「ビジネスと人権」最近の学び備忘的雑感

にわかに「ビジネスと人権」が脚光を浴び、あちこちでその概念に触れる機会が増えたものの、2023年夏現在、具体的な実務ノウハウは大手コンサルティングファームとごく一部の専門家のもとに集中しており、弁護士として自分が知りたい情報にはまだ容易にはアクセスできないと感じています。
そんな中で自分にとってエポックメイキングだったのは、日弁連キャラバン担当者を務めることとなり、国内第一人者の蔵元さんと先進企業であるミズノ株式会社の知見や取り組みに間近で触れる機会を得たことでした。

今年それに次ぐ機会になったのは、蔵元さんのツイートをきっかけに鎌倉サスティナビリティ研究所の「『ビジネスと人権』講座(基礎):シリーズ3」を受講したことです。

一般財団法人JP-MIRAI サービスの中尾洋三さんが講師を務められた第3回講義「責任ある外国人労働者受入れにむけて」は特にインスパイアされるところが多く、自分の中で未だに情報と思考の整理が追いついていません。とりあえず現時点での整理と試みることが、本稿の目的です。

中尾さんの講義内容は、基本的にはJP-MIRAIが展開しているサービス内容の解説で、それだけでも情報量が多く興味深いものでした。

その中でも印象に残ったのが、JP-MIRAIが日本で働く外国人労働者向けに作成しているチラシをサービス利用企業とそのサプライチェーンの現場で配布するよう働きかけているという話です。と同時に、JP-MIRAI のサービスを利用することで利用者企業にとってJP-MIRAI が公益通報者保護法が想定する相談先・通報先になり得るという話でした(同法11条に規定する「公益通報対応業務従事者」に該当するものと自分は理解しました)。
上記リンクに掲載されているようにJP-MIRAIと契約してそのサービスを利用するのは、発注元や元請けになるような大手企業です。そこで自分は中尾さんに、サービス利用企業が下請企業やサプライチェーン企業と契約締結する際に、その契約書の中にJP-MIRAIを通報先として利用することも書き込むのかと尋ねました。中尾さん曰く、契約書に書き込むことまではしていないが、JP-MIRAIが用意している「承諾書」をサービス利用企業に交付して、その利用を促しているとのことでした。法的効果はいずれでも同じだろうと自分は考えます。

前述の日弁連キャラバン大阪に登壇してくださったミズノのご報告では、発注元である同社の法務担当者がサプライチェーンの川上企業で働く外国人労働者と直接面談してヒアリングしている点が先進的でした。ただミズノほどの大企業でも、サプライチェーン各企業の自律性を尊重し、丁寧に対話と合意形成を進めてCSR監査を進めているとのことです。この点、サービス利用企業に対し、「承諾書」を介してサプライチェーンや下請など取引先企業との合意形成を促しているJP-MIRAIの手法とよく似ているなと思います。

またJP-MIRAIの中尾さん曰く、人権デューディリジェンス(いわゆる人権DD、国連「ビジネスと人権」指導原則第2の柱)による人権侵害の予防効果を重視しているとのことでした。JP-MIRAIのサービスは、日本企業に対し、国連「ビジネスと人権」指導原則第3の柱である救済へのアクセス(グリーバンスメカニズム)を実施する手段を提供しているところが画期的かつ先進的だと思います。しかしながら当該サービスを提供している中尾さん自身の認識としては、そのサービスを通じて人権DDの促進と予防効果の発揮を狙っていると言うのです。最も立ち後れていると言われてきた救済アクセスの実施が着手され始めた結果、人権DDとの連動が見え始めたところが興味深いなと思いました。

なお日弁連キャラバンを主導する蔵元さんが代表理事を務める一般社団法人ビジネスと人権対話救済機構(JaCER)は、日本国内において救済へのアクセス(グリーバンスメカニズム)を担う組織としてJP-MIRAIと並ぶ双璧なので、ここで紹介しておきます。


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