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夏祭り

日が沈み始めた頃に待ち合わせをすることがなんだか非日常で、隣にいる友人は幻なのではないかと、まだ輪郭のぼやけた空に浮かぶ月を見上げてふと考えてしまう、駅の地下自由通路を潜った先の提灯の眩しさと喧騒、ほんの数十秒前の世界とは繋がっていないのではないか、浴衣姿のクラスメイトを見つけるたびにやっぱり現実なのだと、すこしだけがっかりして人の波にのって屋台を見廻る、真っ白なタオルを頭に巻いてわっしゃわっしゃと豪快に焼きそばをつくる陽気なおっちゃん、あんず飴の店先は水飴とそれに包まれた果物がキラキラと輝いている、ここはお祭りの終盤になればわざとじゃんけんに負けて一個おまけでくれることを知っている、無愛想なおじさんから可愛いアニメキャラクターがプリントされた袋の綿飴を買って二人で分け合って、甘いねって笑い合う、すぐに溶けてなくなってしまう幸せの味、金魚掬いの青い囲いで泳いでる金魚たちはなにをおもうのか、あまりに密度が濃いから泳いでいるのは大変そうで、こどもたちが無邪気に掬う行為におとなになってから怖さを感じて、広場の中央で太鼓と笛の音色にあわせて盆踊りする人たちを眺めながら溶けかけのかき氷を頬張る、シロップのかかっていない部分の透明な氷はお祭りの熱を少しだけ冷ましてくれる、ブルーハワイ味って他の味よりも特別な気がして、青を食べている、綺麗なものを食べている、夏のできごとは過去になった途端にすべてが儚く永遠ではないと錯覚する、あなたと過ごしたこの数時間はきっと眩しく輝いていつかのわたしを幸せにするのだろう

作品をまとめて本にしたいです。よろしくお願いします。