心の名文図書室「帰るなって言って。そうしたらわたしは馬鹿になれる」
読んだ本の中で、心に残った名文を置いていきます。プチ感想もご一緒に。同じように心に響く人に届きますように。
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図書隊である小牧教官の怒りの心理描写。近所に住み、小さな頃から関わり続けてきた少女、毱江のことを強く想っている。
幼い頃からそばにいることで、その人の好みや性格を熟知するということがある。ただそれに加えて、「どんな本と共に育ってきたか」を知ることは、その人の輪郭をよりハッキリと理解させてくれる気がする。
『図書館戦争』シリーズの2作目である本作。登場人物の人となりが掴めている状態からのスタートだったので、感情移入がとってもはかどる。
正論を淡々と放つクールな小牧教官が、心の内に青い炎をメラメラと燃やすエピソードは「待ってましたぁ!」とばかりに喜んでしまった。
登場人物それぞれにスポットが当たっていく『図書館戦争シリーズ』、好きすぎる。そしてこの気持ちを誰かと共有したくなる。
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聴覚障害を持つ女性「ひとみ」に恋する伸行の心情描写。この作品は、もともと『図書館内乱』で登場する架空の本だった。その後、有川さんが実際に『レインツリーの国』を執筆してしまうというプリンセスめいた生まれ方をしている。
「言葉を大切にする人に惹かれる」という内容に強く共感した。自分自身も、「この人、言葉をすっごく大事に選んでいる」と感じる人を自然と尊敬してしまう。
作中で「ひとみ」はブログを書いており、それをきっかけとして伸行と出会う。文字にして体験や想いを表現する人には、大なり小なり「心に抱えているもの」があると思う。これはポジティブとかネガティブに関係なく。
自分も「誰かの大事に抱え込んでいるもの」を知りたくなった。そうして自分と似たところがないか探したい。文章を読むということは、「同じ何かを抱えた仲間を探している」ということなのかもしれない。
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瀬戸内海の島に住む井上暁海が、恋人である青埜櫂を想う心情描写。
キラキラとした海に囲まれた島と、忙しなさに包まれる東京を舞台に、2人の男女が織りなす愛情や諦め、嫉妬や祈りといった感情を詰め込んだ作品。
暁海も櫂も、それぞれ心にグッサリとナイフを突き刺されるような学生時代を過ごす。だからこそ、同じような傷を舐め合って惹かれていく。
それでも月日を重ねるごとに、互いの価値観や追い求めるものは少しずつ変わっていく。それぞれが相手を大事に想っているのに、取り囲む世界が変わっているからどうしてもすれ違ってしまう。
この「交わらなさ」が切なくて切なくて。読みながら何度も「わああああああ!」と叫び出したい気持ちになった(迷惑)。「どうしてこの2人は幸せになれないんだろう」と、まるで友人のように感情移入してしまう。
凪良さんの紡ぐ文章は海風が持ってきたように清々しく綺麗。でも傷口にはしみる。心を握り潰されるような感覚に陥った。
今年読んだ本の中で、1番心をぶん殴られた作品だ…! うわああああ!(思い出し悲鳴)
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保健室の野原先生が、高校生の夕作に語りかけるセリフ。
この物語では、誰にも言えない秘密を胸に宿す高校生の男女が、心の砂山をそっと切り崩すように近づいていく。
顔にある痣を化粧で隠している男子高校生の夕作と、夜明け前に公園でタバコを吸っている女子高生の槙野。2人はあることがきっかけでお互いの「隠しごと」を知ってしまう。
「誰にも言えない秘密を共有するからこそ、手を取り合える」というのが本書のテーマだと感じたけれど、まーーそんなに単純な話ではない。
思春期真っ盛りの高校生が、自分と相手の秘密に踏み込むか踏み込まないかの瀬戸際でゆらめく心が、こと細かに文章で表現されている。
読んでて苦しくて、もどかしくて、救われてほしい気持ちに包まれた。「心臓を素手で触られるような夜に浸りたい」という人にぜひ読んでほしい作品。
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短編のひとつ『三角形はこわさないでおく』より。高校2年生の廉太郎が、同級生である小山内さんの友人に下駄箱で話しかけられるセリフ。
廉太郎には、唯一無二の親友であるツトムがいる。ツトムは小山内さんへ想いを募らせている。廉太郎は小山内さんへ意識を傾けそうになってしまうけれど、ツトムとの関係を壊したくない気持ちがそれを止める。
それぞれの錯綜した思いが、学校を舞台に色づいていく様が胸を締め付ける。昼休みにわたり廊下で会えるささいな楽しみ。罪悪感ゆえに時間をずらしてしまういじらしさ。本屋でばったり遭遇した時の胸の高鳴り。
青春の甘酸っぱさが、学校の景色を伴ってありありと浮かんできた。「こんな恋愛、もう二度とできない」と感じ、本を机に置いてのたうちまわりたくなる。
『三角形はこわさないでおく』というタイトルの意味も、作品のいたるところで滲み出ている。あぁ、今すごく思う。高校時代にタイムスリップしたい。
【編集後記】
意図していないのだけど、5作品のうち全て恋愛に関わる名文をリストアップしていることに気づいた。
アラサー男性として恥ずかしいこと極まりない。けれど、やっぱり胸がギュッとするセリフや表現が心に残ってしまう。秋の夜長は、切なさと愛しさに心をぶん殴られる本を読むに限る。