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第11話 魅惑の紐パン !!! ― 中篇 ―


犬死に @inujini_take
17日(土)のライブでこれ落とした人は連絡くださーい。預かってまーす。よろしく!
(画像参照)
#犬死に
#拡散希望
#落し物
#紐 パン

「細かめのモザイクかけとけば、ええやろ」
確定、よっ、ツイート、 完了。
「連絡なんか来ないって」
小鳥遊が整った細い指先でペグを回しチューニングしながら、呆れた目でこっちを睨んだ。
「やってみなわからんやん? なー?」
そばにいた直樹に同意を求める。
モンスターケーブルをアンプに繋げながら、ブンブン頷く。どうやら、直樹は今それどころじゃないらしい。
ギターが弾けないボーカルは、世界中で誰よりも暇なんである。

京都は学生の街。
絶対的総数、その分母が多いためか自然と練習に最適な小さなスタジオが数多く存在し、練習するには事欠かない。
その中でも格安なのは、楽器練習可能な公的機関、例えば公民館など。市の青少年センターはスタジオよりも借りるのが安いため、緊張感抱えた貸スタ練とは違って、のんびり雑談も交えた和やかムードで練習が進む。

「録音セットしたで、みな準備おk?」
「今度のライブの曲順、ボードに書いたからその順番通しでいくで」と、俺。
「ライブでいつもハシるとこ、モタるとこ、そこ意識して合わせていこ」と、真面目に小鳥遊。
「おっしゃー」と、肌寒い秋口になったのにアウターを脱いでタンクトップ姿になった直樹。

「1・2」「1・2・3・4ッ」

乾いたスティックの音に、まぁぶるの掛け声、1音目にメンバーの全神経が集中する。
存在感のある、ここぞと的を得た小鳥遊のギターの流れる音が。
直樹の根底を支える重いベースの音が。
リズムを誘導する、まぁぶるの力強い芯のあるドラムの音が。
乗っかかるようにして、俺の声が。
どの音が欠けても、69にはならない。
互いが互いを確かめるように、重ね、被せていく。
逃げないで、セニョリータ。
掴まえさせて、マドモアゼル。
はひ、これぞアンサンブル。


気持ちいいィ――――!
逝きてるううううう―――――!!


20時40分、ベースアンプの上に置いたスマホが振動し練習終了の時を告げた。
横に設置したICレコーダーの電源をOFFにして、大急ぎで片していく。

「お疲れっしたー」

心地好い汗が毛穴から噴き出し、俺の頭からは紐パンの事などすっかり抜け落ちていたのだった。


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