里帰り
──東京の夏は暑いでしょう。こっちはいくら猛暑だ、熱帯夜だといってもねぇ、扇風機だけで十分涼しいし、それにお盆を過ぎてしまえば夜は少し肌寒いくらい。東京よりよっぽど過ごしやすいわよ。
電話口で、還暦をまわったばかりの母が一気に話す。遠方から北国に嫁いできた母は、まったく訛りがなく澄んだ声をしている。
一方、私は北風が歯にふれないよう、もごもごとした声で返した。
「でも、実家に戻ったところで部屋がないんじゃない?」
──心配しなくて大丈夫。これからおばあちゃんの部屋を片付けるわ。一周忌も終わったことだし、そろそろ整理しなきゃと考えていたところ。あなたが戻ってくるなら、ちょうどよい機会よ。
それならば、とまだペタンコなお腹をさする。
地元で産んだらどうだと言わない母も。
今年は涼みに帰ろうかなと答える私も。
素直じゃない似た者同士だと思い、電話を切ったあとすこし笑った。
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