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AIがなんだかわからないけど不安を感じているクリエイターにこそ読んでほしい「AI時代のクリエイティビティ」

(この記事は2023年に成安造形大学で行われた私の集中講義の内容を抜粋、補強して掲載しています)

毎日のように新しいニュースが飛び交い、次々と進化しながら可能性を更新し続けているAI業界。そんな今、制作や創造に関わる人間が、私達にしかできない価値を発揮し続けていくために、注目すべき点は何でしょうか。結論から先に書きます。

1.一次情報を扱えるのは、原理的に人間のみである
2.一次情報は、独自の反応と強い刺激を生み出す 

この結論を説明するため、なぜ今AIが盛り上がりを見せているのかを簡単に示しつつ、人間とAIのそれぞれの優位性を見ていきます。

知能とはなにか?

AIとは日本語で「人工知能」です。この人工で作ろうとしている「知能」とは何でしょう?これは様々な領域で定義付けがされているので、今回のAIの文脈から近しいものを一つ紹介すると

学習によって獲得された知識及び技能を新しい場面で利用する能力であり、また、獲得された知識を選択的適応をすること

アメリカ心理学会

つまり「インプット」で得られた情報を、別場面で活用(応用的アウトプット)することが知能であると言えます。アウトプットのためには準備として「分析処理」が必要となり、以下のような図になります。

人工知能とはなにか?

上記が知能の基本要素だとすると、これを人工的に行うことが人工知能と言えます(アウトプットは情報の出力だけではなく、出力結果の評価が必要)。ですが、これまでのAIではいずれの要素でも多くのコストがかかり一般化しませんでした。最近急激に盛り上がりを見せたのは、各要素でこれまでの課題を解決する前進があったためです(下図のオレンジ部分)。

人工知能が扱う情報の種類

ここで注目したいのはインプット。
爆発的に増え続けるオンライン上の情報を活用できる仕組みが整ってきました。その仕組みを使い多くのAIサービスが生まれましたが、それらの元となる情報はすべて2次情報と3次情報になります。これは独自で取得した情報をソースに持つAIであっても同様で、AI自体がどのように変化しても基本的にこの部分は変わりません。

1次情報 / 2次情報 / 3次情報

では「AIが扱うのは2次情報と3次情報のみ」とはどういうことでしょう。
情報はその取得方法に応じて以下3つに分類されます。

※似た用語に「1次資料/2次資料」があるが意味が異なるので注意

お店のラーメンの評価を例としてみます。
自分自身でそのお店に行ってラーメンを食べてみる、もしくは食べた人に直接自分で聞いてみるなど、自ら情報を収集したものを「1次情報」と呼びます。
ラーメンガイドブックのような雑誌や書籍にまとめられたもの、もしくはgoogleやグルメ系サイトで取りまとめられたような、身元確かな誰かが情報を集めてまとめたものは「2次情報」になります。
3次情報」はその情報発信者の身元が定かではないものを指すもので、twitterや匿名掲示板への投稿、根拠のない噂話などがこれにあたります。
1次情報は自分自身が集めた情報となるため、客観性はさておき主観としての精度はとても高い情報となりますが、量を集めることは難しいです(自分が食べたラーメンを美味しいと自分が思ったということが間違っていることはないが、いろんなお店に行くのは大変だし、他の人も美味しいと思うかは未確定)。
一方で2次/3次情報は仕組みを整えれば量を集めることは容易にになりますが、集まる情報の質は様々で、精度は掛けるコストとトレードオフとなる傾向があります。

このように考えるとAIのソースはオンライン上のサービスに登録された情報や、SNSなどの情報、もしくは自社が用いる情報収集ツールから吐き出される情報となり、すべて2次情報と3次情報です。
リサーチャーが何らかの調査で収集した情報(この時点では1次情報)を用いるAIもあるかと思いますが、この情報も外部に受け渡した時点で(厳密に言うと)2次情報となります。
そういった意味では、2次/3次情報を加工して得られるAIによって出力される情報は4次情報と呼ぶべきかもしれません。

1次情報の特徴

では、人間にしか扱えない1次情報の特徴を見てみましょう。
まず「良くも悪くも主観が大きく影響する」と言えます。何か情報を直接受け取った際に、どんな外部基準を設けようとも、その人のこれまでの経験や記憶、それらによって培われた感性、感情などが大きく影響を与えます。
次に「情報の受け手に与える影響力が強い」という特徴もあります。例えば美味しいリンゴを食べる際にも、2次/3次情報として「このリンゴの糖度は最高レベルの19です」「このリンゴの投稿数が急上昇です」と言われるよりも、1次情報としての「自分が食べた中でも最も美味しいリンゴを直接食べる体験」のインパクトは強くなります。

1次情報とクリエイティビティ

これらの特徴を考慮しつつ、本投稿のテーマである「AI時代のクリエイティビティ」を考えていきます。
1次情報は主観の影響を受けますが、2次/3次/4次情報は受けにくいです。これは1次情報だけが個人のユニークなエリアにまで到達し、刺激を与え反応を得られることを示しています(下図参照)。これにより、その人だけの情報のピックアップや組み合わせ、切り口の発見などが行われ、出力には個性が生まれます。同じリンゴを食べても、その反応は人によります。
逆に言うと2次/3次情報だけに依ったクリエイティビティは、誰がおこなっても似たような結果となり、妥当性でもAIには勝てないでしょう。
もちろんAIによって偶然の組み合わせ、もしくは人間には見つけられなかったような関連による新しい切り口から新たな発見を得ることができます。
1次情報とAIのアプローチは相反するものではなく、併用や使い分けこそがAI時代のクリエイティビティに求められるものと言えます。

また、1次情報には明らかな優位性が1つあります。それは、2次/3次/4次情報よりも人間を動かす力が強い、ということです。上図にもあるように1次情報は人間のより深い部分に到達し、ユニークなだけではなくより強い反応を返します。
例えば災害に遭われた方への支援、その様子をニュースやSNSで見ることよりも、自身が被災地へ行き、被災者の方から直接お話を伺う方が遥かに強いモチベーションをもたらします。
これはボランティアでも事業企画でも制作でも同じです。この強いモチベーションは深く長く維持され、その活動の質や強度を高めるでしょう。
それだけではなく、このモチベーションは周りの人にも伝播します。例えばサービスを作り運営していく際にも、多くの人と協力しながら進める必要がありますが、この1次情報から得られるモチベーションは個人だけではなくチームとしての強さにもつながっていきます。
実際に私の周りにいる、プロフェッショナルな経営者やクリエイターは1次情報(自身の直接的な経験)による熱量で動いている人が多く居ます。これは2次/3次情報の利用やAIの出力からは現れない効果です。

まとめ

ということで長々と続けましたが、最初に書いた結論をもう一度見てみましょう。

1.一次情報を扱えるのは、原理的に人間のみである
2.一次情報は、独自の反応と強い刺激を生み出す 

AIは近年各フェーズにおいて革新的な状況改善が行われ有効性を増してきました。大量の情報を高速で常時扱うことができ、人間にはできないような新たな規則性の発見、大量の個別対応などによって、これまでにない価値を生み出していますが、1次情報を得ることも扱うこともできません。

その1次情報は人間だけが取得・活用することができ、私達にそれぞれの経験に応じた独自の反応と強い刺激を与えてくれます。それは1次情報に触れて私達が「何を感じたか」「どう思ったか」という主観とも言えます。その主観は私達それぞれのユニークな気付きを生み、そこからつながる活動の強いモチベーションを与えます。

一般的には主観を排して客観的に判断することが良しとされることが多いですが、今回お話したように主観はこれからますます重要性が高まります。もちろんこれは客観性を軽視するものではなく、使い分けや主観の採用リスクを理解していることは前提になります。その上で、主観を使いこなすこと、主観を通す勇気を持つことがAI時代のクリエイティビティにつながると考えられます。

(主観を通したアクションの具体例は今後書けたら記事にします…)