【第三の人生】5の章:屋上で飛び降りを繰り返す霊
*登場人物*
萬里→主婦でお役目持ちの修行は幅が広がってきている。相変わらず夜の飲屋街は空気がマズイっす!
ユカり→萬里の仲良し。重度の心の病気から身体も壊して、ずっと連絡つかずだったけど、ここんとこなんとか会うことができている。
ユカり行きつけのBAR、不穏な空気漂う裏口からビルの屋上へ続く階段を昇る。
手に九節の杖を握りしめ、持参していたお清めの御塩と、御神酒を少しづつ撒きながら、屋上へ着いた。
萬里の頭の中に浮かぶ景色と今現実に見ている景色がカブる。
男性がウロウロ歩き回っている気がする、初めて夜の街を一望できる場所に来た。その界隈を見渡すと、あちこちのビルに煙のような黒いモヤが下から上に立ち上る。
『やっぱりここはとんでもない場所だわ。』
萬里が働いてる時も殺人や爆発事故、お店の人を人質に立てこもりなど、静かな時などなかった場所。
ハラちゃんと来た時に具合が悪くなった状況って、前に後輩が経営するホストクラブにミカちんと行った時と同じような状態だったし、見えない何かの影響を受けると『悪酔いする』という事が今ハッキリわかった。
酒を飲むと感が鈍り、霊達やマイナスなエネルギーに対してのガードと抵抗力が落ちる。それは、萬里にとっての危機的状況ともいえる。
屋上の端の方に男性が立っている映像が浮かぶ。そして、その男性が視界からフッと消える、その光景が何度も何度も繰り返される。
『なんで、俺だけがこんな目に・・・。なんで俺は失敗ばかりするんだろう・・・。俺は生きてる価値がない人間だ・・・。俺が居なくなっても誰も気付かない・・・。俺が居なくなっても誰も困らない・・・。』
そんな言葉が頭の中を巡る。
しばらく黙って見ていると『この世から消えてやる・・・。』
萬里「あっ!」
思わず声が出た。
ユカり「なになに?!」
萬里「この男性、ここから飛び降りたみたい。お店の人に、このビルで飛び降り自殺がなかったか聞いてみて。」
ユカり「うん、わかった。で、とりあえずここでどうしたらいい?」
萬里「ここは大丈夫!あの男性と対話してみる、悲しい気持ちが晴れるように説得してみる!」
ユカり「わかった!あとはお願い!」
初!杖を握り氣を込めて、その男性に話しかけ、杖で空(くう)を切り、天に還すための文字を描く。習ってもないのに自然と湧いて出たこの行動。
萬里なりの対話を試みる。
『生きることに、人から与えられる価値が必要?失敗しない人間なんかおらん。あんたが居なくなって困る人は、いっぱいおるはず。
今そこからでは何も見えんやろ?あんたが死んだことで、自分を責めて悩みながら生きてる人もおるかもしれん。自ら死を選ぶってことは、迷惑はかけても、誰かの役に立つことなんかないよ。
天国に行って、もう一回やり直してみるってのはどう?今世の失敗を、次に活かせばいいじゃん?』
何度も止まなかった飛び降りる行為をやめ、男性にためらいが出始めた。
次への希望が湧いたのか、何を思ったのかは分からない。
男性は光が射す方に向かった。
このビルの空気だけが一瞬で澄み渡る。
ここに居たのは、この男性だけではなく、同じような思いを抱えた大勢の霊達。大勢いることで、一つ一つの暗い想いが重なり合い、一帯を覆う黒い空気と化していた。
男性一人の想いだけで、これほどに影響を及ぼすことはない。それはどこの場所でも一緒。
だから、逆に代表格の一人を説得すれば、同じ想いのその他大勢霊にも届くのだ。
これだけ最悪な夜の街、このビルだけを浄化しても何も変わらないと思う。本当なら、この夜の街全体をどうにかしたい、でないと萬里はこの先ずっと、この場所で楽しく、うまい酒を飲むことはできない。
BARのスタッフもユカりも、この空気の違いには気が付いた。
スタッフ「なんか全然雰囲気が違います!これで安心して仕事ができます!」
ユカり「よかったね!また今度、萬里を飲みに連れてくるよ!」
この日は大仕事を終え、疲れがドッと出たが、ユカりと離れるのがなぜか名残惜しい。
萬里がやってることと成長を認めてくれたのか、ユカりの口からは思いがけない話が出た。
ユカり「私、今物件探してるんよ。やっぱりお店やりたくってね。前回はオープンもできないまま失敗したけど、またチャレンジしてみようと思ってね、今度はお金かけずに空き店舗探して内装は信頼できる友達に頼んで、そこでやってみようかと思うんだ~。」
ユカり・・・( ;´Д`)
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