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変わった先生#5

(前回のストーリー⇓ ⇓ ⇓)

「もしもし...」

小さな声で僕は口から言葉を発した。

「あっもしもし~。〇〇(先生の名前)です~。」

先生の明るい声に僕は少しだけ拍子が抜けた。確かに明るいようでチャランポランな感じの先生だけど、真剣に怒られるのではないかと予想していた。だけど先生はいつも通りの先生だった。

「えっと~。今日何かありました?」

先生の質問に僕は戸惑う。

(どう言えばいい?どう言えばサボってないと証明できる?いや、正式にはサボったような気もするが、学校に行く気はあったことを強調するにはどうすれば?)

シリアスな場面じゃなくても、理論的なことや型難しいことを口にするのが苦手な僕はスマホ越しにひとりあたふたしていた。

だけど僕は意を決してすべての事を先生に話すことにした。今日起こった出来事すべて。起承転結なんて関係なく、僕は口から言葉を発する。ある程度の文面は守りながら口から言葉を発する。

すべてのことをしゃべり終えた僕は乱れた息を整える。先生がどう返答するかは分からないが、僕は何を言われても受け止める覚悟はできていた。

「なるほど。今日は朝からBadDayでしたね。」

先生はそう言った。英語の先生だからか時折英語を入れてくるのはさすがだったが、先生は何も怒らなかった。それどころか同情するような優しい口調だった。

「お母さんに連絡をしたら「いつも通り学校に行ったはずですけど」っておっしゃっていて、でも学校に来てないし、休みの連絡も無かったのでどうしているのかな?と思ったので一度連絡をしたのですが、まずは無事でよかったです。」

(だから母は留守電に「どこにいるの?」だったのか。)

ひとつひとつ思い出しながら僕は先生の言葉を聞いていた。それと同時に親と担任の強固な包囲網はとても恐ろしいということを学んだ。どこの家庭でもそうかもしれないが、些細なことでも連絡が行き渡り、まるで何かに監視されているようで、自由が制限されているようだった。

学生は学校に行くことが義務でしょ!と口に出さないだけで、そういった目に見えない圧力に押しつぶされそうだった。

僕は先生に「ごめんなさい。」と誤った。それは意図して出た言葉じゃなくて、自然と口から出た言葉だった。理由は今でも分からない。なぜあの時そんな言葉が出たのか分からないが、沢山の迷惑をかけたと思ったからだと今になって振り返る。

「いや~僕も学生の頃よくありましたよ。特に朝ってほんとにブルーで、些細なことでもめっちゃくちゃ心に響くんですよね。「あいつなんだよ」とか「もう休んでしまえ!」って。まぁ、僕も大人になってもその気持ちは学生の頃と何も変わらないですがね。」

スマホの向こうから聞こえてくる先生の言葉に、少しばかり救われた。自分だけじゃなくて、みんな不安や何らかの問題を抱えていた。それは当たり前のことかもしれないが、当時の僕はそんな柔軟な考えができなかった。だからこそ、先生の言葉はある意味衝撃だった。

もしかすると無理に同情してくれたのかもしれないが、そんな先生の優しさに感謝してばかりだった。

「で、明日は来れそうですか?文化祭も近いですし、どうです?」

先生はそう言った。

「行きます。」

そう言うと先生は。「OKです。じゃあまた明日ですね。」と言って電話を切った。

一瞬、「断言しちゃうと明日は何が何でも行かなくちゃならない義務感みたいなのが発生しちゃうじゃん!もっと冷静になって考えろよ!」と自分自身を責めてしまいそうだったが、それ以上に「明日は何があっても行けそうかな?」と多少の希望みたいなのも生まれた。

明日行ってみよ。

僕はそう思った。

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