ってしまう。

どうやら、たくさんの動物たちが出てくる話らしい。ストーリーは進み、どうやら登場人物(登場動物)たちが歌を歌い出し始めたようだ。

母「ペンギンさんは、大きな声で歌い始めました」
息子「おおきな〜♪お空に〜♪ひろがる〜♪」
母「ライオンさんや、ゾウさんも一緒に歌い出しました」
息子「夢を〜♪追いかけたいな〜♪」

パート分けしてるやん。息子、歌担当やん。しかも自然に役割分担してる。絶対いつもやってるやつじゃん。

家庭内映像を視聴してしまった。ここが電車であることを忘れた。気がついたら、降りる駅になっていた。

なんだったんだ、あれ。

バーで朗読を聴いたり、電車で朗読を聞いたり、読み聞かせに縁がある今日この頃。

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