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いや、そんなん知らんし。


二つほど思い出した。
いや、そんなん知らんし、ってエピソード。

教えた覚えはない

とあるアパレル会社に中途入社したとき。
大阪は船場の婦人服メーカー。
そこの本部長の下で人事の責任者として採用されたんだよね。
丁寧に案内してくれる人がいないので、
まずは自分で周りの人の名前から覚えていこうかなという初日の段階でね。

経理の60代くらいの男性のところに、
営業社員たちが現金出金にやってくる。
彼らはそのたび男性に話しかける。
「部長、おはようございます。」
「高井部長(仮名)、清算お願いします。」
なるほど、この男性は経理の高井部長ね。
話しかけてみる。
「高井部長、こちらのファイル、お借りしてよろしいですか?」
「おー、ええよ。」
よし、名前を覚えた。

しばらく事務仕事をやってると、
高井部長が部屋を出て行く。
すると僕の隣に座る本部長が僕に、
「あの人は先月定年したんや。
今月から嘱託になってるから部長と違う。
高井さんや! 高井部長って教えた覚えはない!
なぜか半ギレで言ってくる。

知らんがな!
あんた、事前に僕にあの人のことを『高井さん』と教えたわけでもないやん。
それ、あと出しやん。
あれほど既存の社員が高井部長高井部長言うてたら『高井部長』やと思うやんね。
なんでそこを注意せんのや?え?

って言葉を飲み込んで答えたよね。
「そうですか、わかりました。」


挨拶がない

広島にいた頃、英会話スクールのキャンペーンで
ある大手の書店の店頭をお借りしてた。
小さなブースを設けて、
前を通る人に話しかけ、
アンケートを取ったりスクールの案内をする業務でね。
書店に行くとまずはバックヤードで簡単に挨拶をしてから、
お店の中の決められた場所にラックを設営する。

当時のターゲットは20代30代の女性。
もちろん書店なのでさまざまな人がやってくるよね。
制服を着て楽しそうに会話しながら歩く女子高生たち。
190センチくらいあろうかと思われるサラリーマン。
なんか毎日来るんだよね。
ランニング途中なのかジャージ上下でやってくる男性。
そんな対象外の人たちの波をかいくぐって
20代30代くらいの女性を見つけ出しては声をかける。
「こんにちわ〜。」
「こちらアンケートお願いしま〜す。」
「図書券が当たりま〜す。」
あ、アンケートに答えると抽選で図書券が当たったりもするわけ。

ある日のこと、
めずらしく上司から連絡が入った。
書店さんからクレームが入ったんだとのこと。
お客さんに対して何か失礼があったとか、
説明した内容に不備があったとか、
そういう場合にお客さんから書店にクレームが入るというのは時々あること。
でも今回は違うらしい。
書店さん側からうちの会社へのクレーム。
それが、
『店長に挨拶がない』というもの。
慣例だとはいえ、
入店時にバックヤードで挨拶はするけれど、
わざわざ店長さんのところまで行くことはない。
それをいまさら『挨拶がない』と。

しかし
よく聴いてみると、それじゃないんだと。
店長がブースを通りかかるときに挨拶がないんだと。

いやいや、ちょっと待って!
店長が誰かとかそもそも知らんし。
たまたま通りかかったからって、
そんなんわかるわけないし。

店長室に通された。
そこにいたのは190センチのサラリーマンだった。
対象外だった。

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