自選短歌集 『燦然』

爪の垢煎じて飲みたいわけじゃないその心臓を鳴らしたいだけ

チャイティーラテあの人も好きだったよな ぴりっと辛い冬の残り香

五月雨のなか歩いたあの人はどこへ向かうか無人駅の屋根

いつの日か終わる君のはじまりをそっと見詰める私も終わる

花開く薄紅色を空へ差し青く居た日々脱ぎ捨ててゆく

さんざめく歓声採光あざやかに届かぬ距離の愛しきことよ

星が降る潤む黒目は流星群ちりばめ星彩何億光年

惹かれては遠ざかるよな後ろ髪知らぬ残り香きみの幻

いちにのさん飛び立つあなたを見上げては屈伸百回準備は万端

ひらり舞うその指先に花が咲くつまさきへ散りまた芽吹くゆめ

思えども届かぬ距離でうたうことラブソングじゃないこれは賛美歌

聞こえない心臓の音夢にみるおとぎ話を信じていた夜

雨が降る晴れを思えど雨雲る風のなかには夏の気配が

すっからかん空っぽのグラスがらんどうまっさらな壁無色透明

光るとき見ていたきみとぼくの距離地球が生まれ死ぬまでの時

涙拭け顔上げ笑えひどい顔べつにいいじゃん膝ついたって

マグカップふたつ並んでぬくもりをひとつはぐれて真冬の心地

クリームシチュー見逃してくれ今夜だけ乳白色に溶けた涙

目を逸らすその先にある束の間の沈黙を見て時は過ぎゆく

笑う顔その奥にある暗いとこきみたらしめる禁断魔法

缶ビール冷やしておいてあぁ承知凍っちゃったねゆっくり飲もうか

酩酊のなかを泳ぐ溌剌と目前の距離 届かず終い

ふわふわと宙に浮くよ寝る間際でたらめなこと言っておやすみ

桃色の夢を揺蕩う黄昏にあなたの面影ゆらゆら消える

水彩で描いたような紫陽花の色 淡く艷めく雨粒の香

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