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サヴォア邸にて

パリから電車で1時間の郊外にその邸宅はある。たった1時間だが、街の喧騒から離れるには十分だ。パリの街は上を向いて歩けば美しいが、下を見ればゴミと目が合い、気まずさから目を逸らす。

サヴォア邸の周囲は芝生で覆われ、所々にたんぽぽやコスモスが顔を覗かせる。僕は若草色の芝生に腰を下ろし、彼らをじっと見つめる。周りは木々に囲まれており、世界から隔絶されているような気がして空を見ると、春の晴天が広がる。

雲の色をした、異質な造形の邸宅に僕は目を移す。ここへ来るまでに通った住宅街のどの家とも似つかない。無駄を削ぎ落とし、しがらみから自由になった真っ白な箱は、これがこっちの世界では普通だけどね、とでも言うように堂々としている。

向こうで二人の女性が横になって空をじっと見ている。寝ているのかもしれない。今何時だろう。スマホを確認する。15:21。着いてすぐに確認した時も15:21だった気がする。まあ、これくらいのことじゃ驚かない。たまには止まったっていい。ずっと動いてる方が不自然だ。

近代建築の六番目の原則。時間からの解放。コルヴィジェは意識してこれをやったのかな?そんなことを考えつつ、僕も横になる。春の暖かな空気が眠気を誘う。

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