見出し画像

DR7:(投資に役立つ)中国とアメリカが戦争したら...

おひさしぶりです。

興味があったのでこちらのレポートを翻訳しました→「Chapter 7: US-China Relations and Wars」

では(°▽°)


はじめに:この章ではアメリカと中国が現在置かれている立場と,これらの立場にあることが米中関係にとって何を意味するのかを考えてみたい。米中は現在,多くの領域でライバル関係にあるため,これらの領域で「紛争」や「戦争」を起こしており,これらの立ち位置を見ていくことになる。見ていくのはほとんどの場合,古くて古典的な紛争の新しいバージョンに過ぎないので(例えば,古典的な技術戦争における新しい技術,古典的な軍事戦争における新しい武器など),歴史の中で繰り返し起きてきたことの文脈で,これらの事例の研究から学んだ,時代を超えた普遍の原理で見ていくことになる。考えうる範囲の可能性を見ていく一方で,未来がどうなるかということには立ち入らずにやっていくつもりだ。それは,本書の最終章である「未来」で述べることにする。また,この章では,事実を伝えるだけでなく,意見を述べる(つまり,不確かな推測を述べる)ことにもう少し踏み込んでいきたいと思う。(注:本シリーズの章立てを変更し,第2章の付録であったものを独立した章とした。その結果,9月11日の「第5章:中国と通貨の大きなサイクル」の次の回である本章は,第7章となった)。

他の章と同様に,この章を手早く読みたい人は太字の部分だけ,原則だけを読みたい人は斜体の部分を読めばいい。

まず,人間関係についての私の3つの原則を話す。これは,米中関係を含む,人と人,組織と組織の間のすべての関係に関係するものだ。私の他の原則と同様,この原則を採用するかしないかは自由だ。これらは,私が真実であると観察したものであり,私にとって有効であったものだ。興味のない方は読み飛ばしていただいて結構だ。

米中関係に関連すると思われる,私の主な原則は:

どのような関係を築くかについては,両者が合意する必要があるが,関係の両当事者は,Win-Winの協力・競争関係を築くか,それとも,Lose-Loseの相互脅迫関係を築くかを選択することができる。もし,Win-Winの協力・競争関係を主体にするのであれば,相手にとって何が本当に大切かを考え,それを与える代わりに,相手もそれに応えようとするはずだ。このような勝ち負けの関係では,バザーの仲良し商人やオリンピックの仲良しチームのように,敬意と配慮をもって厳しい交渉をすることができる。もし,Lose-Loseの互いに脅しあう関係を選んだ場合,彼らは自分の欲しいものを手に入れるために,相手を恐怖のどん底に陥れようと,いかにして相手を傷つけるかを第1に考えるようになる。そのようなLose-Loseの関係では,生産的な交流よりも破壊的な戦争が多くなる。歴史は,小さな戦争が誰の手にも負えなくなり,この道を選んだ指導者でさえ想像していたよりもずっとひどい大きな戦争に発展することを証明している。そのため,事実上すべての当事者が,最初の道を選べばよかったと思っている。どちらかの側が,もう一方の側に第2の道を押し付けることができる一方で,第1の道を歩むには両方の側が必要だ。どの道を選んでも,すべての当事者の心の奥底には,彼らの相対的な力があるはずだ。第1の場合,当事者は相手が何を強要しうるかを理解し,あまり強引にならずに交換の質を評価すべきだし,第2の場合,当事者は力が痛みを与える相対的能力と同じくらい痛みを耐える相対的能力で定義されることを理解すべきだ。どちらかが相手に報酬を与えたり罰したりする力をどれくらい持っているのかがはっきりしない場合,それぞれが相手をどのように傷つけることができるのかに大きな不確実性があるため,第1の道がより安全な道となる。一方,第2の道は,戦争の地獄が終わった後,どちらが優勢でどちらが従順でなければならないかが確実に明らかになる。そこで,私の主な権力原則に行き着くわけだ。 

私の権力に関する大原則は:

権力を持ち,権力を尊重し,権力を賢明に使うことだ。権力を持つことは良いことだ。なぜなら,権力は常に合意や規則,法律よりも優位に立つからだ。なぜなら,いざとなれば自分の解釈したルールや法律を強制する力,あるいはルールや法律を覆す力を持つ者が,自分の欲しいものを手に入れることができるからだ。権力を行使する順序は次の通りだ。意見の相違がある場合,意見の相違する当事者は,まず自分たちでどうすればいいか合意しようとすることで,ルール・法律によらずに解決しようとする。それがうまくいかなければ守るべきと合意した協定・ルール・法律を使おうとする。それがうまくいかない場合,ルールを尊重するよりも自分の欲しいものを手に入れたい人たちは,権力を行使することに頼るだろう。一方の当事者が権力を行使し,もう一方の当事者が十分に脅かされずに屈服したとき,戦争が起こる。戦争は,相対的なパワーのテストだ。戦争は,全面的なものであることもあれば,抑制されたものであることもある。いずれの場合も,誰が何を得るかを決定するために必要なものであれば,それは何でもありだ。戦争は通常,一方の優位を確立し,その後,平和が続く。なぜなら,明らかに最も強力な存在と戦うことを,その存在が明らかに最も強力でなくなるまで,誰も望まないからだ。その時,このダイナミズムが再び始まる。力を尊重することは重要だ。なぜなら,負けそうな戦争をするのは賢明ではなく,可能な限り最善の和解を交渉することが望ましいからだ(殉教者になりたい場合は別だが,それは賢明な戦略的理由というより,愚かなエゴの理由であることが多い)。また,権力を賢く使うことも重要だ。権力を賢く使うとは,必ずしも自分の欲しいものを相手に無理やり与えること,つまり相手をいじめ抜くことではない。寛大さと信頼はWin-Winの関係を生み出す強力な力であり,それはLose-Loseの関係よりはるかに報われるものであることを認識することも含まれている。言い換えれば,「ハードパワー」を使うことが最善の道ではなく,「ソフトパワー」を使うことが望ましい場合が多い[1]。Lose-Loseの関係にある場合,人は何らかの方法でそこから抜け出さなければならない。自分の力を賢く扱うには通常,力を見せないことが最善である。なぜなら,力を見せることで相手は脅威を感じ,それに対抗する力を身につけ,互いに脅威を感じる関係になってしまうからだ。権力は通常,戦いの際に持ち出すことのできる隠しナイフのように扱うのが最善だ。しかし,いざとなったら,自分のパワーを見せて脅すことが,交渉の立場を向上させ,喧嘩を防ぐために最も効果的な場合もある。相手にとって何が一番重要で何が一番重要でないか,特に相手が何のために戦い,何のために戦わないか,どのように戦うかを知ることは貴重だ。それは相手が過去にどのような関係を築き,どのような力の使い方をしたかを調べ,相手が何を狙っているのかを想像し,試行錯誤することで発見するのが一番だ。時にお互いのテストは,一触即発のエスカレーションを招き,危険なまでに両者を「戦うか,ハッタリがバレるか」という難しい立場に追い込むことがある。エスカレートする一触即発の戦争は,しばしば双方の論理的な思惑を超えたところにまで紛争を拡大させる。パワーバランスがどこにあるのか,つまり,喧嘩になった場合に誰が何を得て,何を失うのかを知っておくことは,当事者が紛争の「公正な」解決とは何かを考えるときに,頭の片隅に置いておく平衡レベルであり,交渉による合意の条件を考えるときに裁判になったらどんな結果になるかを考えるようなものだからだ。一般的に権力を持つことは望ましいことだが,必要のない権力は持たない方が望ましいとも言える。それは,権力を維持することは,資源,とりわけ時間とお金を消費するからだ。権力には責任という重荷が伴う。多くの人は権力をたくさん持つことがベストだと考えているが,私は権力を持つ人と比べて,権力を持たない人がいかに幸せかをよく実感している。権力の賢い使い方を考えるとき,いつ合意に達し,いつ戦うかを考えることも重要だ。そのためには,自分の力が時間とともにどう変化していくかを想像することが大切だ。協定交渉,協定締結,戦争は,自分の力が最も強いときに行うのが望ましい。つまり,相対的なパワーが低下している場合は早く,上昇している場合は遅く戦うことが得策だ。もちろん,戦争が論理的で,必要なものを維持したり手に入れたりするために必要な場合もある。そこで,戦争に関する私の主要な原則を説明する。

私の戦争に関する大原則は:

2つの競合する主体が,相手を破壊する力を含む同等の力を持つ場合,両者が相手から許容できないほどの損害を受けたり殺されたりしないという極めて高い信頼を持っていない限り,死闘になるリスクは高い。自分に協力することも殺すこともできる相手と,相手に協力することも殺すこともできる相手がいて,どちらも相手が何をするかわからないと想像してほしい。あなたならどうするか?あなたと相手が協力するのがベストだとしても,それぞれが相手に殺される前に相手を殺すのが論理的な行動だ。それは,生き残ることが最も重要であり,相手が自分を殺すかどうかはわからないが,自分が殺す前に相手が自分を殺すことが得策なことはわかるからだ。ゲーム理論ではこのような立場を「囚人のジレンマ」と呼んでいる。だからこそ,致命的な戦争を回避するためには,相手が互いに与えうる実害に対して,相互に保証された保護を確立することが必要だ。失うことが耐えられないような利益と依存関係の交換を確立することは,さらに良好な関係を強化する。戦争は,a)どちらが強いか分からないので結果が不確実,b)戦争にかかる費用は莫大,c)戦争に負けると破滅的なため,極めて危険であり許容できない損失はないという確信がなければ踏み込むことができないので,本当に何のために死ぬまで戦うのかをよく考えなければならない。


本章では主に米中関係に焦点を当てているが,我々や世界の政策立案者が行っているゲームは,多次元チェスゲームのようなもので,各プレイヤーは,同じくゲームを行っている多数の主要プレイヤー(=国)の多くの立場と可能な動きを考慮しなければならず,これらのプレイヤーはそれぞれ,自分の動きをうまく行うために考慮しなければならない様々な事柄(経済,政治,軍事など)を持っている。例えば,今この多次元ゲームに参加している関連する他のプレイヤーには,ロシア,日本,インド,他のアジア諸国,オーストラリア,ヨーロッパ諸国があり,彼ら全員が自分の動きを決定する多くの考慮事項と構成要素を持っている。私がやっているゲーム,すなわちグローバルマクロ投資で,勝つための決断をするために関連するすべてのことを同時に考慮することがいかに複雑かということを私は知っている。また,私がやっていることは,権力者がやっていることほど複雑ではなく,彼らが持っているような優れた情報にアクセスできないことも知っている。だから何が起こっていて,どう対処するのが最善かについて,彼らよりもよく知っていると思うのは傲慢だろう。だから,私は謙虚に意見を述べたいと思う。このような理由から,私は謙虚な姿勢で,米中関係や世界情勢をどのように見ているかを,率直にお話ししたいと思う。

アメリカ人と中国人の置かれた立場

私の見るところ,運命とビッグサイクルがこの2国とその指導者を現在の地位に置いたのだと思う。アメリカは,互いに補強し合うビッグサイクルを経て成功を収め,それが行き過ぎとなり,多くの分野で弱体化することになった。同様に,彼らは中国をビッグサイクルの衰退に導き,それが耐え難いほどの悪条件となり,革命的な変化をもたらし,現在のような相互に強化し合う上昇気流に乗せることになった。

例えば,運命と大きな債務サイクルによって,アメリカは現在,長期債務サイクルの後期段階にある。この段階では,アメリカは債務が多すぎるため,急速に多くの債務を生み出す必要があるが,ハードカレンシーで返済できないため,政府の赤字を賄うためにお金を印刷するという後期サイクル特有の方法で債務を貨幣化しなければならない。皮肉なことに,古典的なことに,このような悪い状況に陥っているのは,アメリカの成功がこうした行き過ぎを招いた結果だ。例えば,米ドルが世界の支配的な基軸通貨となったのは,アメリカの世界的な大成功のおかげであり,そのおかげでアメリカは他国(中国を含む)から過剰な債務をすることができ,他国(中国を含む)に対して多額の債務をするという微妙な立場に置かれ,その結果,過度に債務を抱えた国の債務を保有するという微妙な立場に置かれたのであり,急速にその債務を増やして貨幣化し,保有者に対して著しくマイナスの実質金利を支払っている。言い換えれば,古典的な基軸通貨の循環のせいで,中国は世界の基軸通貨を大量に貯蓄したいと考え,その結果,大量に借りたいアメリカ人に大量に貸すことになり,中国とアメリカの間で戦争が起こると,この厄介な大きな債務者と債権者の関係になってしまった。

運命と富のサイクルの仕組み,特に資本主義の下では,アメリカ人が偉大な進歩や富を生み出すようなインセンティブや資源が置かれるようになり,ついには大きな貧富の差が生まれ,それが現在の紛争の原因となり,国内秩序を脅かし,アメリカが強くあるために必要な生産性を脅かしている。中国では,アメリカが上昇するのと同時に,中国のビッグサイクルの衰退を招いたのは,債務と貨幣の弱さ,内部対立,外国勢力との対立による中国の財政の古典的崩壊であり,こうしたひどい状況の極限が革命的変化を生み出し,最終的に中国の大進歩,大富,そして当然懸念されるようになった大きな貧富格差を生み出すインセンティブと市場・資本主義のアプローチを作り出した。

同様に,運命とグローバル・パワー・サイクルの仕組みは,現在アメリカを,a)その立場と既存の世界秩序を守るために戦うか,b)撤退するか,の選択を迫られる不運な立場に追い込んでいる。例えば,アメリカは第2次世界大戦で太平洋戦争に勝利したため,他のどの国よりも,a)台湾(ほとんどのアメリカ人は,台湾が世界のどこにあり,その名前のスペルを知らない)を守るか,b)撤退するかを選択しなければならなくなった。このような運命とグローバル・パワー・サイクルのために,アメリカは現在70か国以上に軍事基地を置き,不経済であるにもかかわらず,世界秩序を守っている。

歴史は,すべての国の成功は,その衰退をもたらす過剰な力を生み出すことなく,強化された力を持続させることにかかっていることを示している。本当に成功した国は,200年から300年の間,それを大々的に行うことができた。しかし,永遠にそれが可能な国はない。

本書ではこれまで,特にオランダ,イギリス,アメリカの基軸通貨帝国の盛衰サイクルと中国王朝の過去 1400 年の歴史を中心に過去 500 年の歴史を振り返り,現在に至っている。その目的は,私たちが今いる場所を,ここに至るまでの大局的なストーリーの中に位置づけ,物事の仕組みの原因と結果のパターンを見て,私たちが今いる場所をより良い視点で見ることができるようにすることであった。そして,その大局を見失うことなく,自分のいる場所をより詳細に見ていく必要がある。TikTok,ファーウェイ,香港の制裁,領事館閉鎖,戦艦の移動,前例のない金融政策,政争,社会的対立などなど,気づかないうちに小さなことが大きく見えてきて,気づけば毎日そのブリザードに襲われている。そのひとつひとつに章立て以上の考察が必要であり,ここでそれをするつもりはないが,主要な問題には触れておくことにする。

戦争には大きく分けて,1)貿易・経済戦争,2)技術戦争,3)地政学的戦争,4)資本戦争,5)軍事戦争,があることを歴史は教えてくれている。賢明な人々はこれらの「戦争」が起こらず,その代わりに協力が行われることを望んでいるが,我々は現実的にこれらの「戦争」が存在することを認識し,歴史上の過去の事例と実際に起こっている展開の理解をもとに,次に何が起こりそうかを考え,それにどう対処するのが良いかを考えなければならない。私たちは今,それらが様々な程度で繰り広げられているのを目の当たりにしている。それらは個別の対立と誤解されるべきではなく,むしろ進化する一つの大きな対立の延長線上にある,相互に関連した対立として認識されるべきだ。例えば,彼らは紛争を早めようとしているのか(中国がより速いペースで力をつけているため,時間が中国側にあり,アメリカにとって最善だと考えるアメリカ人がいる),それとも紛争を緩和しようとしているのか(戦争がない方が良いと考えるため)。これらが制御不能なまでにエスカレートするのを防ぐには両国の指導者が紛争の深刻さの変化を知らせる「レッドライン」や「トリップワイヤー」が何かを明確にすることが重要だろう。では,これらの戦争について,歴史の教訓と原則を念頭に置いて見てみる。

貿易・経済戦争

すべての戦争がそうなように,貿易戦争も,戦闘当事者がどこまでやるかによって,礼儀正しい論争から生命を脅かすものになる可能性がある。 

これまでのところ,米中貿易戦争はそれほど大きくは進展していない。他の同様の紛争時期に繰り返し見られたもの(例えば,1930年のスムート・ホーリー関税法)を彷彿とさせる古典的な関税や輸入制限が含まれているだけだ。貿易交渉とその成果は,初期段階にあり暫定的に実施されている非常に限定的な第1段階貿易協定に反映されているのを我々は見てきた。見てきたように,この「交渉」は公正な解決を図るために(世界貿易機関のような)グローバルな法律や審判に期待するのではなく,互いの力を試すものであった。これは,つまり,パワー・テストを通じて,これらの戦争がどのように戦われるかということだ。大きな問題は,このパワー・テストがどこまで続くか,どのような形で行われるかだ。

貿易摩擦のほかに,アメリカが中国の経済処理について抱いている3つの主要な経済的批判がある。

1.中国政府は輸入品,サービス,企業の市場アクセスを制限することを目的とした幅広い発展的介入主義的政策と慣行を追求し,その結果,不公正な慣行を作り出すことによって国内産業を保護している。

2.中国政府は中国産業に対して政府の指導,資源,規制の面で大きな支援を提供しており,特に機密性の高い分野で外国企業から高度な技術を引き出すための政策が含まれていることが特徴的だ。

3.中国人は知的財産を盗んでいるが,この盗みの一部は国家主導で行われ,一部は政府の直接管理外だと考えられている。 

一般的に言って,アメリカはこれらのことに対して,中国が行っていることを変えようとしたり(例えば,市場をアメリカ人に開放させる),これらのことの独自バージョン(アメリカ市場を中国人に閉鎖する)にすることによって対応してきた。アメリカ人は自分たちがやっていること(例えば,知的財産の取得など)を,中国人がやっていること以上に認めようとしない。なぜなら,それを認めることによる広報のコストが大きすぎるからだ。自分たちの目的を支持してくれる人を探すとき,すべてのリーダーは,悪いことをする悪の軍隊に対して善のために戦う軍隊のリーダーかのように見せたいものだ。そのため,相手側が悪事を働いているという非難が双方から寄せられ,自分たちが行っている同様のことが開示されることはない。原則としては...

物事がうまくいっているとき,道徳的な高みを保つのは簡単だ。しかし,戦いが厳しくなるとそれまで不道徳とされていたことを正当化しやすくなる(むしろ不道徳と呼ぶよりは道徳的と呼ぶ方がいい)。戦闘が厳しくなると,何が行われているかについての理想主義的な説明(これは国内での広報にとって良い)と,勝つために行われている実際的なこととの間に二律背反が現れるようになる。なぜなら,戦争において指導者は,「我々は善で,相手は悪だ」と有権者に思わせることが,人々の支持を集める最も効果的な方法であり,場合によっては,その目的のために殺傷することもいとわないからだ。確かにそうだが,現実的な指導者が,人々が自分自身に課す倫理的な法律以外に「戦争に法律はない」,「相手と同じルールでやらなければ,片手を後ろに回してやるという自己暗示で愚かにも戦ってしまう」と説明しても,人々を鼓舞することは容易ではない。

貿易戦争については,私たちは,これから見るべき最良の貿易協定をかなり見てきており,この戦争が悪化するリスクの方が,改善する可能性よりも大きく,アメリカ大統領選挙の終盤になるまですべての貿易交渉が保留されるので,すぐに条約や関税の変更が見られることはないだろうと思っている。選挙が終われば,誰が勝つか,そして彼らがこの紛争にどう対処するかに多くのことがかかっている。このことは,アメリカと中国が,現在進行中の大きなサイクルの運命にどのようにアプローチするかに大きな影響を与えると思う。現状では,アメリカの両政党が一致しているのは,中国に対してタカ派的だということだけかもしれない。中国がどの程度タカ派なのか,またそのタカ派ぶりが具体的にどのように表現され,反応するのかは,いまのところ不明だ。

この戦争はどのように悪化するのだろうか。

古典的には,貿易・経済戦争で最も危険なのは,各国が相手国から必要不可欠な輸入品を切り離す場合(例えば中国はアメリカから多くのハイテク製品,自動車エンジン,防衛システムの生産に必要なレアアースを切り離し,アメリカは中国から必須技術を切り離す),そして/あるいは,他国からの重要な輸入品を切り離した場合(例えばアメリカが台湾の半導体、中東やロシアの原油、オーストラリアの金属を中国から切り離す)だ。アメリカが日本への石油供給を停止したのは,その後の軍事戦争の短い先行指標であったことと同じだ。今のところこのような動きは見られないが,このような方向への動きは見受けられる。このような動きがありそうだとは言わないが,どちらかの国からの重要な輸入品を断つという動きは,もっとひどい紛争につながりかねない大きなエスカレーションのシグナルになるということは,はっきりさせておきたい。そうでなければ,進化が正常に行われ,国際収支は主に各国の競争力の進化に基づいて変化していくだろう。

このような理由から両国,特に中国はより多くの国内生産と「デカップリング」[2]にシフトしている。習主席が言うように,世界は「100年に一度の変化を経験している」し,「保護主義の高まり,世界経済の低迷,世界市場の縮小という現在の外部環境において,(中国は)国内超大型市場の優位性を十分に発揮しなければならない」。この40年間でそのための能力を獲得してきた。今後5年間で両国は互いに自立していくはずだ。明らかに,切り離すことのできる依存関係を減らす速度は今後5-10年の間,中国の方がアメリカよりもはるかに大きいだろう。

技術戦争

技術戦争は貿易戦争よりもはるかに深刻な戦争だ。なぜなら,技術戦争に勝利した者は,おそらく経済戦争と軍事戦争にも勝利するからだ。

アメリカと中国は現在,世界の大型ハイテク分野で圧倒的な強さを誇っており,これらの大型ハイテク分野は将来の産業だ。中国のハイテク部門は,中国国内の中国人にサービスを提供するために国内で急速に発展し,世界市場で競争力を持つようになった。同時に,中国は依然としてアメリカやその他の国からの技術に強く依存している(例えば,台湾からの半導体チップ)。そのため,アメリカは中国技術の開発と競争の激化に対して脆弱であり,中国人はアメリカやアメリカ以外の必須技術から切り離されることに対して脆弱だ。

現在,アメリカは,技術の種類によって異なるが,全体として技術能力が高いように見え,アメリカはそのリードを失いつつある。例えば高度なAI開発ではアメリカが先行しているが,5Gでは遅れをとっている。このリードを不完全に反映した結果,アメリカのハイテク企業の時価総額合計は中国の約2倍で,中国のシェアはアメリカのシェアより速く上昇している。この計算では,一部の大手民間企業(ファーウェイやアント・フィナンシャルなど)や企業以外の(つまり政府の)技術開発が含まれていないため,中国の相対的な強さが控えめになっている。今日,中国の最大の公開されている技術企業(アリババとテンセント)は,すでに世界第5位と第7位の技術企業であり,アメリカの「FAAMG」大企業数社のすぐ後ろにいる。最も重要な技術分野のいくつかは中国が主導している。 例えば,世界最大の民間スーパーコンピュータの40%が現在中国にあり,中国は5Gレースをリードしており,AI/ビッグデータレースのある次元,量子コンピューティング/暗号化/通信のレースのある次元でリードしている。例えば,中国の電子商取引とモバイル決済のドル換算額は世界一で,アメリカのそれを大きく上回っている。もちろん私や最も情報に通じた情報機関でさえも知らないような,秘密裏に開発されている技術もある。

中国はおそらく,アメリカよりも早く,その技術とそれによって可能になる意思決定の質を進歩させるだろう。ビッグデータ+ビッグAI+ビッグコンピューティング=優れた意思決定。中国は,アメリカで収集されるデータよりも一人当たり膨大な量のデータを収集しており(しかも人口は4倍以上),それを最大限に活用するためにAIとビッグコンピューティングに多額の投資をしている。これらをはじめとするテクノロジー分野に注ぎ込まれているリソースの量は,アメリカとは比べものにならないほど大きい。資金提供に関しては,ベンチャーキャピタルも政府も,中国の開発者に事実上無制限に提供している。人材に関しては,中国の大学を卒業し,技術的なキャリアを目指す科学,技術,工学,数学の学生の数は,アメリカの約8倍に達している。アメリカは全体的に技術的にリードしており(いくつかの分野では遅れているが),もちろん,特に一流大学や大手ハイテク企業には新しいイノベーションのための大きな拠点があるので,アメリカがゲームから外れているわけではないが,中国の技術革新能力がより速いペースで向上しているので,相対的地位は低下している。中国は,36年前に私が渡した携帯型計算機に驚嘆した指導者たちがいる国であることを忘れてはならない。 

テクノロジーの脅威と戦うために,アメリカは中国企業(Huawei,TikTok,WeChatなど)のアメリカ内での使用を阻止し,国際的にその使用を弱めようとし,場合によっては生産に必要な品目が手に入らないように制裁してその生存能力を傷つけることで対応している。アメリカがこのようなことをするのは,a)中国がこれらの企業を利用してアメリカ内外でスパイ活動を行っているため,b)アメリカがこれらの企業や他の中国のテクノロジー企業の競争力を高めることを懸念しているため,そして/または,c)中国がアメリカのテクノロジー企業の中国市場への自由なアクセスを認めていないことに対する報復として,なのだろうか?この点については議論の余地があるが,これらの企業や他の中国企業が速いペースで競争力を高めていることは間違いない。この競争上の脅威に対応するため,アメリカは脅威となるハイテク企業を封じ込めるか,殺す方向に動いている。興味深いことに,アメリカは知的財産へのアクセスを遮断しているが,アメリカは他国に比べて非常に多くの知的財産を持っていたため,少し前まであればもっと大きな力を持てていただろう。中国はアメリカに対して同じことをし始めたが,中国の知的財産は多くの点で優れてきているので,これはますます痛手になるだろう。安い電卓に驚嘆していた時代から,短期間でずいぶん進歩したようだ。

技術の盗用については,一般的に大きな脅威だとされているが(2019年のCNBC Global CFO Councilの調査では,北米に拠点を置く企業の5社に1社が中国企業に知的財産を盗まれたと主張している[3]),中国のハイテク企業に対してとられた行動を完全に説明するものではない。企業が国内で法律を破っている場合(例えば,アメリカにおけるHuawei),その犯罪が合法的に起訴されることを期待するので,技術に組み込まれたスパイ装置を示す証拠を見ることができるだろう。しかし,そうなっていない。中国のテクノロジー企業に対する攻撃の動機は,競争力の増大に対する恐れと同等かそれ以上だが,政策立案者がそう言うとは思えない。アメリカの指導者たちは,アメリカの技術の競争力が落ちていることを認めることができず,アメリカ国民に自由競争を認めることに反対することができない。彼らは昔から,競争は公正であり,最高の結果を生むための最良のプロセスだと教えられてきたのだ。現実問題として,知的財産の窃盗は記録に残る限りずっと続いており,それを防ぐのは常に困難であった。先の章で見たように,イギリス人はオランダ人に,アメリカ人はイギリス人に,自分たちの競争力を高めるためにそれを行った。「盗む」ということは,法律を破るということを意味する。戦争が国と国の間にあるときは,紛争を解決するための法律も裁判官も陪審員もなく,決定がなされる本当の理由は,それを行う人々によって必ずしも開示されない。私は,アメリカの攻撃的な行動の背後にある理由が良いものでないと言っているのではない。ただ,その通りではないかもしれないと言っているだけだ。保護主義的な政策は,外国の競争から企業を守るために長い間存在してきた。ファーウェイの技術は,アメリカの技術より優れているので,確かに脅威だ。アリババやテンセントを見て,アメリカの同等品と比較してほしい。アメリカ人は,なぜこれらの企業がアメリカで競争していないのかと尋ねるかもしれない。それは,アマゾンやその他多くのアメリカのハイテク企業が中国で自由に競争していないのと同じ理由であることがほとんどだ。いずれにせよ,中国とアメリカの大きなデカップリングの一部として,技術的なデカップリングが進行しており,それは5年後の世界の姿に大きな影響を与えるだろう。

技術戦争の悪化はどのようなものだろうか?

それでも,アメリカは技術的にリードしている(急速に縮小しているが)。その結果,現状では,中国はアメリカとアメリカ以外からの輸入技術に大きく依存し,アメリカが影響力を行使できる。これは中国にとって大きな弱点となり,アメリカにとっては大きな武器となる。これは,他の技術にも当てはまるが,最も顕著に現れるのは先端半導体だ。世界有数のチップメーカーである台湾積体電路製造公司は,中国と世界に必要なチップを供給しており,アメリカの影響を受ける可能性があるため,注目すべき多くの興味深い力学の一つだ。このような中国の技術輸入は,中国の幸福にとって不可欠なものが多く,アメリカの幸福にとって不可欠な中国からの輸入は,はるかに少ない。もしアメリカが中国の必須技術へのアクセスを遮断すれば,それは戦争リスクが大きく高まることを意味する。一方,もしこのままの状況が続けば,中国は5〜10年後には技術的にアメリカよりもはるかに独立した,より強力な立場に立つことになり,その時にはこれらの技術はより切り離されたものになると思われる。

地政学的戦争

特に中国本土,台湾,香港,東シナ海,南シナ海に関わる主権は,中国にとって最大の問題だろう。ご想像の通り,「屈辱の100年」とその間の外国からの「野蛮人」による侵略は,毛沢東や中国の指導者に,a)国境内での完全な主権を持ち,b)奪われた中国の一部(例えば,台湾や香港)を取り戻し,c)外国勢力に振り回されるほど弱くはない,という説得力のある理由を今日まで与えている。中国が主権を求め,独自のやり方(つまり文化)を維持しようとするのは,アメリカの要求する中国の内政の変更(例えば,より民主的にする,チベット人とウィグル人を違った形で扱う,中国の香港や台湾への対応に口を出す,など)を拒否する理由だ。プライベートでは,アメリカが国境内の人々をどのように扱うべきかを指図することはないと指摘する中国人もいる。また,アメリカやヨーロッパ諸国は文化的に布教しやすい,つまり自分たちの価値観,ユダヤ・キリスト教的信念,道徳,行動様式を他者に押し付ける傾向があり,その傾向は十字軍以前から数千年の間に発展してきたとも彼らは信じている。彼らにとって,主権リスクと布教リスクは危険な組み合わせであり,この組み合わせは中国が最善と信じるアプローチに従ってその能力を最大限に発揮することを脅かす可能性がある。中国人は,主権を持ち,階層的な統治構造によって決定された最善と思われるアプローチをとる能力は,妥協のないものだと信じている。主権問題については,アメリカが自分たちの政府(=中国共産党)をできることなら倒したいと考えられる理由があることも指摘しており,これも耐え難い[4]。これらは,中国が死ぬまで戦ってでも倒すだろうと私が考える最大の存立危機であり,アメリカは,熱い戦争を防ぎたいなら中国との付き合いに注意しなければならない。主権に関係しない問題については,私は,中国は非暴力的な形で影響を及ぼすための戦いを期待していると思っているが,熱い戦争になることは避けなければならない。

おそらく,平和的解決を想像するのが難しい最も危険な重要な主権問題は,台湾問題だろう。多くの中国人は,アメリカが台湾と中国の統一を認めるという暗黙の約束を,強制されない限り実行することはないと考えている。アメリカが台湾にF16やその他の兵器システムを売っているとき,アメリカが中国の平和的統一という公約を推進しているようには見えないと指摘する。その結果,中国の安全と統一を保証する唯一の方法は,アメリカに対抗する力を持つことであり,より大きな中国の力に直面したときにアメリカが分別よく譲歩してくれることを期待することだと彼らは考えている。私の理解では中国は現在,この地域で軍事的に強くなっている。また,中国はより速いペースで軍事的に強くなっていくと思われる。だから,先ほど申し上げたように,主権をめぐる争いが勃発し,特に「第四次台湾海峡危機」が起こるとしたら,私は非常に心配だ。アメリカは台湾を守るために戦うだろうか?わからない。 アメリカが戦わないということは,中国にとっては地政学的に大きな勝利であり,アメリカにとっては大きな屈辱となるだろう。それは,スエズ運河の喪失が大英帝国の終焉を告げたのと同じように,太平洋とそれ以遠におけるアメリカ帝国の衰退を告げるものだろう。その意味はその喪失をはるかに超えて広がるだろう。例えばイギリスの場合,それは基軸通貨としての英ポンドの終わりを告げるものであった。アメリカが台湾防衛を誇示すればするほど,敗戦や撤退の屈辱は大きくなるだろう。アメリカは台湾防衛をかなり誇示しているが,運命はそれを現実に近づけているように見えるのでその点が気になる。もしアメリカが戦うとしたら,台湾をめぐる中国との戦争でアメリカ人の命を犠牲にすることは,アメリカでは非常に不人気で,おそらくアメリカはその戦いに負けるだろうから,それがより大きな戦争につながるかどうかが大きな問題だと思う。それは誰にとっても怖いことだ。願わくば,相互確証破壊の恐怖のように,その大きな戦争とそれが生み出す破壊への恐怖が,それを防いでくれることを願っている。

同時に,私の議論から,中国はアメリカと熱い戦争をしたくない,他国を無理に支配したくないという強い願望を持っていると思う(自分ができる限りのことをし,その地域内の国に影響を与えたいという願望を持つこととは別だ)。中国の指導者は,熱い戦争がどれほど恐ろしいものかを知っており,第1次世界大戦が意図せずして陥ったように,意図せずして戦争に突入することを心配しているのだろう。協力的な関係が可能であれば,その方が望ましい。しかし,彼らには「レッドライン」(譲歩できる限界で,それを超えると熱い戦争になる)があり,これからもっと困難な時代がやってくると予想している。例えば,習主席が2019年の新年の辞で述べたように,「世界全体を見渡すと,我々は100年に一度の大きな変化の時期に直面している。この変化が何をもたらそうとも,中国は国家主権と安全保障の防衛に断固として自信を持ち続けるだろう」と述べている[5]。 

世界における影響力については,アメリカと中国の両方にとって,それぞれが最も重要だと考える地域がある。主に,近接性(最も近い国や地域を重視する)および/または必需品の入手(例えば,必須鉱物や技術から切り離されないことを最も重視する),そしてより少ない程度ながら輸出市場に基づいて,だ。中国にとって最も重要な地域は,第1に中国の一部とみなす地域,第2に国境沿いの地域(中国海など),重要なサプライレーンにある地域(一帯一路諸国など)または重要な輸入品の供給国,第3に同盟関係にとって経済的または戦略的に重要なその他の国の順となる。 

過去数年間,中国はこれらの戦略的に重要な国,特に一帯一路国,資源豊かな途上国,一部の先進国での活動を大幅に拡大し,地政学的関係に影響を与える役割をより大きくしている。これらの活動は経済的なものであり,アメリカがこれらの国への援助を控える中,対象国への投資の拡大(融資,資産の購入,道路や競技場などのインフラ施設の建設,各国の指導者への軍事支援など)を通じて行われている。このように経済のグローバル化が進み,ほとんどの国が中国人の国内での資産購入を容認する政策について,真剣に考えなければならなくなった。

一般的に言って,中国は競合しないほとんどの国と朝貢的な関係を望んでいるように見えるが,中国に近ければ近いほど,中国はその国に対してより大きな影響力を持つことを望んでいる。このような状況の変化を受けて,ほとんどの国は,程度の差こそあれ,アメリカと中国のどちらと同盟を結ぶのが良いかという問題に取り組んでおり,特に最も近接している国は,この問題について最も考慮する必要がある。世界各地の指導者たちと議論していると,経済と軍事という2つの優先順位があると何度も言われる。経済で選ぶなら,中国の方が経済的(貿易や資本の流れ)に重要だから中国を選ぶ,軍事で選ぶなら,アメリカに軍配が上がるが,アメリカが必要なときに軍事的に守ってくれるかどうかが大きな問題だ,とほぼ全員が口を揃える。アメリカが自分たちのために戦ってくれるのかどうか,ほとんどの人が疑っているし,アジア太平洋地域では,アメリカがその気になれば勝てる力があるのかどうか,疑問視する声も聞かれる。

中国がこれらの国々に提供している経済効果は大きく,第2次世界大戦後にアメリカが主要国に対して経済的利益を提供し,望ましい関係を確保するのに役立ったのと大差ない方法で機能している。中国の影響力に対するアメリカの影響力は急速に衰えている。昔はアメリカに大きなライバルがいなかったので,アメリカは簡単に意思表示をすることができ,ほとんどの国がそれに従った。ライバルはソ連(ライバルというほどでもない)とその同盟国,そして経済的にはライバルにはならないいくつかの発展途上国だけだった。ここ数年,他国に対する中国の影響力は拡大し,アメリカの影響力は後退している。このことは,国連,IMF,世界銀行,世界貿易機関,世界保健機関,国際司法裁判所などの多国間組織においても同様で,そのほとんどはアメリカの世界秩序が始まった当初にアメリカによって設立されたものだ。アメリカがこれらの組織から手を引いているため,これらの組織は弱体化し,中国がより大きな役割を果たすようになっている。 

今後5年から10年の間に他の分野でのデカップリング[3]があることに加え,どの国がこれらの主要なパワーとそれぞれ連携するのかが見えてくるだろう。資金や軍事力だけでなく,中国とアメリカが他国とどのように交流するか(すなわち,ソフトパワーをどのように使うか)が,これらの同盟がどのように結ばれるかに影響を与えるだろう。すなわち,スタイルと価値が重要になる。例えばここ数年,世界中の指導者が両国の指導者を「残忍」と表現するのを耳にするが,これは,この両国の指導者の思い通りにしなければ罰せられるという恐怖心を増大させ,相手国に追い込まれるほど嫌われている。歴史上,最も強力な国は,集団的に強力でない国の同盟によって倒されるのが普通だから,これらの同盟がどのようなものになるかは重要であろう。おそらく最も興味深いのは,中国とロシアの関係であろう。1945年に新世界秩序が始まって以来,中国,ロシア,アメリカの3国のうち,2国が同盟を組んで3国目を無力化,あるいは圧倒してきたロシアと中国はそれぞれ相手が必要とするものを多く持っている(例えば,ロシアから中国への天然資源と軍備,中国からロシアへの融資など)。また,ロシアは軍事的に強いので,軍事的な同盟国として良いだろう。このようなことは,各国がアメリカと中国のどちらと問題(例えば,ファーウェイを入れるかどうか)を積み上げるかを見ていれば,わかってくることだ。

国際政治的なリスクと機会に加えて,両国にはもちろん大きな国内政治的なリスクと機会がある。それは,両国の政府の主導権を争う異なる派閥が存在し,必然的に指導者の交代が起こり,予想が困難または不可能な政策の変化が生じるからだ。予測することはほぼ不可能だが,これらの変化は誰が責任者になったとしても現在存在し,これまで議論してきたビッグサイクルの方法で展開されている課題に直面することになるので,全く予測不可能というわけではない。すべてのリーダー(そして私たち全員を含む,この進化のサイクルに参加するすべての人々)は,これらのサイクルの異なる部分で乗ったり降りたりするので,彼ら(そして私たち)は遭遇する可能性のある特定の状況を持っている。歴史上の他の人々も,過去のサイクルの同じ部分を踏んだり降りたりしているのだから,その類似の段階で他の人々が何に出会い,どう対処したかを研究し,何らかの論理を用いることで,可能性の範囲を不完全ながら想像することができる。

資本戦争

資本戦争のリスクは,資本を遮断されること(これはアメリカよりも中国にとって大きなリスクだ)と,基軸通貨の地位を失うこと(これは中国よりもアメリカにとって大きなリスクだ)の2点だ。

第5章では,古典的な資本戦争の動きを概観した。それらはすべて米中対立における可能性だ。これらの動きを現代風に言えば「制裁」だ。その目的は,敵が必要とする資本から敵を切り離すことだ。お金がない=力がない,だ。制裁には様々な形態があり大別すると金融,経済,外交,軍事となる。それぞれのカテゴリーには,多くのバージョンとアプリケーションが存在する。2019年現在,個人,企業,政府を対象としたアメリカの制裁は約8,000件ある[7]。様々なバージョンやターゲットについて深く掘り下げると余談が多くなるので割愛する。知っておくべき重要なことは,アメリカは圧倒的に強力な制裁の武器を持っているということだ。最も重要なことは,アメリカは世界の金融システムに対して最大の影響力を持ち,世界をリードする基軸通貨を保有しているということだ。そのため,対象となる企業と取引する金融機関を,世界の金融市場から切り離すと脅すことで,金融機関がその企業と取引するのを妨げ,ほとんどの企業が資金や信用を受け取れないようにすることができる。これらの制裁は決して完璧なものでも,すべてを網羅するものでもないが,一般に極めて効果的だ。

金融市場に対する制裁は非常に効果的なため,それによって損害を受ける可能性の高い国々は,制裁を回避する方法(例えば,代替決済システムの開発など),あるいは制裁を課すアメリカの力を弱める方法のいずれかに取り組むのが自然だろう。例えば,ロシアと中国は,共にこのような制裁を受け,さらに制裁を受ける危険性が高いが,現在それぞれ代替決済システムを開発し,協力しているところだ。中国の中央銀行は間もなく,主要な中央銀行として初めてデジタル通貨を提案する予定であり,これによりデジタル通貨の利用がより魅力的になる。中国の通貨がドルを犠牲にした上で広く受け入れられる基軸通貨となるためにどのような進展があるにせよ,それには時間がかかり,今後5年間に起こるであろう関係の大きなデカップリングの段階の一部と見なすべきだ。

アメリカの最大のパワーは,世界の貨幣を印刷できること(すなわち,世界をリードする基軸通貨を持つこと)と,それに伴うあらゆる運用力(決済システムに対する影響力など)にある。アメリカはこのパワーの一部を失う危険性があり,中国はその一部を獲得する立場にある。それは,米ドル負債を購入し保有することの望ましさが減少しているからだ。a)基軸通貨の保有規模を示す多くの優れた長期的尺度に照らして,外国人のポートフォリオ(最も重要なのは中央銀行準備や政府系ファンドなど政府が管理するポートフォリオ)におけるドル建ての債務額が不釣り合いなほど大きいこと[8],b)アメリカ政府とアメリカ中央銀行は恐ろしく速いペースでドル建ての債務と貨幣の量を増やしており,その量は連邦準備制度がその多くをマネタイズしない限り,十分な需要を見つけることは難しいだろう,c)アメリカ政府はこの債務に対して,無視できるくらいの名目利回りとマイナスの実質利回りを支払っているため,この債権を保有する金銭的なインセンティブはない,d)潜在的な戦時下では,交換媒体として,あるいは富の蓄積として債務を保有するということは,平時と比べるとあまり好ましくはない,などだ。さらに,中国が保有する約1兆ドルの債務(ちなみに発行済み約27兆ドルの4%程度にしか相当しない)は,関連するリスクだ。また,中国に対する措置が自国にも及ぶことを他国が認識しているため,中国が保有するドル資産に対する措置は,他の資産保有者がドル債務資産を保有することのリスク認識を高め,その需要を低下させる可能性が高い。また,基軸通貨としてのドルの役割は,多くの国との間で自由に交換され,うまく機能することに大きく依存しているため,アメリカが自国の利益のためにドルの流れを規制したり, 世界に反する金融政策を行ったりすると,世界の主要基軸通貨としてのドルの望ましさが失われることになる。このように,ドル安の影響が積み重なっている。一方で,ドルは広く使われているため,価値が高く,代替が効きにくいという,他にはない強い立場にある。

アメリカは,a)莫大な量のドル建て資金と債務の創出,b)実質リターンの低下とマイナス,c)ドルの武器としての利用 (例えば,資本規制によって利用を制限できる),それと,d)不換通貨制,これらを同時に実現できるかの限界を試されている。限界が何かは分からないし,限界に達するまでそれが来たと言うこともできない。その時点で,修正するには遅すぎるだろう。このような状況が存在した過去の歴史的な極端なケースに関する私の研究と,現在および今後のアメリカの通貨と債務の供給と需要に関する分析の両方から,アメリカ政府,連邦準備制度,および債務の買い手は,基軸通貨を破らずにどれだけ資金と信用を搾り取ることができるかの限界を試していることが分かる。現在,世界の金融・経済政策を動かしている人々や過去に動かしていた人々を含め,この分野で世界で最も知識のある人々と話したところ,証拠,つまり現在のケースと関連する歴史的ケースとドル建て通貨と債務の供給と需要の現状を見せたときに,前例のないほどリスクの高い領域にあり,何が可能か限界を試していることに同意しない人は一人もいない。だからといって,近い将来,ドルの価値や基軸通貨としての地位が著しく低下すると確信している人はいない。ドルやドル債務のイメージは,金利のイメージに似ている(関連している)。 数年前に,このような極端な状況になるかどうか,つまり,政府が資本規制を行わない資本市場において,債務と借入金が非常に大きく,名目および実質の長期金利がマイナスになるかどうかを尋ねたとしたら,これらの識者は皆,「ありえない」と答えただろう。それは,そのようなことが過去に一度もなかったからであり,自分たちの富を他のものに移すのではなくその取引を受け入れられる理由を,その債務の保有者や買い手が理解するのは難しいからだ。最大の財政赤字と債務のマネタイゼーションがこれほど大量に存在し,金利が低く抑えられた過去の極限状態(政府の資本規制が求められ,金利が目標とされた戦争時代だ)を見て,最もデフレで不況だった経済時代を見れば,こうしたことが起こるとは思えないので,「ありえない」というのが賢い判断だっただろう。しかし,それが起きてしまった。 

今,誰がどのような理由で何を買ったかを見れば,その理由がわかる。 しかし,この教訓は,マーケットで定期的に得られるものと同じで,あり得ないことが予想以上に頻繁に起こるということだ。だから,ほとんどの人,特に世界有数の専門家が限界を試していることに同意しているが,私を含め,誰もドルが基軸通貨としてすぐに大幅に減少するだろうと断言することはできない。しかし,そうなったときにどのような形になるかを認識し,そうなった場合にはおそらく止めることはできないだろうと知ることはできる。ドル建て債券の保有者は資産を他に移すためドル建て債券を売り,賢い債務者は安い資金を利用してより高い収益を上げるためドル建て債券を大量に借りるだろう。これらの動きによって FRBは,a)金利を許容できないほど上昇させる(上昇すれば市場と経済に深刻なダメージを与えるため),b)大量の債券を買うためにお金を印刷し,ドルやドル債務の実質価値をさらに低下させる,という選択をする必要が生じるだろう。第2章と第3章で述べたように,それは古典的な通貨防衛のように見えるだろう。その章で説明したように,そのような選択に直面した場合,中央銀行はほとんど常にお金を印刷し,債務を購入し,通貨を切り下げ,通貨を保持するために受け取っている金利が通貨の価値の下落を補償するほど高くないため,自己強化になる。通貨と実質金利が新たな国際収支の水準を確立するまで,この状態が続く。これは,商品,サービス,金融資産の強制的な売却が十分に行われ,アメリカ人のそれらの購入が十分に抑制されて,より少ない債務で支払いができるようになるまで,という言い訳だ。

ドルに関して最もよく聞かれる質問は,「アメリカは基軸通貨の地位を失うかもしれないのに,それに代わる良い通貨がないのだろうか? そこで,その質問をもう少し詳しく見てみよう。基軸通貨資産と現在の外貨準備の保有比率は次の通りだ。

これらの6つがこのような金額で使用されているのは,歴史的な理由と,相対的な魅力に影響を与えるファンダメンタルズの両方があるからだ。この研究の前段で説明し,図表で示したように,基軸通貨の使用状況は,言語の使用状況と同様に,通貨を使用する基本的な理由に何年も遅れをとるものであり,通貨の使用状況は簡単に変わるものではない。現在,最も利用されている4つの基軸通貨(米ドル,ユーロ,日本円,英ポンド)は,基本的な魅力は乏しいが,1945 年以降の旧帝国が主導してきた通貨だ。これらはG5諸国の出身であり,G5と同じくらい時代錯誤的だ。

各通貨のファンダメンタルズ的な魅力について:

・ドルについては,すでに述べたので繰り返さない。 

・ユーロは,ほとんどの問題で非常に断片的で,経済的にも軍事的にも弱い通貨連合によって,弱々しく結束している国々によって作られた通貨だ。

・円は,日本人以外には国際的にあまり使われていない通貨で,債務が増えすぎて急速にマネタイズし,魅力的でない金利を払っているなど,ドルと同じ問題を多く抱えている。また,日本は中程度の国力しかなく,重要な意味での先進国ではない。

・英ポンドは時代錯誤的に保有されている通貨で,ファンダメンタルズが相対的に弱く,一国の経済力/地政学力を測る我々の尺度のほとんどで,この国は相対的に弱くなっている。 

・金が保有されているのは,最も長い間,最もよく機能したからであり,英ポンドのように過去の時代,すなわち金が世界の通貨システムの基盤にあった1971年以前から保有されていたからだ。先に述べた不換紙幣の弱点である刷りすぎがないのも魅力だ。同時に金の市場規模が限られているため,その規模も限定的だ。

・中国人民元が基軸通貨に選ばれるのは,そのファンダメンタルズ,つまり世界貿易のシェアが最大なこと,経済規模がほぼ同数なこと,他の通貨や商品・サービス価格に対して比較的安定した通貨運営を行っていること,外貨準備高などその強みが大きいこと,が理由だ。また,0%金利,マイナス実質金利,リストラを余儀なくされる国内債務を多く抱えてはいるが,債務の印刷・マネタイゼーションという問題も抱えていない。欠点は,通貨が普及していないこと,資本の自由な移動と為替レートの変動がないこと,資本市場と金融センターがもっと発展しなければならないこと,決済システムが未発達なこと,世界の投資家の信頼を得るには至っていないこと,などだ。

歴史的に見ても,通貨が望まれなくなると,通貨は売られて切り下げられ,資本は他の投資先(金,銀,株,不動産など)を見つけて入るので,通貨切り下げのために魅力的な代替外貨市場を持っている必要はない。言い換えれば,アメリカは代替基軸通貨がなくても,基軸通貨の地位を低下させることができる。 

アメリカが中国の通貨と資本市場を混乱させることなく,中国の通貨と資本市場は急速に発展し,アメリカの通貨と信用市場との競争がますます激しくなるだろう。 一度にそうなることはないだろうが,今後5~10年の間に衝撃的な速さでそのように進化していくのが分かるだろう。オランダ,イギリス,アメリカのケースに見られるように,その展開は自然の弧と一致している。また,中国が健全な政策を続け,市場をうまく発展させれば,そうなるためのファンダメンタルズは整っている。中国の資本市場,人民元,人民元建て債券は,そのファンダメンタルズに比して投資不足なため,その重要性が高まる可能性が大いにある。例えば:

・中国とアメリカは最大の貿易国で,ともに世界貿易(輸出入を含む)の約13%を占めているが,世界の貿易金融に占める人民元の割合は約2%に過ぎず,ドルの割合は50%以上だ。人民元建て貿易金融の比率を高めるのはかなり容易であろう。

・中国は世界のGDPの約19%[9]を占め(しかもアメリカより速いペースで成長している),世界の株式時価総額の約15%を占めているが,MSCI株式指数では現在約5%のウェイトしかなく,その資産はポートフォリオの外国資産の約2%を占めるに過ぎない。一方,アメリカは全体として世界のGDPの20%程度を占め,成長も鈍化しているが,MSCI株価指数では現在50%以上のウェイトを占め,アメリカ以外の資金が約48%入っている。私が言いたいのは,中国市場が投資不足なのは,特に外国人投資家にとって投資が発展から遅れているからだ,ということだ。

先にオランダ,イギリス,アメリカの帝国の発展で説明し示したように,アムステルダム,ロンドン,ニューヨークという世界有数の資本市場と世界の資本市場の中心地の発展は,それぞれの帝国が一流帝国になるために不可欠なステップであり,中国の資本市場と金融センターとしての上海(さらに香港,深圳も)が中国の発展に遅れたように,伝統的にその国のファンダメンタルに遅れてきた。

中国の通貨と資本市場の発展は,アメリカにとって不利であり,中国にとっては有利だ。つまり,アメリカの政策立案者は,a)より攻撃的な戦争(この場合はより攻撃的な資本戦争)を通じてこの進化の道を中断しようとするか,b)特に今後 5-10 年の間に,この分野におけるアメリカのリーダーシップを犠牲にして,中国が相対的に強くなり,より自給自足し,アメリカから圧迫される可能性が低くなるという進化の道を受け容れるか,の選択を迫られる可能性が高いと思われる。アメリカ人による中国市場への投資を抑制し,中国企業をアメリカの証券取引所から上場廃止にする可能性のあるアメリカの動きが早くも見受けられる。これらは諸刃の剣であり,中国市場や上場企業にとってわずかな損害である一方で,アメリカの投資家やアメリカ証券取引所の競争力を弱め,中国やその他の地域の市場の発展を支えることになるからだ。例えば,アント・グループが香港と上海の取引所に上場するという選択は,投資家にとって,これらの中国の取引所で投資するか,他の取引所に上場していない投資先として見過ごすかという選択肢を与えることになる。

軍事戦争

私は軍事専門家ではないが,軍事専門家と話す機会があり,このテーマについて研究しているので,私に与えられたものを伝えることにする。自分の責任でそれを受け取るか,残すかしてほしい。

次の大きな戦争がどのようなものになるかを想像することは不可能だが,おそらく多くの人が想像するよりもはるかに悪いものになるだろう。それは,多くの兵器が秘密裏に開発され,前回最も強力な兵器が使用され,実戦を見たときよりも,あらゆる形態の戦争において,苦痛を与える創造力と能力が非常に高まっているからだ。現在,戦争には想像を超える種類があり,それぞれの戦争において,誰も知らないほど多くの兵器体系が存在する。核戦争はもちろん恐ろしいが,生物兵器,サイバー兵器,化学兵器,宇宙戦争,その他の戦争も同様に恐ろしいと聞いている。これらの多くは未テストであるため,どのように機能するかについては多くの不確実性がある。

知っていることをもとに見出しをつけると,a)東シナ海と南シナ海におけるアメリカと中国の地政学的戦争は,双方が互いの限界を試しているため,軍事的にエスカレートしている,b)中国は東シナ海と南シナ海でアメリカより軍事的に強くなったため,この地域での戦争はおそらくアメリカの負けだろう。c)アメリカは世界的にも全体的にも強く,より大きな戦争にはおそらく「勝つ」だろうが,d)より大きな戦争は,他のいくつかの国がその中でどう行動するか,どんな技術がひそかに存在するかなど未知の部分が多く,複雑すぎてよく想像がつかない。ただ,多くの情報通が同意するのは,そのような戦争は想像を絶するほど恐ろしいものになるだろうということだ。

また,注目すべきは,a)中国の軍事力の向上速度は,他の向上速度と同様に,特にここ10年間は極めて速いこと,b)将来の進歩速度は,特に経済と技術の向上がアメリカを上回り続ければ,さらに速くなると予想されることだ。中国が5-10年後に広範な軍事的優位を獲得する可能性を想像する人もいる。 

軍事衝突の可能性のある場所としては,台湾,東シナ海,南シナ海,北朝鮮が最大のホットスポットであり,インド,ベトナムがその次に大きい(理由は割愛する)。 

アメリカと中国の間で大規模な熱い戦争が起こるとすれば,先に述べたすべての戦争に加えて,最大限の追求がなされるだろう。なぜなら,生き残りをかけた戦いの中で,それぞれが持てる力のすべてを相手にぶつけることになり,歴史上の他の国々がそうしたように,第三次世界大戦となり,第三次世界大戦は,第一次世界大戦よりもはるかに致命的だった第二次世界大戦よりもはるかに致命的なものになると思われる。第二次世界大戦が第一次世界大戦よりもはるかに致命的だったのは,技術的な進歩によってお互いを傷つけ合えるようになったからだ。 

戦争のタイミングを考えるとき,私は,国が大きな内部障害を抱えているときは,敵対する国がその脆弱性を積極的に利用する好機であるという原則を念頭に置いている。例えば,日本が東南アジアのヨーロッパ植民地を支配しようと動いたのは,1930年代,ヨーロッパ諸国が恐慌や紛争で困難な状況にあったときだ。また,指導者の交代や指導力の低下があるとき,同時に大きな内紛があるときは,敵が攻勢に出るリスクが高まると考えるべきだと,歴史は教えてくれている。例えば,今度のアメリカ大統領選挙では,そのような状況があり得る。しかし,時間は中国側にあるので(先行するチャートで示した改善と弱体化の傾向から),もし戦争になるなら,中国は遅く(例えば,自給自足が進み強くなるであろう5-10年後),アメリカは早くするのが得策だ。 

他に2つのタイプの戦争を追加するつもりだ。1)文化戦争は,このような状況に対してそれぞれがどのように取り組むかを決めるもので,あきらめるくらいなら何を犠牲にするかということも含まれる。2)自分自身との戦争は,私たちがどれだけ効果的であるか,つまり,これまで検討してきたような重要な点において強くなるか弱くなるかを決めるものだ。

文化戦争

人と人がどのように付き合うかは,共同で直面する状況にどのように対処するかを決める上で最も重要であり,その文化は,人と人の付き合い方を決定する最大の要因になるであろう。アメリカ人と中国人は何を最も重要視し,人は互いにどうあるべきと考えているかによって,先ほど検討したような対立に対処する際に,互いにどう対処するかが決まる。アメリカ人と中国人は,そのために戦ったり死んだりするような異なる価値観や文化的規範を持っているので,もし私たちが平和的に違いを乗り越えようとするならば,双方がこれらが何かを理解し,それらにどううまく対処するかが重要だ。

先に述べたように,中国の文化はその指導者と社会にほとんどの決定をトップダウンで行わせ,高い水準の礼節を求め,個人の利益よりも集団の利益を優先させ,各人が自分の役割とその果たし方をよく知り,階層的に上の者には親愛の情を持つことを要求するものだ。また,「プロレタリアートによる支配」を求める。これは俗に言う,創造された機会と生産性の果実の利益が,広く分配されることを意味する。これに対してアメリカは,個人の自由を尊重し,集団主義よりも個人主義を優先し,革命的な考え方や行動を賞賛し,地位よりも考え方に敬意を払うという,ボトムアップで国を運営することを指導者に強いる文化だ。このような文化的価値観が,彼らが選択する経済・政治システムの原動力となった。

はっきり言って,これらの違いのほとんどは日常生活では明らかではなく,アメリカ人と中国人が共有している多くの信念に比べれば,一般的にはとても重要というわけではない。また,すべての中国人,すべてのアメリカ人が持っているわけでもない。だからこそ,多くのアメリカ人が中国での生活を快適にし、その逆もまた然りとなる。また,それらは浸透しているわけでもない。例えば,シンガポール,台湾,香港など他の領域の中国人はより西洋の民主主義システムに近いガバナンスシステムを持っている。しかし,こうした文化の違いは,ほとんどのことに微妙に影響し,大きな紛争の際には,当事者が争うか平和的に解決するかを決定する決定的な違いとなる。中国人とアメリカ人が互いに抱える主な問題は,一部の人が相手の価値観や物事の進め方を理解・共感できず,お互いが最善と考えることを許さないことから生じている。両国の開放により交流が盛んになり,共有される慣行(例えば,同様の願望,製品,結果を生み出す同様の経済的自由)が増えて,両国の環境と国民は以前よりずっと似てきたが,アプローチの違いはまだ顕著だ。このような違いは,それぞれの国の政府と国民がどのように相互作用しているか,特に指導者と政策立案者のレベルでアメリカ人と中国人がどのように相互作用しているかに定期的に反映されている。このような文化の違いには,小さなものもあれば,それをめぐって多くの人が死闘を繰り広げるような大きなものもある。例えば,ほとんどのアメリカ人は「自由を与えるか,死を与えるか」と考えているが,中国人にとっては個人の自由は集団の安定性ほど重要ではない。

このような違いは,日常生活の違いにも反映される。例えば,中国政府はより父性的で,子供が遊ぶビデオゲームの種類や1日何時間遊べるかを規制しているが,アメリカでは親が個人的に決めることとされているため,政府による規制は行われていない。どちらのアプローチの良し悪しを議論することもできる。中国のヒエラルキー文化は,政府の指示をただ受け入れるのが自然であり,アメリカの非ヒエラルキー文化は,その方法でやるかやらないかで政府と争うことを容認している。同様に,COVID-19に対応してマスクを着用するように言われた場合のアメリカ人と中国人の反応も,文化的傾向の違いが影響している。中国人はその指示に従うが,アメリカ人は従わないため,患者数,死亡数,経済効果など,2次的な結果が生じる。このような文化的に決められた物事の扱い方の違いは,中国人とアメリカ人の多くの事柄に対する反応の違いに影響する。例えば,情報のプライバシー,言論の自由,メディアの自由など,国によって異なる運用方法がたくさんある。

これらの異なる文化的アプローチには長所と短所があり,ここでそれを探るつもりはないが,私が伝えたいのは,アメリカ人をアメリカ人たらし,中国人を中国人たらしめている文化の違いは,彼らの中に深く埋め込まれており,中国人が中国人でなく,アメリカ人がアメリカ人でなくなることは期待できない,ということだ。言い換えれば,中国人に,彼らが深く信じている,人と人との正しいあり方,間違ったあり方を放棄することを期待することはできない。中国の素晴らしい実績と,その背景にある文化がいかに深く浸透しているかを考えれば,中国人が自分たちの価値観やシステムを諦める可能性は,アメリカ人が諦める可能性以上にない。中国人とそのシステムをよりアメリカ的にしようとすることは,彼らにとって最も基本的な信念を服従させることを意味し,それを守るために彼らは死ぬまで戦うだろう。平和的共存のためには,アメリカ人が自分たちのアメリカの価値観とそれを実現する方法がベストであると信じているのと同様に,中国人が自分たちの価値観とそれを実現する方法がベストであると考えていることを理解する必要がある。

例えば,指導者を選ぶ場合,多くの中国人は,有能で賢明な指導者に選んでもらった方が,「一人一票」で一般国民に選んでもらうより望ましいと考えている。なぜなら,一般国民は情報も能力も乏しいと考えるからだ。ほとんどの人は,一般国民が気まぐれにリーダーを選び,自分たちにとって何がベストかよりも,選挙で選ばれようとする人たちが支持を買うために何を与えるかに基づいて,リーダーを選ぶと考えている。例えば,一般投票者は,そのお金がどこから来るかを気にせずに,より多くのお金を与えてくれる人を選ぶだろう。また,プラトンが信じていたように,そして数千年の間に民主主義から独裁主義に転じた多くの国で起こったように(最近では1930-45年),民主主義国は非常に悪い時に機能不全の無政府状態に陥りやすい。人々は,自分たちが何をすべきかを教えてくれる強力で有能な指導者を支持するより,何をすべきかで争うからだ。また,一人のリーダーの任期は発展の弧に沿って進歩するのに必要な時間のわずかな割合に過ぎないため,リーダーを選ぶシステムはより良い多世代間の戦略的意思決定に適していると考えている[10]。彼らは集団にとって最善のことは最も重要かつ国にとって最善のことで,トップに立つ人々によって決定されると信じている。彼らの統治システムは大企業,特に多世代に渡る企業で典型的な統治に近い。そのため,アメリカ人やその他の西洋人が,このアプローチに従う中国のシステムの合理性を理解し,民主的な意思決定プロセスの課題を彼らの目から見て理解することが難しいのはなぜだろうか,と彼らは考えている。はっきり言って,私はこれらの意思決定システムの相対的なメリットを探求したいわけではない。単に,どちらの側にも議論があることを明らかにし,アメリカ人と中国人が互いの目を通して物事を見ることができるように,最も重要なことは,a)それぞれが最善だと考えることを行う権利を受け入れ,許容し,さらには尊重するか,b)中国人とアメリカ人が互いに妥協できないと信じるものをめぐって死闘を演じるか,のどちらかを選ぶことだと理解しようと思っているだけだ。

アメリカと中国の経済・政治システムは,それぞれの歴史の違いと,その歴史から生まれた文化の違いから,異なるものとなっている。経済に関しては,2つの異なる視点がある。1)中国人が共産主義と呼ぶ古典的左派(生産手段の政府所有,貧困層,富の再分配などを支持),2)古典的右派(生産手段の私有,システムで成功した者,富の再分配をより限定的に支持),が,世界の他の国と同様に中国にも存在し,特に中国ではすべての社会でどちらかに振れ,中国人は文化的に左か右かというのは正しくないだろう。アメリカの嗜好は,もっと限られた歴史の中で,同じような振れ幅が存在していた。もしアメリカの歴史がもっと長かったら,ヨーロッパのようにもっと大きな振幅があったと思われるので,もっと大きな振幅がありうると考えるべきだろう。このような理由から,「左」対「右」の傾向は,進化しつつあるコアバリューというよりも,進化のトレンドに伴うビッグサイクルの揺れであるように思われる。実際,このようなスイングが今,両国で起こっているので,資本主義などの「右」の政策アメリカよりも中国で,逆にアメリカよりも中国で支持されている状態に近いといっても過言ではない。いずれにせよ,深い文化的嗜好と明確な区別はそこにはない。一方,中国人のトップダウン/ヒエラルキー型とボトムアップ/非ヒエラルキー型という文化的傾向は,彼らと彼らの政治システムに深く刻み込まれており,アメリカ人のボトムアップ/非ヒエラルキー型という文化的傾向もまた,彼らに深く刻み込まれている。最終的にどの方法が最も効果的で勝利するかについては,できれば偏見を持たずに他の人が議論することに委ねたいが,歴史をよく知る観察者の多くは,これらのシステムのどちらも常に良いとも悪いとも言えないと結論付けていることを指摘しておく。何が最も効果的かは,a)状況、b)これらのシステムを使う人々の相互関係,によって異なるということだ。 どんなシステムも持続的にうまく機能することはなく,もし,a)そこにいる個人が自分たちが望む以上のものを尊重していない場合,b)システムが壊れることなく時代に合わせて変化できるだけの柔軟性を持っていない場合,実際にはすべてが崩壊してしまう。

そこで今,アメリカ人と中国人が,この共有の地球上で可能な限り最善の方法で進化するという共通の課題にどう対処するかを想像しながら,私は彼らの強い文化的傾向,とりわけ諦めるくらいなら死を選ぶような和解しがたい違いが,どこに向かうかを想像してみた。

例えば,ほとんどのアメリカ人や西洋人は,a)政治的意見も含めて自分の意見を持ち,表現できること,b)自分が所属する組織がその権利を阻む権利や能力を持たないこと,のために死ぬまで戦うだろう。これに対して,中国人は,a)権威を尊重し,それは相対する当事者の権力によって反映され,示されること,b)集団の中の個人の行動に対して集団の組織が責任を負うことをより重視する。このような文化の衝突の最近の例としては,2019年10月にヒューストン・ロケッツのゼネラルマネージャー(ダリル・モレイ)が,香港の民主化抗議運動への支持を表明する画像をツイートしたことがある。彼はすぐにツイートを取り下げ,自分の見解がチームの見解やNBAの見解を代表しているわけではないと説明した。その後,モーリーはアメリカ側(=マスコミ,政治家,国民)から言論の自由を守らなかったと攻撃され,中国側からはリーグ全体の責任として,中国の国営テレビからNBAの試合をすべて取り下げ,オンラインストアからNBAグッズ販売を取り止め,リーグに対してモーリーが批判的政治見解を述べたとして解雇するように要求するという処罰を受けた。この文化の衝突は,アメリカ人にとって言論の自由がいかに重要であるか,また,個人が所属する組織が個人の行動によって罰せられるべきでないとアメリカ人がいかに考えているかということから生じた。一方,中国人は,有害な攻撃は罰せられるべきであり,個人が所属する集団は,その中の個人の行動に対して責任を負うべきだと考えている。このような,人と人とのあり方に関する根強い信念の違いから,もっと大きな対立が起こるケースも想像できるかもしれない。例えば,中国人は,上の立場にあるとき,下の立場にある当事者に,自分は下の立場であることを自覚させ,従わせ,もしそれをしなければ罰せられると,それを明確にすることを望む傾向がある。それが中国の指導者の文化的傾向・スタイルだ。また,必要なときにサポートしてくれる素晴らしい友人でもある。例えば,COVID-19の発病と死亡の最初の大きな波のとき,コネチカット州の知事が個人防護具の入手に必死で,アメリカ政府や他のアメリカの情報源から入手できなかったとき,私は中国の友人に助けを求め,彼らは必要なもの,それも多くのものを提供してくれた。中国がグローバル化するにつれ,多くの国の指導者(およびその国民)は,中国の寛大な行為と厳しい処罰に感謝し,また不快に思っている。このような文化の違いの中には,当事者同士が満足できるように交渉できるものもあるが,最も重要なものの中には,交渉で取り除くことが非常に難しいものもある。

私は,中国人とアメリカ人は異なる価値観を持っており,相手が望むのとは異なる選択をするということを認識し,受け入れることが重要だと思う。例えば,アメリカ人は中国人の人権問題の扱い方を好まないかもしれないし,中国人はアメリカ人の人権問題の扱い方を好まないかもしれない,そこで問題は,それについてどうするかということだ。アメリカ人は中国人と争って,自分たちが考える中国人のやり方を押し付けるべきだろうか,それとも逆に,お互いのやることに介入しないことに同意すべきだろうか。私の考えでは,a)自分たちにとって良くないと強く信じていることを他国の他人に強制するのは難しすぎ,不適切で,おそらく不可能だ。b)結局のところ,アメリカが中国に何かを押し付ける能力と中国がアメリカに何かを押し付ける能力は,我々の相対的な力の関数であろう。  

私たちが合意しうる現実的な原則について考えるとき,アメリカ人と中国人,そしてあなたと私が,(それが真実であってほしいかどうかはさておき)真実であることに合意できるだろうか,と考えている。もしそれができれば,望ましい道筋を決定するのに役立つだろう。

・誰もが自分の立場を知る必要があり,自分の力が自分の立場を決定する。誰がどのような力を持っているかという疑問があれば,それを解決するために争いが起こるだろう。理想的には,それは熱い戦争なしで起こるが,それが明確でなく,重要である場合,一般的に平和的に解決されない。時間が経つにつれて,誰がどのような力を持っているかは明らかになる。だから力の弱い人は,自分が力を持っていないことを知れば,権力と地位の変化が戦わずに行われるように,下位の地位にすべりこむべきだ。しかし,それを拒めば,戦いが起こり,弱い方の勢力が手痛い敗北を喫することになる。これが権力の移行を難しくしている。 

国際関係における唯一の真のルールは,ルールがないことだ。それは,国際的には何が公平で何が不公平かを判断し,不公平なプレーをしている者や個々のパワーより強い者にペナルティを与えるために,相互に合意された法律も警察も裁判所も裁判官も,その他のプロトコルも存在しないためだ。最も重要なのは,勝つか負けるかだ。例えば,アメリカ独立戦争で,イギリス人が列をなして戦い,アメリカ人の革命家が木の陰から撃ってきたとき,イギリス人はそれを不公平だと思い,革命家はイギリス人は愚かで,新興のアメリカ人は正しいことをしたと信じて勝った。というものだ。だから,私たちの指導者や私たちは,相手が不公平なことをしていると泣き言を言うのをやめ,代わりに,起こっていることに対処するために賢くゲームをすることに集中すべきだということに同意できるだろうか?

・勝利とは,我々にとって最も重要なものを失うことなく,最も重要なものを手に入れることだ。だから,利益を得るよりも人命や金銭がはるかに多くかかる戦争は愚かなことだ。

国際関係には,最も力のある者が自らに課す以外のルール(例えば,戦争における道徳に関するルール)はないが,より良い結果をもたらす可能性の高い異なるアプローチは存在する。例えば,Win-Winの結果をより多く生み出しやすいアプローチとLose-Loseの結果をより多く生み出しやすいアプローチがあり,Win-Winの結果をより多く導きやすいものがより良い。より多くのWin-Winの結果を得るためには,相手と自分にとって何が最も重要かを考慮してうまく交渉し,これらをうまく取引する方法を知る必要がある[11],[12]。

愚かな戦争(つまり,良識ある人がその価値を言うよりもはるかに多くの命とお金がかかる戦争)に陥るのはあまりにも簡単だ。その理由には,a)囚人のジレンマ,b)一触即発のエスカレートプロセス,c)衰退した国が手を引くコスト,d)意思決定が迅速でなければならないときに生じる誤解,がある。囚人のジレンマについては,自分に協力するか殺すか,自分は相手に協力するか殺すか,どちらも相手が何をするかわからない相手を相手にした場合を想像してほしい。あなたならどうするか?あなたと相手が協力するのがベストであっても,それぞれが相手に殺される前に相手を殺すのが論理的な行動だ。それは自己保存が最も重要であり,相手が自分を殺すかどうかはわからないが,自分が殺す前に相手が自分を殺すことが得策であることはわかるからだ。ライバルである大国は,通常このような状況に置かれている。先に相手を殺そうとする道を歩まないために,相手に自分を殺す方法がないことを保証する方法を持つ必要がある。愚かな戦争が起こるもう一つの大きな理由は,お互いにエスカレートするか,敵が最後に手に入れたものを失い,弱いと認識されることを必要とする,いたちごっこのエスカレーション・プロセスがあるためだ。平和を勝ち取るためにはこれらは両者によって避けられなければならない。これに関連して,衰退する帝国は,論理的である以上に上昇している帝国と戦うことが多い。なぜなら,戦うか退却するかの計算では,退却は敗北であるため,期待される結果のみを根拠に論理的でない戦いを好む傾向があるからだ。例えば,アメリカが台湾防衛のために戦うことは非論理的に思えるが(例えば,アメリカが負ける確率が70%の場合),中国の台湾攻撃と戦わないことは,同盟国のために戦って勝利しなければ,アメリカを支持しない他の国々に対して大きな威信とパワーを失うことになる。さらに,このような敗北は,指導者を自国民に弱く見せることになり,政権を維持するために必要な政治的支援を失うことになりかねない。そしてもちろん,紛争が急速に進行しているときの誤解による誤算も危険だ。このような力学は,戦争が加速するような強力な引き力を生み出す。

人々を興奮させるような不誠実で感情的なアピールは,愚かな戦争の危険を増大させるので,a)リーダーが真実かつ思慮深く,状況とそれにどう対処するかを説明するか(これは,国民の意見が重要である民主国家では特に重要),b)できるだけ優れたリーダーを選びそれを盲信するか,のどちらかがよいだろう。 最悪なのは,c)指導者が不真面目で感情的になって国民に対応することだ。国民が激昂して戦いたがれば,戦争のリスクは論理的なものよりも高くなる。政治的指導者は,政治的支持を得るために,しばしば国民を激高させることがある。否定的な感情は回復するのに時間がかかるため,戦争の危険性を高めることになる。これは現在,アメリカと中国の両方で起きていることだ。例えば最近のピューの調査では,アメリカ人の73%が中国を好ましく思っておらず,73%がアメリカは中国の人権を促進すべきだと考えており,50%がアメリカはCOVID-19で中国が果たした役割について「責任を負うべき」と考えていた[13]。中国の対米世論調査はしていないが,多くの人から悪化していると聞いている。その人たちが紛争を加速させることを要求するのは,それほど難しいことではないだろう。

戦争に勝つための最も賢い方法は,強者の立場から相手と交渉する力を持つために,相手を打ち負かすことだ。a)アメリカと中国はシステムと能力の競争をしている,b)それぞれが自分たちにとって最も効果的だと信じるシステムに従うのは必然だ,c)アメリカ人の力のリードはわずかに縮小し,数では負けている,d)歴史は,人の数は大いに重要だが,他の要素(例えば,第1章で示した17の要素)の方が重要であることを示しているため,人口の少ない帝国でもうまく管理すれば世界をリードする大国になる,ということで同意できるのではないだろうか?つまり,強くなるために最も重要なのは,自分自身との付き合い方であることを示唆している。

そこで,私たちが今直面している最後の,そして最も重要な戦争に話を移す。

自分自身との戦争:敵は私たち

私たちの最大の戦争は自分自身との戦いだ。なぜなら,私たちは自分たちの強さや弱さを最もよくコントロールできるからだ。なぜなら,私たちは自分たちの強さや弱さを最もよくコントロールできるからだ。これらの要素は第1章で整理され,17の指標で測定されている。ここで簡単におさらいしておく。そして結びの章「未来」では,ほとんどの国についてこれらの指標を示し,その先行指標を探っていくことで,将来の予測を立てることができるようにしたい。

大帝国をつくるために最も重要な項目は…

・…成功に不可欠な要素を提供するのに十分な強さと能力を備えたリーダーシップ,それには...

・...強い教育。 強い教育とは,単に知識や技術を教えるという意味ではなく,......

・…強いキャラクター,礼節,そして強い労働倫理であり,一般的に学校だけでなく家庭でも教えられるものだ。これらは,礼節の向上につながり,次のような要素に反映される…

・…汚職が少なく,法の支配などのルールが尊重されていること。 

・また,人々は,自分たちがどうあるべきかという共通の見解のもとに団結し,共にうまく働くことができることも重要だ。人々が知識,技能,優れた人格,礼節を持ち,共に行動し,共に働くことができれば...

・…資源を配分するための優れたシステムができ,それは...

・…最高のグローバルな思考に開かれていることによって著しく改善され,この国は,成功するための最も重要な要素を備えている。それは,彼らが獲得することにつながり…

・…グローバル市場での競争力が高まり,経費を上回る収入がもたらされ,それは…

・…強い所得の成長を導き,それが...

インフラ整備,教育システム,研究開発への投資の拡大を可能にし,その結果...

...生産性が急速に向上する(労働時間当たりの価値の高い生産物が増えている)。 生産性の向上は,富と生産能力を高めるものだ。生産性が高まれば...

・…新しい技術を生み出す生産的な発明家になることができる。これらの新技術は,商業と軍事の両方にとって価値がある。このように国の競争力が高まると,当然ながら......

・…世界貿易に占める割合が高まり,そのためには...。

・…貿易路を守り,国境外の重要人物に影響を与えるための強力な軍事力が要求される。 経済的に卓越した存在になるために,彼らは......

・…強力で広く利用されている通貨,株式,信用市場が開発される必要がある。当然ながら,貿易と資本の流れの中で優位に立つものは,自国の通貨を世界的な交換手段や富の保管場所としてより多く使用することになり,その結果,自国の通貨が基軸通貨となり...... 

・…少なくとも世界有数の金融センターとして,資本の誘致や流通,世界的な貿易の拡大に貢献している,という構図ができあがる。

これらのことが相互に補強しあい,揺るぎなく向上していくことで,国は興隆し,力を維持していく。 

しかし,このような強みを獲得することは,同時に,気をつけなければならない循環的な衰退の種を蒔くことになり,どのようなかたちで現れるかといえば…

・…競争力が低下する。なぜなら…

・…成功し,豊かになると,新興の競争相手に真似をされるようになり,そうなると......。

・…一生懸命に働かず,より暇で生産性の低い活動に従事するようになるからだ。とりわけ…

・…戦いに慣れていない新しい世代が,より強く,より懸命に働かなければ成功できなかった世代から手綱を奪う。また,最も豊かで強力な世界的大国であることは

・…基軸通貨を持つことにつながり,それは…

より多くのお金を借りることができるという「法外な特権」を得ることになる。その結果…

・…外国人に借金を重ねることになり,それは帝国を維持するために必要な国内の過剰消費と,軍事・戦争支出の両方を賄い,ファンダメンタルズを超えた権力を維持する。富裕層が貧困層から債務をしているとき,それは相対的な富の移動の非常に早い兆候だ。 

債務と資本市場による経済的成功は,金融バブルと大きな貧富の格差の両方をもたらすが,それは人々がその恩恵を不釣り合いに受けているからであり,それは…

・…経済的ストレスが大きいと,貧富の差が大きくなり,最初は徐々に,そして次第に激しくなり,その結果...

政治的過激主義,すなわち左派(社会主義者や共産主義者など富の再分配を求める人々)と右派(資本家など富裕層の富を維持しようとする人々)の両方のポピュリズムが高まり,その結果…

・…お金持ちは自分たちのお金が奪われること,そして/または,敵意をもって扱われることを恐れ,お金と自分たちをより安全だと感じる場所,資産,通貨に移動させる。もしそれがつづくことになると…

・…財政再建を迫られ,それは…

・…赤字の拡大と税率の上昇をもたらし,その結果...

・…典型的な自己強化型の空洞化プロセスで,税金を払い,お金を使い,雇用を提供していた人々が去っていく。その結果...

・…必需品への支出が減り,状況が悪化し,さらに貧富の差が激しくなり,税率や赤字がさらに上昇し,さらに空洞化が進む。

非常に大きな債務を抱え,中央銀行は債務の増加をできるだけ刺激するために金利を引き下げたため,中央銀行はハードマネーで債務と経済成長を刺激する能力を失ってしまう。そのため…

・…経済が悪化すると,a)お金をめぐる内部での争いが増え,b)中央銀行による貨幣の印刷が増え,結局は切り下げになる。 

その国の海外帝国を維持し,軍事的に守るには,それがもたらす収入よりも維持するためのコストの方が大きくなるため,経済的でなくなり,主導国の財政と海外での力がさらに弱体化する。

このような破壊的な状況は国の生産性を低下させ,経済のパイを縮小させ,縮小する資源をうまく分配する方法についてさらなる対立を引き起こし,さらに内紛を招き,秩序をもたらすために支配を望む両側のポピュリスト指導者の間でますます争いが起こるようになる。その時こそ,民主主義が独裁主義に最も挑戦される時だ。

・競争力のある新興国は,しばしば既存の有力国が弱体化している時期に,それに対抗できるだけの経済力,地政学力,軍事力を獲得する。国際的には,新興国は,a)市場と領土の影響力を獲得するためにより効果的に競争し,b)撤退した国が残したこれらの空隙を埋める。

その他,自然現象(疫病,干ばつ,洪水など)のような外生的ショックは,脆弱な時期に発生し,それが起こると,自己強化型の下方スパイラルの危険性が高まる。

中国とアメリカでは外的な戦争や課題よりも,内的な戦争や課題の方が重要であり,大きい。その中には,国の指導層内や政府の各レベルでの政治戦争,異なる派閥間の戦争(富裕層と貧困層,農村と都市,保守派と進歩派,民族など),人口動態の変化,気候変動などがある。幸いなことに,これらの力のうち最も重要なものは私たちのコントロール下にあり,測定可能であるため,私たちがどのように行動しているかを確認し,もしうまくいっていなければ,これらの力が正しい方向へ向かうように変更を加えることができる。大体において,私たちは自業自得だ。チャーチルがイギリス国民に言ったように「Deserve Victory!(受け取るに値する勝利)」だ。

本書の次の章「内部秩序」では,国内における秩序の獲得と喪失のパターンとプロセスについて見ていき,本書の最後の章では,未来への展望を試みる。 以下は,アメリカと中国の8大勢力に対する我々の指標を示した図表だ。それらが物語っている。毎年更新していくので,どのような経過をたどっているのかがわかると思う。

[1] 例えば,私は常にブリッジウォーターで独裁的な意思決定を行う所有権を持っていたが権力を使わないことにした。かわりに,私は(『プリンシプル』で説明した)アイデア実力主義的なシステムを構築し,運用した。また,私は,極めて高い基準を維持しながら,一緒に働く人々に対して必要以上に寛大であることを選択しました。たら,そのように運営することで,私が「ハードパワー」をより強力に使用するよりもはるかに優れた,素晴らしい人間関係と成果を生み出すことができると知っていたからだ。だから,素晴らしい人間関係が人に大きな力を与え,それ自体が素晴らしい報酬であることを忘れてはいけない。個人にとっても集団にとっても,お互いを思いやり,全力を尽くそうとする有能な人々の協力関係ほど強力でやりがいのあるものはない。
[2]自給自足を実現するための主要な計画は,「2重循環」という名で呼ばれている。 
[3] https://www.cnbc.com/2019/02/28/1-in-5-companies-say-china-stole-their-ip-within-the-last-year-cnbc.html
[4] 「政権交代」は,アメリカが世界秩序を管理するためによく用いる手法であることは広く認識されている。
[5] この発言は,特に台湾統一問題に関連してなされたものだ。
[6] デカップリングは,状況を考えると必要ではあるが,困難であり,著しく効率を低下させることになるであろう。 ある有識者は,これを広義のデカップリングではなく,区分けされたデカップリングと表現したが,私には納得がいくものであった。 
[7] 参照: https://www.theatlantic.com/politics/archive/2019/05/why-united-states-uses-sanctions-so-much/588625/
[8]米ドル建て債務のシェアは,a)国際投資家がポートフォリオのバランスをうまくとるために保有する資産配分の割合,b)貿易や資本フローの資金需要を満たすために適切な準備通貨の保有規模,c)他の市場の資本規模に対するアメリカ債市場の資本規模,そして d)他の経済に対するアメリカ経済の規模や重要性と比較して,大きい。 ドル建て債務が現在不釣り合いに大きいのは,米ドルが世界の主要な基軸通貨なため,実際よりも安全な資産と認識され,米ドルの借入が不釣り合いに大きいためだ。さて,市場ごとに保有比率を決める役割を担っている人たちの多くは,アメリカ債の売却額が大きくなるのに合わせて保有比率を上げる気はなく,むしろアメリカ債の保有比率を下げることを考えており,そうなると,連邦準備制度による買い入れ額を大きくする必要が出てくる。
[9] 購買力平価で調整。
[10] 実際,アメリカ国民が誰を代表に選ぶかで表現されるように,アメリカ国民にとって何が重要なのかが一見気まぐれに変化することから生じる,アメリカにおける政策と方向性の継続性の欠如に対処することは,彼らにとって挑戦的な課題だ。
[11] Win-Winのアプローチの過度な例を挙げると,もし各国が手に入れたいもの,あるいは守られたいもののトップ10を選び,それらに合計100ポイントを割り当てて,それらがどれほど欲しいかを表現すれば,最適な取引は何かを決定することができるだろう。例えば,中国にとって台湾との統一は,戦争をしてでも手に入れたいものだろう。しかし,アメリカのリストにあるものは,双方を満足させるために喜んで交換するような,非常に高いものだろう。
[12]未熟に聞こえるかもしれないが,米中戦争に対処するために,思慮深い意見の相違の力を利用することができればと思う。例えば,大統領選の討論会のように,両国の指導者や代表者が,両国の国民が双方の意見を聞くことができるような,思慮深い意見の相違を何度も公にすることができたら,どんなに素晴らしいだろうと私は想像している。そうすれば,私たちの知識も共感も深まり,平和的解決の可能性も高まるに違いない。
[13] https://www.pewresearch.org/global/2020/07/30/americans-fault-china-for-its-role-in-the-spread-of-covid-19/



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?