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ワイン知らずのワイン談義:ソッカでもどう?

前回はワイン業界の裏話だったけれど、どうも後味が悪い。要は高価なワインはうまいし安全。安ければ、もう合成品としか言いようのないしろもの。そこそこの品質でそこそこの価格をそこそこの所得者が飲むという、きわめて寂しい状況がワイン業界。あまりにも悲しい。これなら日本の焼酎でも飲んでいたほうがよほど賢明だ。フランスでもワインの消費量が落ちて夏はビールということらしいし、ワインを飲むにしてもフルーティなわかりやすいワイン、あれこれ御託を並べなくてすむ軽いワインが好まれているとか。原子の一個一個を数え上げるような分析ができる今どきなんだから、そのうちビッグデータとAIを駆使して殺虫剤入りのワインを弾きだすプログラムなんかが出るだろうし、好みの香りやテーストを世界中のワインから探してくれるアプリもそのうち、、、エッ?もうあるの?そうか、、、そうだ、ニースでソッカを食べたことがある。La soccaと書くけど。

ソッカとヒラリー

ソッカというのは平たい大きなフライパンでポワ・シシュ(ヒヨコマメとかエジプトマメと言うらしい)の粉を焼いただけの簡単な食べ物。これを小さな皿に3ユーロ、日本円で360円で売るというのだから、いや、高くつくね、フランスの外食は。それに美味い物とは思えなかったものだから、とても自発的に食うものじゃなかった。ただヒラリーが一緒に行こうと言うので行ったまでの話。ニースにはVieux-Niceと呼ばれる旧市街の町があって、ソッカはここで食べるものと決まっている。飲み物は安物の白ワイン。あんなものを食べるのは観光客しかいないんだろうな。ヒラリーとはここでムール貝を食べたこともあった。ヒラリーはオーストラリアから来た学生で人気者だった。レポートを書くと必ず最高点をもらって、教授たちにも一目も二目も置かれていたし、男子学生たちはオレがあいつと寝るんだとばかりに群れをなして口説いていた。そんな人気者がなぜ私などと?わからない。わかりません。話相手になったからかな、たぶん。髪は亜麻色、目はグリーン、背は私より少し高いくらいだった。笑うとほんとうにチャーミングだった、えくぼができて。派手な格好はしていないのに、目立つところがあって、一緒に食事をしている私を羨ましそうにみる男たちは多かった。クラスの一番人気の学生と寝たんだけど、他の生徒とも関係があると分かって激怒したとか、コルシカへ旅行へ行ったとき船員に口説かれたんだけど、友達がいい方を取ってたちまちどこかえ消えて、私はパットしない船員男と夜を過ごし貧乏くじを引いたとか、そんな話を平気でした。いつもアングロサクソン系の女子の性的経験には驚かされる。そのくせ"jerk off"などと言う表現には耳をふさいで「イヤイヤ、もうヤメテ、イヤ~!!!」と潔癖な反応を示したりして、ちょっとわからないところもあった。寝た話に顔色も変えないくせして。ヒラリーは魅力的だったのだけれど、珍しいことに胸がほとんど無かった。一緒にニースの海岸へ行って泳いだり、日に当たったりしたこともあった。彼女は泳ぎが上手で、まるで競泳選手のように豪快に水を切った。それに水に軽く浮かんで見せる。私が浮かぶのにはこうやって頭を後ろにやらないと、などと不器用にやっていると、「そんなことないよ、簡単だよ」と頭を持ち上げたまま浮いてみせた。ヒラリーはそろそろ帰国の準備をしていた。浜辺で我々は着かえたがヒラリーは私の横で水着を取った。ちょっとだけ隠して。私は挑発されているような気がして、それならとヒラリーの胸をしばらく無表情で眺めていた。ほとんど厚みのない胸に二つの明るい干し葡萄のような乳首が見えた。ヒラリーも私の視線を知りながらも気にはせず、スカートを先に履いて水着を取り、それから下着を着けて立ち上がり「さあ、行く?」と言った。二人で出歩いたのはそれが最後で、あとはニースを離れるヒラリーたちを駅に学生仲間と見送りにいっただけだ。国の大学を出て大学で知り合った男と結婚したけど、不幸な風だったと人づてに聞いたことがある。昔々の話だ。

絵:フリーハンドのデッサン 筆ペン使用

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