「詳説 ビジネスと人権」出版記念全国キャラバン(大阪)報告

思うところがあり2年間休止していましたが、本日よりnoteを再開いたします。
再開1つ目は、先日大阪で開催した”「詳説 ビジネスと人権」出版記念全国キャラバン(大阪)”の報告です。

昨年4月、日弁連国際人権問題委員会が「詳説 ビジネスと人権」を出版しました。文字通り同分野についての概説書であり、執筆者は弁護士会内でも特にこのテーマに精通した人たちです。

日弁連国際人権問題委員会が同書出版を記念した全国キャラバンを実施しており、縁があって自分が渋谷元宏先生と共に、大阪弁護士会での企画を担うことになりました。

https://www.nichibenren.or.jp/library/pdf/event/year/2023/230329_2.pdf

当日の内容は以下のとおり。
1 「日本企業における「ビジネスと人権」の現状と課題」
  講師 蔵元左近弁護士(日本弁護士連合会国際人権問題委員会幹事)
2 報告「ミズノ株式会社における「ビジネスと人権」の実践」
  講師 ミズノ株式会社 法務室 安達盛光 氏
3 ディスカッション

数年前からこのテーマに関心を持ち、官民様々な団体や組織が主催する学習会に参加してきました。しかし各種法律誌やビジネス誌で取り上げられるほどメジャーなテーマになっている現在でもまだ、原理原則を抽象的に解説する内容のものが多く、企業現場で実際に取り組まんとしている実務者たちのニーズに応えていないのではないかという問題意識を常々持っていました。
経産省外務省が実施した「日本企業のサプライチェーンにおける人権に 関する取組状況のアンケート調査」 を読むと少なくない日本企業が、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」が企業に求めている3つの行動のうち、(1)人権方針の策定については相当程度進んでいるものの、(2)人権デュー・ディリジェンスの実施と(3)救済メカニズムの構築については未だ戸惑っている様子が見て取れます。この調査は2021年に実施されたものですが、2023年現在でもそれほど状況は変わっていないものと推測しました。

「日本企業のサプライチェーンにおける人権に 関する取組状況のアンケート調査」 集計結果
https://www.meti.go.jp/press/2021/11/20211130001/20211130001-1.pdf

そこでせっかくの機会を頂いた本企画は、法務部等で「ビジネスと人権」実務を担当しているものの様々な課題に直面している人たち、そういった現場の人たちをサポートする方法を模索している弁護士たち(國本自身を含む)が、上記(2)(3)を進める上での具体的な指針を持ち帰って貰えるイベントにすることを基本コンセプトとしました。

さて(3)救済メカニズムの構築については、日本の弁護士の中でも講師の蔵元さんが第一人者なので、後回しにされてきたこのテーマできっちり報告してもらうだけでも従来の同種企画とは差別化できたし、実務従事者たちのニーズに一定応えることが出来たのではないかと考えています。具体的な実施については、もうお一人の報告者である安達さんが言っておられたように、ミズノさんのようにかねてから依頼を重ねている外部委託先を持っている企業なら引き続きそこを利用すれば良いでしょう。しかしどこから手を付けたら良いか分からないという段階の企業や担当者さんは、とりあえず蔵元さんが代表理事をされている一般社団法人ビジネスと人権対話救済機構(JaCER)に相談すれば良いと國本は考えます。今回は講師という立場もあり、蔵元さんご自身はJaCERの宣伝になる表現は避けていましたが、国内での知見はもとより、国外で実績ある各種団体に関する情報や知見もいま現在日本でここより持っている団体や組織はないと思うのです。

そして(2)人権デュー・ディリジェンスの実施に関しては、予想どおり、安達さんの講演に大変な反響がありました。
ミズノさんの実践については、週刊東洋経済2021年9月25日号に「実習生を雇用する工場を対象にミズノのCSR担当者が監督員として訪問。CSR監査を実施」と紹介されています。この「CSR担当者」が安達さんです。
「ビジネスと人権」は、直接の契約当事者に対してのみ法的責任を負う古典的法原理を超え、直接契約関係のないサプライチェーン上での出来事についても企業に対し責任を求める新しいコンセプトです。その建前どおりであるとはいえ、サプライチェーンの頂点にいるメーカーの法務担当者が自らチェーン末端の生産現場を訪問し、そこで働いている技能実習生から直接聞き取りをして実態調査していることを事前打ち合わせで聞いたときは衝撃でした。イベント当日は、安達さんご自身がヒアリングされたリアルな実態が技能実習生の方々が暮らしている各種寮の写真と共に報告され、参加者のアンケートを見ても大変参考になったとの声が多数寄せられました。
ミズノさんは公式ウェブサイトでも詳細なレポートを公開されており、ともすれば「うちにはとても真似できない」と思われかねないところ、安達さんの口から具体的な実践を伴って報告されたことで、参加者の皆さんに自信と勇気を与える結果になっていればいいなと考えています。

また技能実習制度については、労働組合その他市民団体からの発信はこれまでも多数あるところ、企業サイドから問題提起されることは珍しく、その点でも画期的な内容になったと思います。

なお本年4月10日、政府有識者会議が現行技能実習制度の廃止と新制度への移行を提案しました。日本における生産構造と外国人労働者の労働生活環境を「ビジネスと人権」基準に則したものにすることが喫緊の課題であるとの認識は、ひとりミズノさん及び安達さんのみのものではなく、産業界の共通認識というべき段階に入っているのだと言えるでしょう。

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