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マイクル・コナリー(Michael Conneliy)の「ブラック・ハート(THE CONCRETE BLONDE )」を読む

「ブラック・ハート」を読み飛ばしてしまった、と思い込んでいた。カミさんに確認したら「読んだ、面白かった」と言われ自分は再読しなかったんだと思っていた。それで読み始めたのだけど、他の本と違い本書はあちらこちらシーンに覚えがある。コナリーの本は概ねでるやいなやすぐに読んでいるので25年以上も昔のことですっかり忘れてしまっているのに、この本は主人公たちの会話やシチュエーションが具体的によみがえるのはどうしてだ。おかしい。そう思って読書メーターの記録を調べてみたら「ブラック・ハート」ちゃんと「ブラック・アイス」に続けて2020/06に再読していました。飛ばしていたのはレビュー。そして再読した事実を忘れたということらしい。2020年度初めは職場環境が変わりどたばたした最中で、そんななかで忘れてしまったようです。

しばし自失茫然であります。読んだ本をすべて記事にしているわけではないのだけれどもコナリーの本を読んで記事にし忘れるとは。よっぼどこの時期テンパっていたに違いない。

あちらこちら覚えている部分はあったものの、だれが犯人だったかし結局忘れていた。1年ちょっと前に読んだ本なのにだ。こうして考えると僕はもの凄い勢いであらゆるものを忘れていっているらしい。忘れる力を「老人力」と呼んでいる人がいたっけな。その意味で僕はすごい力を備えているのかもしれない。一方で、読書メーターやブログなどに読んだ本や出来事を書き散らしておくというのはとても大切であるということを身に染みて感じました。そうでもしておかないと何も思い出せないままになってしまう。

前置きが長くなりましたが「ブラック・ハート」はシリーズ三作目。1994年の作品。原題は"THE CONCRETE BLONDE"コンクリートで埋められたブロンドの死体が事件の発端となっています。お話はシリーズ第一作「ナイトホークス」よりも前に遡る。第一作でボッシュはロサンゼルス警察本部強盗殺人課の刑事からハリウッド署の殺人課へいわば左遷されたばかりだったのだが、それは本部で特別捜査班を組んでいたドールメーカー事件の捜査の中でボッシュが単身容疑者とおぼしき人物の部屋に押し入り当事者を射殺してしまったことによるものだった。ドールメーカー事件は犯人が殺した女性の顔に死化粧を施していることから名付けられた名称であった。わかっている範囲で10名以上の女性を殺していた。

頭髪も体毛も一切ないその相手は全裸でベッドのわきにたたずんでいた。「警察だ」「動くな」と叫んだにもかかわらず相手はベッドの枕元に手を伸ばして何かを取り上げようとし続ける。ボッシュはやむなく発砲。容疑者はその場で死亡した。枕元を確認したボッシュの目に飛び込んできたのはカツラだった。この男の部屋からは殺された女性たちが使っていた化粧品と同じものがでてきたことから真犯人であることが間違いないとされ事件は解決した。

4年後、ボッシュは今、ドールメーカー事件の真犯人とされたノーマン・チャーチの妻から過度の実力行使をしたとして訴えられ裁判を受けているところであった。実際の被告はロサンゼルス警察であるのだが、この裁判に負けるようなことがあればボッシュの立場も危ういものとなる。しかし、このノーマン・チャーチが真犯人であると信じて疑っていないボッシュはそれほど心配はしていなかった。メモがとどくまでは。


上司のハーヴェィ・バウンズから裁判の合間を縫って事件現場に来てほしいと呼び出しがかかる。裁判中なので事件捜査を担当することはできないが、事件現場をみて参考意見を聞きたいのだという。その事件現場は警察署の受付窓口に何者かがおいていったメモに示唆されていたものだという。

そのメモはボッシュに宛てられたものであり、ドールメイカーがいまだに娑婆を闊歩している。その証拠に新たな犠牲者のり死体のありかを示した地図が添えられていたのだという。

かつてはビリヤード場であったその建物はロス暴動の際に完全に焼け落ちていた。本来であれば瓦礫の山となった建物は撤去されるぺきだったものだが、そのままの状態で放置されていた。犠牲者の死体はこの建物の土台部分の隙間に押し込まれ上からコンクリートが流し込まれていた。ミイラ化した遺骸はブロンドに染められ豊胸された形跡があった。そしてその足の爪には白い小さな十字がペディキュアされていた。それはドールメイカーの仕業であることを示す重要な手がかりだった。その十字について捜査の間は公にされていなかった。

問題はこの被害者が殺されたのはチャーチが死ぬ前なのか後なのか・・・。そしてメモ。明らかに利き手ではない方の手で書かれたメモは稚拙な韻を踏んだ詩のような内容になっていて、直接ボッシュに語り掛ける内容となっていた。それは紛れもなくドールメーカーの仕業だった。

ボッシュについた弁護士は裁判の延期を求めるが判事はこれを一蹴。継続審議となる。原告側の女性弁護士ハニー・チャンドラーは警察を憎んでいるような人物で、ボッシュがチャーチを射殺し部屋に化粧品を置いたと考えており、徹底的な断罪を下そうとしているのだった。チャンドラーは売春婦を殺した犯人に対する過剰な暴力はボッシュの生い立ちに由来するものでいわば私怨を晴らすために発砲したのだとして彼の過去を並べ立て心の傷口を踏みにじってくる。


証拠を残さないために全身の体毛をそり落とし、偽名で借りた部屋には殺された女性たちが持っていたものと同じ化粧品があったというのは強い疑いを持たせるものではあるものの事件と直接つながる証拠にはなっていなかった。


果たしてノーマン・チャーチは本当にドールメーカーだったのか。本書はこのボッシュの銃撃の正当性を問う裁判の行方と、新たに浮かび上がった犠牲者を殺した犯人を追うボッシュ。裁判は予想外の証人の出現によりボッシュ劣勢の展開に陥り、新たな事件はドールメイカー事件の隠れていた別な側面が明らかになっていく。物語は二転三転。手に汗握る怒涛のラストへと突き進んでいく。面白い。何度読んでも楽しめる一冊です。

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