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誰よりも優しい同郷のロックスターへ

*長々と書き連ねましたが、僕の本当に言いたいことは最後にラブレターになっています。

ただロックが好きというだけの人が、ロックンロールであり続けることはとても難しい。自分自身がどんどん身軽じゃなくなっていく中で、奥底の最初に手に入れたど真ん中のものだけを手放さない様に生き続ける。理性より先に感覚でそれだけを信じぬいて、それがどうにかなるなら他の「それなりに大事なもの」も含めていつでも手放せる様にあり続ける。大事じゃないものを捨てることすらためらいがちな人生でそこまでの覚悟を持って転がり続けることは並大抵のことじゃない。少なくとも僕は自信がない。

プロのロックバンドはそうあり続ける。食事をする様に酒を飲むように、呼吸をする様にロックンロールであり続ける。誰もが当たり前にとんでもないヒーロー達だ。
そんな人達が集まって音を鳴らしているのだ。いつでも転がり続ける彼らにとって、脱退や解散は何も悲しい話じゃない。自分の「真ん中」がずれてしまうと考えた時、そこから転がりだすしかないからだ。複数人が音を鳴らして共鳴するバンドなんてものはもはや奇跡みたいなもので、続かないことこそ普通と言ってもおかしくないくらい。
それでもファンからしたら悲しくて、ずっとみんなで音を鳴らして欲しいななんて思ったりもする。ファンにとっては、呼吸をする様にそこにいる存在であってほしい、そんな幸せなことはないのにと願ってやまないのだ。

☆☆☆

日本でロックバンドを聞く様になって、彼らの名前を知らない方が難しいと思う。齢28の僕の世代は、ELLEGARDENがFunny Bunnyをカバーしたことで知った人も多いのではないだろうか。多分僕も最初はそれだ。
高校生の時に、アルバム「MY FOOT」がリリースされ、僕は初めてちゃんとthe pillowsを聞くことになる。
失礼だけど、「あ、まあいいな」それくらいの感想だった。普通に好きなバンドだな、それくらいの感じで、そこから掘り下げたりはあまりしなかった。結構その頃から僕はベースという楽器に何故だかとても惹かれていて、ど真ん中のギターロックにはそこまで入り込まったのかもしれない。

☆☆☆

大学に入り、サークルで出会った親友は最初からずっと言っていた。一番好きなバンドはthe pillowsだと。彼は所謂バスターズだった。彼と意気投合した僕は、ちゃんと準備して、万全のメンバーで万全の体制でピロウズのコピーバンドを組む約束をした。純粋な興味もあれば、かれの期待に全力で応えられるプレーをしなければならないとも思った。僕は実際にバンドをやるより大分前からピロウズを聞き進めることになる。


誰かになりたいわけじゃなくて 今より自分を信じたいだけ
世界に押し潰される日まで 言いたいことを言ってやるんだ
審査員は 自分自身の他に誰もいらない
(the pillows/New Animal)

嫉妬という感情はどうしても消えないと思う。何かに憧れたり、今いる所からもう少し先の所に行ってみたかったり。その気持ちのキラキラした部分だけをうまいこと抽出して自分に染み込ませられる人は一体どれだけいるんだろう。
甘えたがりな僕は良く人に嫉妬する。なんだけど嫉妬する自分なんて凄くかっこ悪いとも思っていて、出しちゃだめだと必死に自分に言い聞かせながら生きていた。
この曲を聞いた時、やっぱりそれでいいんだと思った。誰かに何かを思うのは、僕が自分を信じ切れてないからだ。僕だけの問題だ。そんな僕の気持ちを誰かにぶつけるなんて、それが一番かっこ悪いから、やっぱり自分に言い聞かせなきゃダメだな、素直にそう思った。
僕が生まれる前からロックンロールをやり続けてる彼らがそうやって言ってるのだ。同世代にスターが多い彼らだ、僕なんかよりもっと強い気持ちでそんな嫌な気持ちになったことばっかりだと思う。でもそうあっちゃいけないってわかって、やり続けてるんだ。そんな人達に言われたら、僕だってそうするしかない。少しだけ、かっこよくしてもらえた。そんな気持ちだった。


たとえ世界がデタラメで 種も仕掛けもあって
生まれたままの色じゃ もうダメだって気づいても
逆立ちしても変わらない 滅びる覚悟はできてるのさ
僕は Strange Chameleon
(the pillows/ストレンジカメレオン)

何しろ彼らの曲はめちゃくちゃにあるのだ。深みにはまっても聞くものには困らない。
この曲、インタビューを探せばいくらでもさわおさんが答えているけど、ピロウズにとって相当大きな意味を持つ曲だ。ラブソングじゃない。
中々セールスが奮わない状態で活動が続き、業界の色々な人達の意見を聞いたアルバムもうまくいかず。閉塞感の中で彼らがリリースした曲だ。

正に、自分達を今一度信じて出した曲だ。

この曲には雑音がない。

恐ろしい程の苦悩や葛藤があって、怒りたい相手もいただろう。世の中を恨みもしたと思う。何故わからないんだとも思ったかもしれない。

でも、そういうことじゃなくて。

例え自分達の信じてるものが大きなものに届かなかったとしても、それはそれで受け入れることだと悟った様な。しょうがないや、が近いのかもしれない。だって真ん中のところは変えるわけにはいかないから。世の中より自分を信じた。それだけだ。肩を震わせながら怒りをかき鳴らしたわけじゃない、これが自分だ、というものを心から受け入れて、それをさらけ出した曲だ。

勘違いしないでね 別に悲しくはないのさ
抱き合わせなんだよ 孤独と自由はいつも
(the pillows/ストレンジカメレオン)

誰かを恨むことも怒ることも全て超える。
その先で、諦めることも超える。開き直りでもない。「結局、こうなったんだ」、それだけの所に辿り着いて、シンプルなロックを掻き鳴らす。

どれほどの人達を救っただろう。

彼らがありのままの自分達を受け入れたことが、その時も、今も尚、どれほどの人達を救い続けているのだろうか。
少なくとも、ここに一人。

ピロウズは、バンドマンに好かれてるバンドだと自分達でも自負している。実際物凄く愛されているけど、それってきっと、彼らが全てを愛するしかないで生きてるからなんだよな。全てのロックバンドがその素直さに惚れてしまったんだろう。


2019年、結成30周年イヤーに地元北海道で開催されたライジングサン。
アンコールは、ストレンジカメレオンだった。


☆☆☆

行こう昨日までの君を 苦しめたもの全て
この世の果てまで 投げ捨てに行こう
(the pillows/この世の果てまで)

僕が、人生で一番好きな曲だ。

社会人2年目の夏、大学の友人も北海道まで来て、一緒にライジングサンに行った。バスターズの友人も来ていた。
あらゆることに追い詰められている中で見たピロウズが、この曲を演奏した。

本当に、本当に号泣した。「いいんだよ」と言ってもらえた気がした。
プロのライブでそこまで泣いてしまったのは、初めてだった。

上手く行かない辛い時は、色々考える。実は上手く行かないことが辛いわけじゃない。「上手くいくはずなのに」と思って、あれをこうするべきだったとか、こうできたんじゃないかとか、考えてしまうから辛い。真面目な人ほど尚辛い様に世の中は出来ている。
きっとピロウズと僕が友達で、相談をしたら真剣に返してくれるとは思う。そこはお前が悪いとか、もっとやってみてからだろとか。でも同時に全然厳しくなり切れてなくて。もうわけわかんないけどただ辛いんですって、何が辛いのかもわかんないです、でもピロウズが好きですって言ったとしたら。
きっとああもうしょうがねえな!つって元気出せよ!って言うんだろうなと思う。というか、言っちゃうんだろうな、きっと。
今目の前で辛いのが嫌だから、元気出せよ!って感じで。甘いな俺も!とか言いながら。

この曲もそうで。「こうだから」とか、「こうして」とかじゃなくて、どうにかして救おうとするわけでもなくて。

ただ、投げ捨てに行く。「辛さ」の理由になってるもの全て、ただ、投げ捨てにいく。過程も理由もぶっとばして、ただ目の前のあなたを、僕を救いに来る歌だ。訳が分からなくなっていた僕をただ救いあげてくれるのが、身近な人ではなくステージの上のロックスターになるとは僕は全く予想していなかった。

☆☆☆

夢うつつ 手懐けて
自由自在 気分次第
脳細胞の支配下で 王様になれ
(the pillows/王様になれ)

2019年、結成30周年だったthe pillowsは、さわおさんの目論見でオリジナル映画「王様になれ」を公開する。数年前にリリースした曲と同名の映画で、主題歌も勿論その曲。バンドの映画にしては珍しく、ドキュメンタリー映画ではない。冴えないカメラマンの主人公が自分の人生の中でピロウズと出会い、憧れながら人として成長していくというストーリーだ。
正直、見る前はピロウズファンなら楽しめるのかな、くらいの感覚だったけど、しっかりといい映画だった。
別にピロウズじゃなくてもよくて、何かの表現に圧倒されどうしようもなく好きなものがある人全員に刺さる映画だ。

この曲について、映画について、さわおさんのインタビューをいくつも読んだ。
誰もが自分の人生の王様であればいい、そんなことを言っていた。
肩の力が抜けるギターリフで、きっと心から納得が言ってるからだろう。ご機嫌に前向きに。この曲は僕らに前に進む力をくれる。


☆☆☆


拝啓、the pillows様、山中さわお様、30周年おめでとうございました。僕が生まれる前からロックで人を救い続けてきたなんて、とんでもなく徳を積んでいらっしゃいますね。

僕も救われました。初めて出会ってから10年も経とうかという頃に、突然に救われました。理由や理屈で生きていた中で、全ての因果関係を無視して目の前の悲しい塊を投げ捨ててくれたのはあなた達でした。この世の果てまで全てを投げ捨ててくれたのは、紛れもなく高いステージにいて僕と目も合わない存在のあなた達でした。

誰よりもバンドマン達に愛されているあなた達だからでしょうか、背中を押してくれる曲ばかり歌いますね。愛されることでどれ程満たされるかというのをわかってるからなのかな、とか思って聴いていました。
でも多分、違うんですよね。あなた達がどうしようもなく愛することをやめなかったからなんですよね。そのせいで孤高のロックスターのイメージから少し外れることになったとしても、どうしても愛から逃げ出すことができない自分達を受け入れてそこでロックンロールを鳴らし続けたから、それがあなた達にとっての本物だとみんな感じだから、結果愛されてるんですよね。愛は与える方がいつだって先ですから。今それだけあなた達が愛されてる理由なんて、もうそれ以外ないですよね。

最近ようやく、僕も肩の力が抜けてきました。
大事にしなきゃいけないものがあまり多くないことも、そうじゃないものは同じ景色を見ていても違う世界に生きているんだということも、言い聞かせる訳ではなく自然に体に染み付いてきました。
僕もようやく僕の物語に生き始めたのだと思います。僕も僕の世界の王様であり続けますが、それってとても大変なことですよね。国民全員を愛して守る覚悟を持ち続けなきゃいけないなんて。
だから僕の国は最終的にとても小さくなりました。僕の両手の中だけにするしかなかったんです。でも門はいつでも開けています。色んな人と出会った方が楽しいですもんね。嫌いなものすら好きなものを好きに思うためだと考えると、ちょっと必要だなって思っちゃうくらいです。

あなた達の国はとても大きくて、王様でいるのも大変なくらいだと思います。先頭に立つ人にとって、優しさは結構重たいものです。そのせいで身軽になれない時もあるのかなと思います。
しょうがねえな!なんて優しさは、気づいた時だけでいいと思うんです。どうしたってそもそも丸ごと愛してくれる人達だから、自分達のさじ加減で生きてくれればそれだけで大好きです。そうやってずっとやってきたあなた達に今更僕が言うことじゃありませんが。

ずっとロックスターであり続けていてくれて、本当にありがとうございます。どんな気持ちになった時も、あなた達の歌の中に僕の聴きたい歌は必ずあります。自分の気持ちをどこかに持っていきたい時に聞く曲も沢山あります。悲しくて辛い時はこの世の果てまでを、何かを始めるときはアナザーモーニングを、自分だけを信じたくなったときはBlues Drive Monsterを。

僕の生活に、あなた達はもはや当たり前にいます。もはや日常なんです。刹那的であるのが当たり前のロックンロールが、変わらずにあるなんて、そんな感動あるでしょうか。ロックンロールと日常が共にあるなんて、僕は考えたこともありませんでした。でも、それをあなた達がやってくれたんです。それはきっと、僕にとっても、僕の親友にとっても、僕の知らないあの日拳を振り上げていたバスターズにとっても。とても素敵なことなんです。

これはロックスターにとってとても失礼な話です。嫌われてもしょうがないと思ってます。ですが、願わくばこれからも僕の思うヒーローであり続けてはくれませんでしょうか。いや僕はきっと、そうなんだろうなと思ってるから言えるんです。全く卑怯な話です。
ロックンロールに重荷を負わせることなんて、全く不誠実ですよね。それでも優しいあなた達に、僕はどうにかすがってしまうんです。これからも、気が向いた時だけ救ってください。どうせ何かでいつもこちらは救われているので。

これからも、よろしくお願いします。
同郷のロックスター達へ。大好きです。


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