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夜野群青 → 理柚 01/12

理柚 × 夜野群青による往復書簡が始まります。
2020.05~2020.10、全12話でお届け予定です。
最終話では、往復書簡のやりとりから発生した集大成の “なにか” ができるはずなのでお楽しみに。
(わたしたちも大いに楽しみます!)
では、第一話目は夜野から理柚さん宛のWebお手紙です。


催花雨――うつらうつら眠っている花達を呼び覚まし春を促す雨があるのだとあなたの詩から知りました。そこから紐を解き、日本語の奥ゆかしき美しさに触れ、次に降る雨は彦星と織姫が夜空に流す催涙雨かしら等と悠長にも思いを巡らせていたら、此れ迄の生活ががらっと足元から崩れ一変するような日常が訪れてしまいました。窓の外をふと見ると躑躅が咲き乱れています。先に言ってしまうと、もっと暢気な話をあなたとしようと考えていたのです。例えば、蕨の灰汁抜きをした時にできる色水が翡翠色でそれはそれは鮮やかなので、好きな春の色はなんですか?とか。
それなのについSNSを開いて勝手に落ち込んだりして、飽きもせず毎日誰かと誰かが言葉を唯一の武器にして争っては机の上で気化し虚しく宙に消えてゆくのをただ見届けるだけの、わたしは無力な人間なのだと、わたしは私を形成する輪郭の一番外側を改めて視たりなんかしながら、目を閉じるしかできないでいました。
護るべきもののために貫く正義は、悪く言い換えれば自分に都合の良い答えとも云えるし、他者にはある種の暴力ともなりうるのでしょうか。
かくいうわたしもその一派であり、自分の内に蔓延っている行動原理であるからして、わたしも愚者であることの確証だと感じているのです。

人と人は理解し合えるか、わたしは知り得たいのです。
もしできないのだとしたら、どうしてわたしたちに言葉が在るのでしょうか。

あなたの詩と出会ってから三年の月日が過ぎても、ぼんやりと、わたしはあなたのことをほんの少ししか知らないことに気づくのです。
何処で住み、どんな物を食べ、誰と笑い、何を視て涙するか、どんな顔をして言葉と向き合っているか、具体的なあなたのことをなにも知りません。
わたしがあなたについて知っていることと云えば、花が好きで、そしてその花が朽ちるときをも想うこと、旋律を奏でることに造詣が深く日本語に敏感なこと、美しい言葉を紡ぐこと、なにかを書くことで自分を知ろうと試みていること、そしてわたしたちは女であること。多分、僅かこのくらいなのです。たまに詩を読んでわたしたちは似ているのかと錯覚してしまいそうになりながら全く似ていないとも思うから、わたしはあなたをもう少しだけ知ってみたいと思うのかもしれません。

詩ってなんでしょう。
あなたにとって詩とはなんでしょう。
わたしにとって詩とはなんでしょう。
そもそもシってなんでしょう。

言葉で繋がるわたしたちだから、
言葉でしか繋がれないわたしたちだから、

/ シのはなしをしよう


夜野群青


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