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信長 獅子の生 四

獅子の生

道三との同盟の果実は確かに在った。
豪族は信長に対して及び腰になり、
信長はその間に着々と銭を蓄え、兵を登用した。
新兵は、信長自らが鍛えに鍛えた。
兵達からは、死の調練と言われたが、
文字通り、死すれすれまで鍛えあげた。
今までよりも、豪族の内乱は幾らか少ないが、
治める領地はまだまだ小さい。弱小大名なのだ。
ひとりひとりを強くしていく他、
生き残る道はない。

美濃に不穏の空気あり。
かねてより小競り合いが続いていた道三と、息子の義龍の間柄が悪化しはじめた。
もう信長の援軍どころではないと噂が立ち始めると、豪族達ばかりか今川までもが、
尾張のなかを荒らすように、なってきた。

鍛えた精兵を伴って、西へ東へと転戦した。
今川勢の村木城を落とし、
叔父の信光とともに、織田信友を討って、
清洲城を奪取した。

これでようやくひと息つけるところに、
乱破より急ぎの報告があった。
斎藤義龍、動く。
美濃の豪族達と組んで大軍を組織し、
稲葉山城を包囲したという。
兵の数を考えれば、道三に勝ち目はない。
籠城したとて、日干しにされて終わるだけだ。

あの男が死ぬのか。
あの、まむしの道三が。
呟いてみたが感傷に浸るいとまはない。
今何を為すべきか。

道三は死ぬ。
間違いなく死ぬ。
義龍は必ずしも信長に好意を抱いてはいない。
とりあえずの安泰を保っていた美濃境への攻撃について、憂いが出る。
であれば道三に合力して、義龍に牽制だけはしておくべきだ。
あわよくば美濃の何郡か、かすめ取れればなお良い。

すぐさま軍を組織して、美濃へ向かった。

国境を、越える。
外の国で俺の軍はどれほどのものか。
天下にはどんなに強い軍がいるのか。
どんな軍だろうと、蹴散らしてやる。
すまぬ、道三。
いつか義龍の首をとってやる。
いつか、天下を取ってやる。
地獄で俺の天下を、その目に焼き付けよ。

雨が降り出していた。
進軍が遅れれば美濃侵攻の意味をなくす。
美濃境まであとどれほどか。
苛立ちを隠さず、信長は叫んだ。

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