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強引だけどいい人(3人目のAさん)

夕方事務所に戻ると、「すぐ連絡ほしい」というメモが机にありました。
電話をとったスタッフに確認すると、私が不在と伝えると、「戻ったらすぐ電話して」、と言って電話を切ってしまったそうです。
名前を確認しようとしたらしいですが、聞く間もなかったとのこと。
言いたいことだけ言って電話切る人、たまにいます。
メモに書かれた電話番号にかけるとなるほどと納得。
確かに人の話をゆっくり聞かない人です。

病院のすぐ近くにすむAさんは90才。
同じ年の奥様と二人暮らしです。
Aさん自身はすごく元気で面倒見がよく、奥様もしっかり者です。

私がAさんと関わるようになったのは、Aさん所有のアパート(長屋)に住んでいた人のお世話をしてからのこと。
その住人は当院に入院後、在宅生活は困難と有料老人ホームに入居しました。
その際、住んでいた部屋をどうするのかということになり、Aさんと交渉したのがきっかけ。
その部屋のすごいこと。
ゴミ屋敷一歩手前、いやすでにゴミ屋敷化していて畳まで腐っていました。
Aさんはこの部屋を何とかしてもらうまでは退去は困る、とカンカン。
最低限必要なものだけ確認して、畳も含めて全部処分しました。
しかし部屋の傷みは予想以上にひどく、最初に払った敷金では焼け石に水。
Aさんに次の人が住めるような状態まで直してほしい、といわれたのですがとてもそんなお金はありませんでした。

結局本人も介護が必要な状態でお金もあまりないので、毎月少しずつ払っていくということで仕方なく納得してもらいました。           しかもその支払いは私が本人から預かってAさんに届けるということになりました。
その際、一応Aさんが納得するようにいろいろ段取りしたということで、それ以来すごく私を買ってくれているのです。
たまに毎月預かったお金を持っていく時もお茶やお菓子を出してくれ、釣りに行ったといっては釣果のお裾分けもありました。

さて、Aさんに電話をすると今からすぐ行くから待ってるように、ということでした。
何かと思ったらあじを釣ってきたので持って帰れとのこと。
15センチくらいのアジを20匹ほど持ってきてくれました。
ついでに、釣りたてなので3枚におろして寿司にしたら旨いから、と教えてくれました。
が、結局家に持って帰って唐揚げとフライで食べてしまいました。

その翌日、昼前にまた電話がありました。
「相談があるからすぐ来てくれ、10分で済むから」といつものように有無をいわせぬ電話。
Aさんの家は歩いて2.3分。次の面談まで30分あったので何事かと思って向かいました。
玄関に入るや、まあこれ食べてみて、と出てきたのは昨日のアジでつくったお寿司。
昨日お寿司が旨いと言ったが、家ではなかなか作れないだろうということで、朝から奥さんに作らせたとのことです。
お皿に5個のっていました。
お茶とお箸もちゃんと用意してくれていました。
奥様も出てきて、今日は朝起きてきて急に作れっていうのよ。
自分が食べるのかと思って作ったら、食べさせるっていうので、それだったらもう少しちゃんと作ったのに・・・、とちょっと困った顔でうれしそうな表情。
お昼は弁当持ってきていたのですが、ここまでしてもらって食べないわけにはいきません。
昨日寿司つくったか,と聞かれたので唐揚げとフライにしましたと正直に答えると、そやろ、寿司なんか家でなかなかつくれへんやろ。
どうやうまいやろ。
たしかにすごくおいしかったです。
アジの皮は酢に漬けておくと剥がし易いことも教えてくれました。
いつもながらの急な用件。しかし面倒見はすごくいい人なんです。

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